《コラム》クラウドサービス利用の注意点

◆クラウドサービス利用と個人情報保護法
 ネットビジネスの進歩によって、クラウドサービスを利用する企業が多くなりました。同時に、クラウドサービスを利用する際には、個人情報保護法との関連で注意すべき点もあります。多くの民間事業者は、基本的に個人情報保護法における、個人情報取扱事業者となり、入手した個人データを、第三者に提供する場合には、原則として、本人の同意を必要とするなど、様々な義務が課されています。(個人情報保護法第27条など)

◆クラウド例外とは
 いわゆる「クラウド例外」とは、一定の要件を満たす場合には、クラウドサービスを利用する企業に対して、個人情報保護法上の義務を課さないとするものです。なお、この「クラウド例外」は、個人情報保護法に規定が設けられているものではなく、個人情報保護委員会の「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」での取り扱いに過ぎませんが、実務では広く利用されています。具体的には、Q&A7-53において、「当該クラウドサービス提供事業者が、当該個人データを取り扱わないこととなっている場合には、当該個人情報取扱事業者は、個人データを第三者に提供したことにはならない」とされています。
 簡単に言えば、クラウドサービス提供事業者が個人データを預かっているだけの貸倉庫業のような場合が、これに該当します。ここでの「当該個人データを取り扱わないこととなっている場合」とは、契約の内容に、「当該外部事業者が、サーバに保存された個人データを取り扱わない旨が定められており、適切にアクセス制御を行っている場合等が考えられる」とされています。

◆クラウドサービス利用者の対応
 これを逆に言えば、「クラウド例外」に該当しない場合には、「クラウドサービスを利用する企業は、個人情報保護法上、原則通りの義務が課される可能性がある」ということになります。従って、既にクラウドサービスを利用している場合、または、新たにクラウドサービスを利用しようとする場合にかかわらず、当該サービスが「クラウド例外」に該当するかどうか、契約内容をきちんと把握することが大切になります。

《コラム》土壌汚染のある土地の評価

 工場跡地でマンションや商業施設などを開発するとき、特定有害物質による土壌汚染が見つかることがあります。土壌汚染は人の健康を害するため、土地所有者等は土壌汚染対策法により、汚染状況について専門機関による調査を行い、都道府県知事に結果報告が求められます。基準に適合しない場合は区域の指定を受け、汚染土壌の除去や封じ込め等の措置が求められます。

◆土壌汚染された土地は、減価される
 土壌汚染対策法は平成14年に制定され、国税庁は、平成16年7月、汚染された土地の評価について原価方式を基本とする資産課税の取扱いを公表しました(16年情報)。
 その後、国税不服審判所の裁決事例が積み重ねられ、国税庁は令和6年7月、土壌汚染のある土地の評価について原価方式を踏襲しつつ、あらためて資産課税の取扱いを整理し、公表しました。新たな取扱いでは、特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないことが明らかな土地は、土壌汚染の調査・対策の義務付けの有無にかかわらず、土壌汚染地に該当することが明記されています。

◆相続評価は原価方式
 原価方式は、不動産鑑定評価で採用される評価法です。「減価のない土地の評価額」から「浄化・改善に要する費用」「使用収益の制限を受けることによる減価相当額」「心理的要因による減価相当額」を控除します。
 浄化・改善費用は、汚染がない土地の相続評価額が地価公示価格水準の8割程度とされるため、同様に見積額の80%相当額で評価します。使用収益の制限とは、封じ込め措置をとる場合、地中に特定有害物質が残留して土地の利用制限を受けることによるものです。心理的要因による減価とは、土壌汚染があることによる嫌悪感から生じるもの(スティグマ)をいいます。

◆除去・改善費用は確実な債務として控除
 浄化・改善費用について見積額が確定しているときは、浄化・改善措置の実施が確実であることから「確実と認められる債務」として評価額から控除します。また、都道府県から助成金が交付される場合は、債務額から助成金の額を控除します。

◆汚染の原因者には求償できる
 土地所有者等は土壌汚染の原因者に除去に要した費用を求償できます。求償権も相続財産として計上します。また、回収が困難であるときは、財産評価基本通達に則して貸付金債権の評価を行います。

