平成30年度税制改正 消費課税・納税環境整備編

 消費税と納税環境整備に関する主な改正項目を概観してみます。

●消費税について
 消費税に関しては、個別企業の課税実務に大きな影響を及ぼす改正はありませんでした。改正は補完的なものです。
①消費税における長期割賦販売等に該当する資産の譲渡等について延払基準により資産の譲渡等の対価の額を計算する選択制度は廃止されます。但し、経過措置が講じられています。
②簡易課税制度について、軽減税率が適用される食用の農林水産物を生産する事業者を第2種事業とし、そのみなし仕入率を80%(現行:70%)とする。
 適用は、平成31年10月1日を含む課税期間からです。
③輸入に係る消費税の脱税犯に係る罰金刑の上限について、脱税額の10倍が1,000万円を超える場合には、脱税額の10倍(現行:脱税額)に引き上げる。
適用は、法律の公布日から起算して10日を経過した日以後の違反行為からです。
④外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充です。具体的には、「一般物品」と「消耗品」の合計で下限額の要件(5,000円以上)等を満たす場合には、外国人旅行者向けの消費税の免税販売を認める。
 適用は、平成30年7月1日以後に行われる課税資産の譲渡等からです。

●納税環境整備について
 改正の中心は、申告手続の電子化促進のための環境整備です。
 大法人の法人税、地方法人税、消費税、法人住民税及び法人事業税の電子申告の義務化です。申告書は、確定申告書、中間申告書、修正申告書が対象で、消費税においては還付申告書も含みます。
 上記の大法人とは内国法人のうち事業年度開始日の時において資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人並びに相互会社、投資法人及び特定目的会社をいいます。
 なお、消費税については、国及び地方公共団体も含みます。
 適用は、平成32年4月1日以後に開始する事業年度からで、消費税に関しては、同日以後に開始する課税期間からです。
 なお、上記申告手続の電子化に伴って、法人税等の申告書における代表者及び経理責任者等の自署押印制度を廃止するなど幾つかの環境整備がなされています。

事業承継税制が抜本的見直し

2009年に創設されて以降、毎年のように小さなリニューアルが施されてきた「事業承継税制」に、ついに抜本的な見直しが図られます。中小企業の経営者の高齢化がとまらず、事業承継が進まないなかで、税制面から強く後押しをすることで、一挙に世代交代を図りたい狙いです。

 これまでの事業承継税制は、先代から後継者に自社株を相続・贈与で引き継ぐ際に、譲り渡した自社株と後継者がもともと持っていた自社株の合計のうち発行済議決権株式の3分の2までの部分を、相続税なら評価額の8割、贈与税なら全額を納税猶予するというものでした。

 18年度改正大綱では、まず、これまで最大でも発行済議決権株式の3分の2までしか猶予できなかったところを、100%に引き上げました。また相続税なら評価額の8割が上限であったところを、これも10割まで拡大します。仮に評価額6千万円の株式を持ち株ゼロの後継者に相続で渡したとすれば、3分の2×8割=3200万円までしか猶予されなかったところが、6千万円全額について猶予されることになるわけです。

 また経営が悪化して雇用を維持でなくなっても、認定支援機関など専門家の意見を記載した書類を提出することで、猶予を打ち切られずに済みます。その他、これまで後継者は1人のみを選ぶことを求めてきましたが、複数人への自社株引き継ぎにも利用できるようになります。

 大綱では10割の猶予を認める見直しを中小企業の世代交代のための「特例措置」として位置付け、その期限を10年間と切っています。具体的には、18年1月1日から27年12月31日までの間に引き継がれた自社株についての相続・贈与が対象となります。
<情報提供:エヌピー通信社>

小規模宅地の「家なき子」特例厳格化

 2018年度税制改正大綱で、不動産を使った代表的な相続税対策である「小規模宅地特例」について、適用要件が厳格化されることになりました。同特例は、一定規模以下の宅地にかかる相続税評価額を引き下げる制度。被相続人が住んでいた土地なら330平方メートルまでの部分の課税価格が8割、貸付事業に使っていた土地なら200平方メートルまでの部分の価格が5割、それ以外の事業のための土地なら400平方メートルまでの価格が8割引となります。

