日本を代表する自動車メーカーの1つH社は65歳定年延長に伴い選択定年制の導入、退職金制度の改定などに取り組んでいます。
その背景は、65歳まで就労を希望する従業員がいる一方で、60歳で退職を希望する声もあり、60歳以降の就労意識は多様化していることにあります。その概要を紹介しましょう。
[選択定年制の導入]
定年年齢を延長するに当たり、対象者が定年時期を60~65歳の間で自由に選択できる選択定年制を導入した。
個々のニーズに合わせて定年時期を自身で決定できる制度。
・自身の健康面や家族の状況などは都度変化することを考慮し、一度決めた定年年齢につき、1年ごとに意向を確認、変更を受け付ける仕組み。具体的には、55歳時点で定年時期の意向を確認し、59歳時点で定年時期を決定。直近1年以内の定年を選択した場合は変更できないが、1年以上先の場合は年に一度、申告した定年時期を変更することができる。
[退職金制度の見直し]
・定年年齢の引き上げにより、退職金カーブの見直し。60歳を頂点としていた積み上げカーブを、65歳を頂点としたラインに引き直した。ただし、60~64歳の間に退職する場合も、選択定年制という意味合いから、65歳時点と同水準となるよう、差額分については一時金(選択定年一時金)で補填。年金化できる額としては差が生じるが、一時金ベースでは60歳~65歳は同水準。
なお、今回の改定に当たり、確定拠出年金(DC)も導入。掛金は等級ごとに一定額、DC移行分は退職金全体の約1割相当。
[更なる主体性の発揮を促す]
創業当時から能力・実力主義の考え方をベースとし、職種や学歴によらない一本の処遇体系を運用してきた。今回の改定では、従業員一人ひとりに能力発揮を促すためにも、その考え方をさらに推し進め、主に、等級の統合、給与設定ルールの見直し、自動昇格の廃止を行った。なお、評価制度には大きな見直しは加えていない。
このように、定年延長は、広く関連人事制度の改定、施策の実施を伴い、それらがバランスよく、整合的に整備されてはじめて機能するもので、社員の意識改革が不可欠な重要な内部環境整備・強化の施策です。