《コラム》税法における中小法人、中小事業者、中小企業者

◆「中小法人」を検索すると
 法人税法で「中小法人」という言葉を検索すると、欠損金の繰越の条文のところにだけ出てきます。所得の50%が繰越欠損金の損金算入限度との規定のところで、資本金1億円以下の普通法人等(「中小法人等」という)については損金算入制限がないとしています。
 ただし、資本金の額等が5億円以上の大法人による完全支配関係があるものは除かれる、との規定になっています。なお、「中小法人」との言葉はないものの、同じ趣旨の規定は、貸倒引当金と法人税率の規定のところにもあります。租税特別措置法では、「中小法人」という言葉は、貸倒引当金の中小企業者特例のところにだけ出てきます。

◆「中小事業者」を検索すると
 所得税法、法人税法には、「中小事業者」という言葉は存在しません。租税特別措置法で、「中小事業者」という言葉を検索すると、いくつも出てきます。それらは、「常時使用する従業員の数が千人以下の個人」との概念規定で使われていて、租税特別措置法の所得税に係るところの、中小事業者向けの特例の項目のところに出てきます。

◆「中小企業者」を検索すると
 一字違いの「中小企業者」という言葉も、所得税法、法人税法にはありません。租税特別措置法の所得税に係るところで、「中小企業者」という言葉を検索すると、いくつも出てきます。「常時使用する従業員の数が千人以下」という内容のものとして使われているところと、中小企業等経営強化法で定める概念を引用する仕方で、業種ごとに常時使用従業員数300人以下、100人以下、50人以下などと使われているところとがあります。
 なお、法人税に係るところでの租税特別措置法の「中小企業者」という概念は、人数規定だけでなく、資本金基準として、資本金1億円以下で、発行済株式等の2分の1以上を同一の大規模法人(資本金の額等が1億円超の法人等)に所有されている法人又は発行済株式等の3分の2以上を複数の大規模法人に所有されている法人以外の法人、とされています。
 租税特別措置法では、「中小企業者」という言葉をあちこちで使っているのに、その概念は統一されていないので、注意を要します。

《コラム》交際費から除外される接待飲食費の金額基準

 

◆令和6年度の交際費に係る改正
 令和6年度税制改正により、交際費等の範囲から除外される接待飲食費の金額基準が1人当たり1万円以下(改正前5000円以下)に引き上げられました。物価高や経済活動の活性化の観点からの改正とのことから、従来のように事業年度単位での適用関係ではなく、税制改正法施行日の令和6年4月1日から即適用とされています。例えば、12月決算法人であっても、次期の期首日以降の適用ではなく、今期の期中中途である令和6年4月1日以後に支出する接待飲食費から、1万円基準で判定して適用することになっています。

◆交際費課税は決済日での判定ではない
 クレジットカード等での支払いの場合で、令和6年4月1日以後の支払いであったとしても、接待飲食等の行為があった時が同年3月以前である時は、1万円基準での判定とすることにはならず、従前の5000円基準で判定して、交際費の額を算定することになります。つまり、接待飲食等の実行日ベースで適用することになります。

◆法人規模別の交際費課税の内容
 因みに、交際費についての措置法の規定は、資本金百億円超の法人では全額損金不算入、資本金1億円超の法人では交際費のうちの接待飲食費の50%が損金算入、資本金1億円以下の法人では交際費のうちの接待飲食費の50%か、年800万円の定額控除限度額かが損金算入、とされています。

◆交際費での接待飲食費
 接待飲食費とは、得意先等を接待して行う飲食その他これに類する行為のために要する費用で、飲食代のほか、業務遂行や行事の際に差し入れる弁当代、飲食等のために飲食店等に直接支払うテーブルチャージ料やサービス料なども含まれます。
 交際費除外計算新基準の1万円は、1人当たりの接待飲食費の金額が1万円以下の場合での適用であり、1万円を超える場合は、1万円までが交際費除外対象となるのではなく、その全額が交際費等に該当するものとされます。

◆交際費除外計算のための適用要件
 接待飲食費の交際費除外の適用要件として次の事項を記載した書類の保存が要求されています。
一 飲食年月日
二 飲食参加者名と関係
三 飲食参加者数
四 飲食額、店名、所在地
五 飲食事実の明示事項