 制度の本来の趣旨は、住んでいた家を相続税負担によって出ていかざるを得なくなることにならないよう、宅地に大幅な評価減を認めることで残された家族の生活を守るものです。ただし親から宅地を相続する子が親と同居していなくても、持ち家がない時には、特例が適用されることになっています。

 そこで、子がもともと持っていた自分の家を親族らに贈与した上で借り受け、形式上の「家なき子」となって特例措置を使う税逃れが横行していました。特例適用による税収減の概算は16年度で1350億円と、3年で実に倍近くまで伸びているのが実情です。

 こうした経緯を踏まえ18年度大綱では、(1)相続開始前3年以内に、3親等以内の親族か関係のある法人が所有する家に住んでいたことのある人、(2)相続開始時に住んでいた家を、過去に所有していたことがある人――については、小規模宅地の特例を認めないとしました。見直しの内容は18年4月以降に相続や遺贈で取得した宅地に適用されます。大綱では、「本来の趣旨を逸脱した悪用を防止する」と強い口調で、見直しの理由を説明しています。
<情報提供:エヌピー通信社>

医療費控除は領収書の添付が不要に

はじめに
 平成29年度税制改正では、平成30年1月1日以後に平成29年分の所得税の確定申告で医療費控除(セルフメディケーション税制による特例は除きます。)の適用を受ける場合には、原則として医療費の領収書の提出が不要とされ、医療費の明細書を提出することとされます。
 また、社会保険診療分の医療費については、医療保険者から交付を受けた医療費通知(いわゆる健康保険組合等が発行する「医療費のお知らせ」など)を添付すれば、医療費の明細の記載も省略することが可能とされます。
 そこで、本稿では、改正された医療費控除を適用する場合における留意点について解説します。

Ⅰ 添付書類等の見直し
 医療費控除の適用を受ける者は、「医療費控除の明細書」及び医療保険者等の「医療費通知」を確定申告書の提出の際に添付しなければならないこととされます(所法120④)。
 この場合において、税務署長は、その適用を受ける者に対し、確定申告期限等から5年間、その明細書等に係る医療費の領収書(「確定申告書の提出の際に、医療保険者から交付を受けた医療費通知を医療費の明細書として添付した場合におけるその医療費通知に係る医療費の領収書」及び「e-taxを使用して確定申告を行った際に、医療保険者から通知を受けた医療費通知情報でその医療保険者の電子署名及びその電子署名に係る電子証明書が付されたものを医療費の明細書として送信した場合におけるその医療費通知情報に係る医療費の領収書」に該当するものを除きます。)の提示又は提出を求めることができます(所法120⑤)。

Ⅱ 医療費の明細書の意義
 「医療費の明細書」とは、所得税の確定申告書に記載された医療費控除を受ける金額の計算の基礎となる控除適用医療費の額等の記載のある明細書とされます(所法120④一)。
 また、控除適用医療費の額等の記載のある明細書(医療保険者等の医療費通知が確定申告書に添付された場合におけるその書類に記載された控除適用医療費の額等に係るものを除きます。)には、次に掲げる事項を記載することとされます(所規47の2⑧)
①医療を受けた者の氏名
②病院・薬局などの支払先の名称又は氏名
③医療費の区分(診療・治療、介護保険サービス、医薬品の購入、その他の医療に区分されたものにチェックマークを記載)
④支払った医療費の額
⑤④のうち生命保険や社会保険などで補填される金額

Ⅲ 医療費通知の添付
 医療保険者等の医療費通知の交付を受けた者は、①各月に交付を受けた「医療保険者等の医療費通知」に記載された自己が負担した社会保険診療分の医療費の合計額と②「医療保険者等の医療費通知に係る医療費以外(いわゆる自由診療分など)」の医療費について医療費控除適用者自らが作成した控除適用医療費の額等の合計額を医療費控除の明細書に併せて記載することとされます。
 ただし、医療保険者等の医療費通知に記載された医療費の額は、実際に支払った金額と異なる場合がありますので、領収書等で確認し、修正する必要があります。

