しかし、金融政策の前向きの有効性は減退したとしても、間違えたときの後ろ向きの弊害には依然大きいものがあります。必要以上に金融を膨らませることにより、貨幣の信頼性の失墜を招けば、国民生活は悲惨なものになります。
もはや、その実力もないのに、できるといってインフレ目標に執着するのではなく、弊害も考慮した金融システムの維持に政策の重点を移した方がいいのではないかと思います。
さらに、インフレ目標に執着することの弊害をもう一つ挙げておきます。それは物価を高めるということに対する庶民感情としての違和感です。一般庶民の普通の感覚とすれば、物価は低いに越したことはないからです。
物価が上がることにより、消費が刺激され、生産が拡大し、個人所得が拡大し、経済の好循環が継続するという当局の意図は分からなくもないのですが、今のところ、そんな循環は起きそうにありません。物価上昇は物価上昇単独で終わってしまう危険性が大です。形式的な物価上昇だけを目標とするのであれば、原油価格の上昇や場合によっては消費税の増税も歓迎されることになってしまいます(日銀が目標とするインフレは増税分やエネルギー価格は除いて算定されることになっています)。
個人所得の増大を伴わない物価上昇は庶民に望ましくはありません。物価上昇が個人所得を増大させるという明確な経路を提示できないなら、インフレ目標への執着は庶民感情からしても合理的な政策目標とはいえないと思います。(了)
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)