 

《コラム》貸倒引当金の設定と完全支配関係金銭債権

◆貸倒引当金設定可能法人と対象債権
 法人税において、貸倒引当金の繰入額を損金算入できる普通法人は資本金が1億円以下と限定されています。さらに、資本金が5億円以上である大法人との間に完全支配関係がある法人及び大通算法人は除かれます。
 法人税では、貸倒引当金の設定対象となる売掛金、受取手形、未収入金、貸付金などの金銭債権を個別評価金銭債権と一括評価金銭債権の2種類に分類し、それぞれの貸倒引当金について繰入限度額の計算を行います。

◆個別評価金銭債権への貸倒引当金
 まず個別評価金銭債権における貸倒引当金の計算を行います。「個別評価金銭債権」とはいわゆる「不良債権」であり、①会社更生法適用等の長期棚上げ債権、②実質的回収不能の一部取立不能債権、③手形不渡り等の形式要件金銭債権などであり、債務者ごとに貸倒引当金繰入額の計算をします。

◆一括評価金銭債権への貸倒引当金
 その後、個別評価金銭債権を除いた部分に対して一括評価金銭債権の計算を行います。一括評価金銭債権については、過去に貸倒損失の計上事績のある法人では、貸倒実績率法と法定繰入率法との2種類の計算方法から繰入限度額の大きい方を選択することになります。
 貸倒実績率法とは、期末の一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額に、過去3年間の貸倒損失発生額等に基づく法定算式により算定される実績繰入率を乗じて計算する方法です。法定繰入率法は、会社の業種ごとに規定されている法定繰入率を使う計算方法です。法定繰入率法の適用においては、同じ取引先について、債権と債務がある場合、いずれか少ない金額が「実質的に債権とみられない金額」として一括評価金銭債権の合計額から相殺消去されます。

◆完全支配関係にある法人への金銭債権
 ところで、令和2年度税制改正において連結納税制度が廃止され、令和4年4月1日以降開始事業年度からはグループ通算制度が創設適用されています。グループ通算制度の開始に伴い、単体納税制度の部分にも幾つかの税制改正が行われ、その一つとして、完全支配関係にある法人への金銭債権は、個別評価金銭債権及び一括評価金銭債権には含まれないこととされ、貸倒引当金の設定が税務上認められなくなりました。

《コラム》同族会社が借主の場合の貸宅地の評価

 借地権が設定された被相続人の土地は、相続税では「貸宅地」とされ、自用地価額から借地権価額を控除した金額で評価します。

◆通常の地代の場合は、財産評価通達で評価
 土地の使用の対価として通常、権利金を収受する慣行のある地域で通常の賃貸借契約により通常の地代を支払うとき、貸宅地は財産評価通達により評価されます。
 なお、通常の地代未満の地代を支払う場合も以下の算式で評価します。
 ●貸宅地の価額=自用地価額×(1-借地権割合)

◆同族会社に貸付けする場合の評価
 被相続人が同族関係者となっている同族会社にアパート経営をさせるため、自分の土地に借地権を設定する場合、借地契約を第三者との取引と異なる条件で行うと権利金等と実際の地代の水準に応じて借地権と貸宅地の評価は影響を受けます。
 以下は、権利金等の支払がない場合です。
① 相当の地代を支払っている場合
 権利金の認定課税を回避するため、権利金の支払に代えて相当の地代を支払う場合、借地権評価額は零、貸宅地の評価額は自用地価額の80%となります。
② 通常の地代を超え、相当の地代未満
 貸宅地の価額は、実際に支払う地代の水準に応じて決まります。
 ●貸宅地の価額=自用地価額-自用地価額×借地権割合×{1-(実際の地代-通常の地代)/(相当の地代-通常の地代)}
 ただし、貸宅地の価額が自用地価額の80%を超える場合は、被相続人が借地契約により土地利用の制約を受けていたことを考慮して80%を上限とします。
 なお、①②とも、20%分は同族会社の借地権として同族会社の株式評価上、純資産価額に算入されます。