おわりに
 前述したⅠからⅢの改正は、平成30年1月1日以後に平成29年分以後の所得税に係る確定申告書を提出する場合について適用され、同日前に確定申告書を提出した場合又は同日以後に平成28年分以前の所得税に係る確定申告書を提出する場合については、なお従前の例によることとされます(平成29年改正法附則7①)。
 また、経過措置として、平成29年分から平成31年分までの各年分の所得税に係る確定申告に限り、従来どおり、医療費の領収書の添付又は提示による医療費控除の適用も可能とされています。この場合において、その添付又は提示をした領収書に係る医療費については、税務署長の求めの対象外とされます(平成29年改正法附則7②)。
 なお、この経過措置は、一部の医療費についてのみ選択適用することもできますので、社会保険診療分などの医療費については「医療保険者等の医療費通知書」を添付することにより簡素な手続を利用し、それ以外の自費診療分などの医療費については従来どおり医療費に係る領収書を添付することも可能とされます。

国税庁:e-Taxの利用に関するアンケート調査結果を公表

 国税庁は、2017年2月〜5月にかけて国税電子申告・納税システム(e-Tax)ホームページ及び確定申告書等作成コーナーにおいて実施した「e-Taxの利用に関するアンケート調査」結果(有効回答数4万3,674人)を公表しました。

 それによりますと、利用した手続き(複数回答)は、確定申告時の調査からも「所得税申告」が97.1%と最多、次いで「申請・届出手続き」が7.2%、「納税手続き」が4.8%と続きました。
 e-Taxや確定申告書等作成コーナーを利用するきっかけでは、「国税庁のホームページ」が54.1%と最多、次いで「税務署からの案内文等」が15.6%と続きました。

 また、e-Taxを利用しようと思った理由(複数回答)では、「税務署に行く必要がないから」が85.6%と最多、次いで「税務署の閉庁時間でも申告書等の提出(送信)ができるから」が70.4%、「申告書の作成・送信が容易だから」が61.1%と続きました。

 事前手続きについて「スムーズにできた」との回答割合は、「開始届出書の送信(利用者識別番号の取得)」が69.8%、「事前準備(ルート証明書のインストール、信頼済みサイトの登録)」が68.1%、「電子証明書やICカードリーダライタの取得・設定」が64.5%、「電子証明書の初期登録」が63.2%となりました。

 また、2017年1月から、マイナンバーカードでマイナポータルにログインしますと、e-Taxの利用者識別番号や暗証番号を入力せずに、メッセージボックスの情報確認や、納税証明書、源泉所得税、法定調書などに関する手続きが利用できる「マイナポータルのアカウントによるe-Taxへの認証連携」が始まりましたが、その認知度は15.7%となりました。

 さらに、地方税ポータルシステム(eLTAX)を利用しますと、給与・公的年金等の支払をする事業者が別々に提出する必要があった支払報告書と源泉徴収票を一括作成し、必要な提出先にそれぞれ提出できることの認知度は17.1%となりました。
 今後の動向に注目です。

(注意)
 上記の記載内容は、平成29年12月8日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

中小企業の賃上げ動向

 経済産業省より平成29年「企業の賃上げ動向等に関するフォローアップ調査」の結果が発表されました。この調査は大企業と中小企業とを分けて調査され、大企業は2,001社中364社が回答、中小企業・小規模事業者30,000社のうち8,310社が回答しました。

◆中小企業7割近くが積極的に賃上げを実施
 平成29年度に常用労働者の賃上げを実施した大企業は89.7%(前年度90.1%)、正社員の賃金を引き上げた中小企業・小規模事業者は66.1%(前年度59.0%)となりました。前年と比較すると中小企業が積極的に賃上げを行っている傾向がうかがえます。

◆賃上げをする理由・しない理由
 中小企業・小規模事業者が賃上げを実施した理由についてベスト5は次の通りです。
①人材の採用・従業員の引き留めの必要性(49.2%)
②業績の回復・向上(34.3%)
③他社の賃金動向(21.6%)
④最低賃金引き上げの為(11.4%)
⑤業績連動型賃金制度のルールに従った(9.1%)
 一方で賃金を引き上げていない理由としては「業績回復、向上が不十分」72.6%が最も多く、賃上げを実施していない企業は業績が低迷している事がうかがえます。
 賃上げ額は、正社員1人当たり平均賃金の引き上げを実施した企業での年額をみると100,000円以上が最も多く、従業員規模が小さい企業ほど引き上げ額は大きくなる傾向にあります。引き上げ率は1%~2%が最も多く、こちらも従業員規模が小さいほど引き上げ率が高くなっています。

