個人事業者の所得拡大促進税制の活用
はじめに
税理士にとって最も多忙な時期である個人の確定申告が始まります。税理士事務所においても、確定申告終了後に頑張った事務所職員に対して特別ボーナスを支給するケースも多いようです。
平成29年度税制改正では、個人事業者の収益の拡大が雇用の増加や賃金上昇につながり、それが消費や投資の増加に結び付くという経済の「好循環」を強化するため、所得拡大促進税制における個人事業者に更なる賃上げインセンティブを与える機能を強化する観点から、高い賃上げを行う個人への支援が強化されました。
そこで、本稿では、個人事業者が所得拡大促進税制を適用する場合における留意点について解説します。
Ⅰ 制度の概要(措法10の5の4①)
青色申告書を提出する個人が、平成26年から平成30年までの各年(事業を廃止した日の属する年を除きます。)における雇用者給与等支給増加額の基準雇用者給与等支給額に対する割合が増加促進割合以上である場合において、次に掲げる適用要件のすべてを満たすときには、その年分の総所得金額に係る所得税から雇用者給与等支給増加額の10%相当額の特別税額控除ができます。
ただし、特別税額控除額については、その年分の調整前事業所得税額の10%相当額(中小事業者については、20%相当額)が限度とされます。
① 増加促進割合について適用年が平成29年である場合には4%(中小事業者:3%)及び平成30年である場合には5%(中小事業者:3%)以上であること。
② 雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以上であること。
③ 平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を上回ること。
Ⅱ 平成29年度税制改正
(1) 平均給与等支給額の増加要件の見直し(措法10の5の4①二ロ,措令5の6の4⑯)
中小事業者以外の個人について、平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を超えることとの要件が、平均給与等支給額から比較平均給与等支給額を控除した金額(以下「平均給与等支給増加額」といいます。)のその比較平均給与等支給額に対する割合(いわゆる「賃上げ率」)が2%以上であることとの要件に見直されます。
また、中小事業者以外の個人の平均給与等支給額に係る要件につき比較平均給与等支給額が零である場合には、その要件を満たさないこととされます。
(2) 特別税額控除率の上乗せ(措法10の5の4①)
特別税額控除額について、賃上げ率が2%以上である場合には、雇用者給与等支給増加額の10%と雇用者給与等支給増加額のうち雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額に達するまでの金額の2%(中小事業者:12%)との合計額とされます。
(3) 適用関係(平成29年改正法附則48)
上記(1)及び(2)の改正は、個人の平成30年分以後の所得税について適用され、平成29年分以前所得税については、なお従前の例によります。
(今月の税務トピックス②につづく)