◆小規模宅地等の特例による評価減
 さらに一定の要件を満たすと「貸宅地」は「貸付事業用宅地等」として小規模宅地等の特例が適用されます(200㎡まで50%減)。同族会社との賃貸借契約の締結、地代の支払(有償貸付)が前提となります。ただし、固定資産税程度の地代設定では営利性が認められず、「小規模宅地等の特例」の適用を受けることはできません。適用には相続開始前3年を超えて被相続人等の貸付事業の用に供されていること(特定貸付事業は3年以内も可)、事業承継要件、保有継続要件を満たすことが必要です。

【時事解説】初任給大幅引き上げが意味するもの その2

 この給与体系が有効に機能するためには、条件があります。それは、新入社員として就職した会社が、その社員が定年時はもちろん定年後も、社員に対して好待遇を与えられるほどの高い収益を保ちながら存続するということです。一昔前の銀行はこの条件を満足しているように見えました。つまり、日本経済が順調に拡大している時期の銀行は、潰れる可能性が低く、長期にわたり高収益を期待できる業界だと考えられていたからです。

 しかし、時代は明らかに変わっています。銀行収益の基盤たる日本経済は長期低落傾向を脱せず、さらに、銀行自体もカネ余りによる収益低下に悩まされ、それを打開するための有効な方策を見いだせていません。今、就職しようとする20代前半の人間に若いときの損は、将来になれば取り返せる、などという勧誘文句は説得力を持たないのです。逆に、「お宅の銀行は自分が退職する30数年後に確実に存在していると断言できますか」と問われた時、自信を持って「イエス」と答えられる銀行の人事担当者はどれ位いるのでしょう。

 年功序列型賃金は、長期に安定的に成長すると予見できる経済において魅力的に存在できます。もはやそんな時代ではありません。日本全体も個別企業も、将来は不確定なのですから、今の業績貢献分は今の給与として還元して欲しいという若者の要求は無理からぬものがあります。そうした要求に応えられなければ、優秀な人材を採用できません。そこで、今回のメガバンクの初任給の大幅引き上げに至ったというわけです。

 しかし、初任給をこれだけ引き上げてなお年功序列型賃金を維持しようとすれば、既に在籍する行員に対しても相応の引き上げが必要になりますが、銀行にそんな余裕があるとは思えません。そこで、給与制度の変革が必要になります。

 終身雇用で定年まで勤め上げたときに最終的に帳尻を合わせる年齢給から、現在時点での業績貢献度に応じた業績給に転換せざるを得ないのです。メガバンクは既にそのための準備をしてきていたのだと思われ、今回の初任給の大幅引き上げは、その準備も整い、いよいよ本格的に業績給に転換することの号砲のように聞こえます。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】初任給大幅引き上げが意味するもの その1

 昨年あたりより、人手不足感が強まり、初任給を大幅に引き上げる企業が相次いでいます。特に、メガバンクでは5万円程度の引き上げを行いました。銀行の収益力の減退がささやかれる中で、従来の初任給のほぼ4分の1に相当する5万円のアップはかなり思い切った引き上げです。これは、単に優秀な人材を採用するために初任給を引き上げるということに止まらない、賃金制度の大きな変革につながるインパクトを持つように思います。

 銀行は年功序列型賃金体系を採用する代表的な業界です。年功序列型賃金では、賃金は原則として、業績への貢献度より当該会社の在籍年数を重視して増加していくため、企業業績に対する貢献度と賃金がアンバランスになるところに特徴があります。

 一般的には、若いときはハードワークが強いられる割には、業績への貢献に比べ、給与は低くなりがちですが、年齢を重ねるにつれ、貢献に比し給与が多くなるといった形になります。若いときの損を、年を重ねるにつれて取り返す、という形で、定年まで勤めることで最終的に帳尻が合うようになっています。いわば、終身雇用制に適合した給与体系だといえます。ですから、かつては、新卒の志望者に対して、銀行は次のようなセールストークを行っていました。

「最初のうちは、他の業界に比べれば、給料は低いと思われるかもしれないが、その差額は徐々に埋めて早晩逆転できる。そして、定年まで勤めた場合の退職金や退職後の企業年金も含めて一生涯で考えれば、あなたに与えられる待遇は決して悪くありません。」

 しかし、かつては魅力的であったこのセールストークも今の時代の若い人には、以下のような理由から、まったく響かないものになっています。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》同族会社が借主の場合の権利金の認定課税