◆月別賃金引き上げ方法等
 引き上げの方法は定期昇給時に上げた企業が約半数と最も多く、賃金表を含む賃金規定を採っている企業は61.0%でした。
 人員計画については人手不足を感じている企業は66.4%であり、正社員の非管理職74.5%、管理職29.1%が不足していると答えています。
 採用方法はハローワークが最も多く78.7%です。次いで従業員や知人の紹介、36.9%、求人サイト32.9%と続いています。

来日外国人興行に際しての報酬払は、源泉税の徴収漏れに注意

◆来日外国人が行う講演に必要なビザと税務
 世界中で大人気のヨガですが、最近もホットヨガやピラティス教室などが流行っています。こうした発祥の地が外国のものは、たとえ同じ内容であっても、本場の人(ヨガの場合はインド人)が講師の講座の方が、有難みも価値も増すように感じられることとなります。それに便乗してか、本場の外国人を招いて、1~2か月の間に日本各地を回るツアーも開催されているようです。
 こうした講座の講演者が、日本で働いて報酬を得るためには、興行のビザを取得し、芸能人として税務上扱われて納税することが必要です。もし、観光ビザでやってきて、報酬の支払いに際しても何の手続きもせずに支払ってしまうと様々な問題が発生しますので、要注意です。

◆講演主催者が注意すべき税務問題
 来日外国人のこうした仕事は興行の労働許可証がなければ働けません(=報酬を得られません)し、対価も非居住者(=日本に住んでいない人)に対する報酬の支払いとして、20.42%の源泉所得税を天引きしなければなりません。また、その源泉税は報酬支払者が支払った日の翌月10日までに国(=税務署)に納付しなければなりません。 
 源泉所得税の徴収・納税義務は支払者側にあり、これを忘れると支払者側に源泉所得税未納とその罰金の大きな負担が科されることになります。また、本来であれば源泉漏れは受け取った人から還付してもらうのですが、帰国してしまった外国人からは、通常取戻しができず、二重負担となってしまいます。十分に注意が必要です。

◆“外国”への支払いは常に源泉税に留意
 外国人・外国会社・外国に居住している人にお金を支払うときには、常に、源泉所得税の問題を考えなくてはなりません。
 他に、卑近な例で言うと、賃貸住宅の家主が外国に居住している人(海外に仕事で駐在している日本人が空き家を賃貸している場合を含む)や外国の法人である場合、家賃の送金に際して源泉税が控除漏れとなっているケースが多いようです。
 なお、“外国”芸能人への報酬や家賃の支払いに際しての源泉税は20.42%が所得税法で決まっている料率です。ただし、租税条約で、「政府間で合意された文化交流のための特別の計画に基づき個人により行われる場合には免除」等の規定もありますので、租税条約の確認も必須の作業となります。

日露戦争時の織物消費税とは

 日露戦争開始時から第二次世界大戦直後まで課税されていた「織物消費税」について、税務大学校がホームページ上のコンテンツ「税の歴史クイズ」で紹介しています。

 織物消費税は、法定製造場で製造者から織物を受け取る際に、税務署員が標準価格を決定し、受取人がその価格の1割(明治43年時点)を税金として納めるもの。日露戦争の戦費調達のための財源として明治37年3月に非常特別税として誕生しています。

 その後も永久税として残り、シャウプ勧告を受けた税制改正で昭和25年1月に廃止となりました。

 課税対象である「織物」の定義は「糸を縦横に交差して織り合わせたもの」。税務大学校が「課税された織物はどれか」とするクイズの選択肢に入れた「レースのハンカチ」は、糸と糸を編み合わせたもの、もしくはより合わせたものということで、課税されなかったそうです。また、「綿織物」は当初は課税対象でしたが、生活必需品の負担軽減という社会政策から大正15年に非課税になりました。
<情報提供:エヌピー通信社>

「国際観光旅客税」19年1月開始

 政府・与党が2018年度税制改正に向けて検討していた日本からの出国時に1人1回1千円を徴収する新税「出国税」は、「国際観光旅客税」と名称を変更してスタートすることで決着しました。自民党内からの提言などを受けて一時は「観光促進税」とすることで検討していましたが、関係者によると、内閣法制局から「名称には課税対象を示す必要がある」と指摘されて「旅客」を入れるように変更したとのことです。導入は2019年1月7日から。

