上記で説明した負ののれんに伴って生じる利益の出現の仕方は、一般常識とは違うと感じられたと思います。というのは買った時に「負ののれん発生益」という利益が発生しているからです。常識的には、モノを買った時には、原価が確定するだけで損益は生じません。損益は売ったときに、売却価格と原価との差額として発生するのが普通です。常識とかけ離れたこの会計処理はどのように理解すればいいのでしょうか。
負ののれんが発生して利益が生じるのは、会計上の処理に過ぎません。連結会計上、子会社の純資産を買収するという形で処理せざるを得ないことから発生する利益です。確かに会計上は利益になりますが、キャッシュフローを伴わない、見かけの利益です。ここで利益が出たからといって、儲かったということではありません。
企業買収の時点では買収の原価が確定したということに過ぎず、どれだけ儲かったかを判定できる段階にはないのです。儲かったかどうかは、一般常識と同様に、投下した金額に比べて回収が多いかどうかによります。つまり、買収企業がこれから稼ぐキャッシュフローが、買収するのに要した金額に比べて、多いかどうかによるのです。
したがって、買収時点で負ののれんが生じて会計上利益が生じたとしても、それは見かけだけのことですから、それを目的にM&Aを行うのは誤った戦略ということになります。
企業買収における投資判断の基準は、その他の投資と同様に実にシンプルです。それは現在投下したキャッシュを将来回収できるかどうかです。負ののれんに伴って発生する会計上の利益に惑わされてはいけません。(了)
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)