 令和6年度の路線価が公表され、全国的に地価が上昇するなか、不動産活用に着目している人もいるのではないでしょうか。土地所有者が自分の主宰する同族会社を使ってアパート経営する場合、同族会社が借地に建物を取得すると借地権が生じます。

◆権利金の認定課税
 土地使用の対価として権利金を収受する慣行のある地域では、同族会社は地代のほかに権利金の支払が必要となります。
 権利金の目安は、更地の価額に借地権割合を乗じた金額となりますが、同族会社にとって相当な負担になります。そこで土地を無償又は低い地代で賃貸すると、同族会社の受贈益に権利金の認定課税を受けることがあります。

◆法人の受贈益には課税される
 そもそも権利金の認定課税は、土地所有者と密接な関係にある同族会社であるからこそ生じます。第三者に土地を貸すときは、権利金を必ず収受するでしょう。税法は法人が営利を追求する存在としてとらえます。同族会社も法人である以上、第三者と同等、営利を追求すべき存在にかわりはなく、無償や低い地代で経済的利益を受けた場合にも課税の対象とするわけです。

◆認定課税を回避する2つの方策
 認定課税を回避する方法は2つあります。一つは、借りた土地を将来、無償で所有者に返還することを契約書に定め、「土地の無償返還に関する届出書」を所有者、借地人の連名で税務署に提出しておくことです。
 もう一つの方法は、権利金の支払に代えて相当の地代(自用地価額の年6%相当額)を支払うことです。

◆権利金と相当の地代の関係
 権利金と相当の地代は、建物を建てるために土地を他人に貸したことにより、所有者がその土地を自由に利用できなくなる不利益に対して借主に見合う負担をさせるものです。したがって認定課税を回避するには、借主は権利金を支払うか、相当の地代を支払うか、両方を組み合わせるかを選択します。相当の地代より低い地代を設定すると、権利金の額との見合いで差額に権利金の認定課税が行われます。

◆借地契約の確認を忘れずに!
 同族会社に借地権があるか契約内容を確認しましょう。契約書を交わしていない、地代が近隣相場と比べて少額、そもそも当事者に土地を貸す意思がなかったなどの場合は、自用地評価とされるかもしれません。

《コラム》収用等により土地建物を売った時の特例

◆憲法で保障されている地上げ?
 公共の利益となる事業(公共事業)のために、事業用地の取得が必要となる場合、国や地方自治体等は任意による売買契約により、土地を取得します。ただし、任意買収は権利者である相手の同意が必要ですから、相手がノーと言えば事業が進まなくなってしまいます。
 そのためどうしても土地を取得しなければならない際には、土地収用法という権利者の意思に関わりなく、土地を取得できる制度が設けられています。土地収用法は日本国憲法第29条で「財産権の保障」をする一方で、「私有財産は正当な補償の下に、公共のために用いることができる」という規定を受けて、土地を収用できる要件と手続き、損失の補償などについて定めています。大げさに言うと公共事業の地上げは憲法で保障されているので、これを不服とする場合は憲法改正する必要があります。

◆税制でも補償されている
 土地収用法やその他の法律で収用権が認められている公共事業のために土地建物を売った場合には、課税の特例が用意されています。
①対価補償金等で他の土地建物に買い換えたときは譲渡がなかったものとする特例
 売った金額より買い換えた金額が少ない時は、差額を収入金額として譲渡所得の計算を行い、売った金額より買い換えた金額が多い時は、所得税の課税が繰り延べられ、売った年については譲渡所得がなかったものとされます。
②譲渡所得から最高5,000万円までの特別控除を差し引く特例
 ①と②はどちらかのみの選択適用となっています。
 また、代替地を提供した人についても特例が設定されおり、自治体等と用地の提供者、代替地を提供する人の三者で一括契約をした場合には、代替地を譲渡した人については最高1,500万円の特別控除が受けられます。

◆補償も厚いが問題も多い
 補償制度が充実している半面、用地買収には住民の反発も多く、最近もお寺の敷地を横切る幹線道路建設について「計画にかかっていない部分の墓は移転の対象になっておらず、墓全部と本堂合わせて一つの寺という認識がされない」といった問題が報道されています。