 国際観光旅客税は、日本人、外国人を問わず日本を出国する旅行者らから、航空券などの代金に上乗せして徴収します。海外から到着して24時間以内に出国する乗り継ぎ客や、2歳未満の子どもは対象から除外。政府・与党は当初、19年4月の導入を検討していましたが、中国からの観光客が増える旧正月(2月)前や、日本の年末年始の休暇が終わった後の時期を考慮し、1月初旬に前倒ししました。

 16年の出国数約4100万人(日本人約1700万人、訪日客約2400万人)で計算すると約410億円の財源規模となり、その税収分は観光関連の政策に使います。出入国手続きの円滑化や海外での誘致宣伝強化、地域観光資源の整備などを想定していますが、これまで無駄遣いが指摘されてきた特定財源とはせず、一般会計に入れて配分します。

 ただ一般会計だと、観光以外の政策に多く使われる可能性があります。そのため、政府は通常国会に観光関連の法案を提出し、財源の多くが観光関連の政策に振り向けられるようにする方針です。
<情報提供:エヌピー通信社>

良いインフレと悪いインフレ

 インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」の2種類があります。良いインフレとは経済全体が活性化して、需要が増大することにより、品物が不足気味になり、物価が上昇するという経路をたどるインフレです。これをデマンドプル型インフレと呼びます。一方、悪いインフレとは製品を作る際の費用が増加して、生産費用の増大を賄うために物価が上昇するインフレです。これをコストプッシュ型インフレと呼びます。
 デマンドプル型は需要側が物価を引っ張り上げるのに対し、コストプッシュ型は供給側が物価を押し上げる形になります。デマンドプル型は賃金も上がり、経済が好循環の時に生じるインフレですが、コストプッシュ型だと物価だけが上がり、国民生活は苦しくなります。日銀が目指しているインフレは言うまでもなくデマンドプル型です。
 そこで、物価を司る日銀の金融政策について、限界があるとする「反リフレ派」と、限界はないとする「リフレ派」の対立があります。
 反リフレ派は日銀の金融政策はもっぱら金利政策なのだから、ゼロ金利になった段階で、金融緩和の有効性は大きく減退すると主張します。一方、リフレ派は、物価は極めて貨幣的現象なのだから、物価の騰落は貨幣を統括する日銀次第でどうにでもなる。ゼロ金利になっても、貨幣供給量を増やし、日銀のインフレに対する強い決意を示すことにより、人々の期待インフレ率を高めることができ、期待インフレ率が高まれば、消費意欲の拡大を促し、実際にインフレを起こすことができる、と考えます。

 日銀の異次元の金融緩和で株価は上がり、経済マインドを好転させる効果はあったのですが、これまでのところ、目標であるデマンドプル型のインフレには至っていません。
 日銀はコストプッシュ型でも、とにかくインフレになればいいと考えているのではないかと思います。ただ、現在の状況では、コストプッシュ型であるにしろ、マイルドなインフレを起こすことは容易ではなさそうです。もしできたとして、それだけで終わっては意味がありません。コストプッシュ型インフレでは、生活費が上昇し、庶民の生活は苦しくなるだけだからです。コストプッシュ型がデマンドプル型のインフレに転化できるかが次の課題になります。最初はコストプッシュ型であっても、それが全般的な賃金上昇に結びつき、国民の心理をインフレマインドに転換させ、好循環のデマンドプル型に発展させられるのかが問われます。今までの状況を見れば、消費マインドは落ち着き、世界的にも物価は低落傾向にあり、その可能性は高くないだろうと、思います。
 日銀はコストプッシュ型インフレを起こすこと、そしてさらに、コストプッシュ型インフレをデマンドプル型インフレに転化することの二つの大きな山を越えなければなりません。それは二つとも簡単ではありません。
 インフレマインドの醸成には通貨当局の気合が重要だと言ってきた日銀が、インフレ目標の旗を下すことは簡単にはできないでしょうが、日銀がインフレを制御できるかどうかという点について、難しい局面に差し掛かっていることは事実です。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)