【時事解説】初任給大幅引き上げが意味するもの その2

 この給与体系が有効に機能するためには、条件があります。それは、新入社員として就職した会社が、その社員が定年時はもちろん定年後も、社員に対して好待遇を与えられるほどの高い収益を保ちながら存続するということです。一昔前の銀行はこの条件を満足しているように見えました。つまり、日本経済が順調に拡大している時期の銀行は、潰れる可能性が低く、長期にわたり高収益を期待できる業界だと考えられていたからです。

 しかし、時代は明らかに変わっています。銀行収益の基盤たる日本経済は長期低落傾向を脱せず、さらに、銀行自体もカネ余りによる収益低下に悩まされ、それを打開するための有効な方策を見いだせていません。今、就職しようとする20代前半の人間に若いときの損は、将来になれば取り返せる、などという勧誘文句は説得力を持たないのです。逆に、「お宅の銀行は自分が退職する30数年後に確実に存在していると断言できますか」と問われた時、自信を持って「イエス」と答えられる銀行の人事担当者はどれ位いるのでしょう。

 年功序列型賃金は、長期に安定的に成長すると予見できる経済において魅力的に存在できます。もはやそんな時代ではありません。日本全体も個別企業も、将来は不確定なのですから、今の業績貢献分は今の給与として還元して欲しいという若者の要求は無理からぬものがあります。そうした要求に応えられなければ、優秀な人材を採用できません。そこで、今回のメガバンクの初任給の大幅引き上げに至ったというわけです。

 しかし、初任給をこれだけ引き上げてなお年功序列型賃金を維持しようとすれば、既に在籍する行員に対しても相応の引き上げが必要になりますが、銀行にそんな余裕があるとは思えません。そこで、給与制度の変革が必要になります。

 終身雇用で定年まで勤め上げたときに最終的に帳尻を合わせる年齢給から、現在時点での業績貢献度に応じた業績給に転換せざるを得ないのです。メガバンクは既にそのための準備をしてきていたのだと思われ、今回の初任給の大幅引き上げは、その準備も整い、いよいよ本格的に業績給に転換することの号砲のように聞こえます。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

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