財務省:国税における行政手続コスト削減のための基本計画を公表

財務省は、国税における行政手続コスト削減のための基本計画を公表しました。
 それによりますと、基本計画では国税における行政手続きの概要及び電子化の状況を示した上で、コスト削減の取組内容及びスケジュールを明らかにしております。

 コスト削減方策については、電子申告の義務化が実現されることを前提に、
①大法人の法人税・消費税の申告について、電子申告(e-Tax)の利用率100%
②中小法人の法人税・消費税の申告について、電子申告の利用率85%以上
③電子納税の一層の推進
④e-Taxの使い勝手の大幅改善
⑤地方税との情報連携の徹底(法人設立届出書等の電子的提出の一元化、電子申告での共通入力事務の重複排除等)を掲げております。
 上記④のe-Taxの使い勝手の大幅改善では、マイナポータルの「お知らせ」機能などの利活用(2019年1月以降、順次実施に向けて検討)や個人納税者のe-Tax利用の認証手続きの簡素化(2019年1月実施予定)などを推進するとしております。

また、申告書等の送信容量の拡大(2018年度実施に向けて検討)など申告書等の送信手続きの利便性の向上のほか、e-Tax利用による手続きの簡素化を掲げております。
 前記⑤の地方税との情報連携の徹底では、法人納税者が設立又は納税地異動等の際に国税当局と地方税当局それぞれに提出している各種届け出書等について、データの一括作成および電子的提出の一元化を可能(2019年度実施に向けて検討)とします。

 さらに、法人住民税・法人事業税(地方法人二税)の電子申告手続時の複数自治体への申告に共通する事項の重複入力の排除の検討・実現に向けて、総務省と連携し、民間ソフトベンダーへの仕様公開方法の改善や法人税申告情報のインポート機能の実装等を通じて、法人税及び地方法人二税の電子申告における共通入力事務の重複排除に向けて取り組む(総務省と連携して2019年度実施に向けて検討)としております。
 今後の動向に注目です。

(注意)
 上記の記載内容は、平成29年11月6日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

平成29年分年末調整の留意点

 年末調整の時期となりました。この年末調整は、毎月の給料や賞与から源泉徴収をした税額と、その年の給与の総額について納めなければならない税額とを比べ、その過不足額を精算する手続です。この手続により、大部分の給与所得者は、改めて確定申告をする必要はなくなります。

◆給与所得控除額の改正
 今年の改正は、給与所得控除額の改正のみで、その内容は、給与収入1,000万円超の場合の給与所得控除額は220万円が上限とされたことです。
 この改正に伴い、年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表も改正されています。

◆平成30年分の扶養控除等(異動)申告書(以下、同申告書)
 ところで、同申告書の提出は、年の最初の給与等の支払いを受ける日の前日までに給与等の支払者に提出することになっていますが、実務においては、前年の年末調整の際に同申告書を受理することも多々あります。
 この同申告書ですが、平成30年分から配偶者控除及び配偶者特別控除の控除額の改正に伴って、同申告書の記載欄に、源泉控除対象配偶者、同一生計配偶者の欄が加わり、平成30年1月以降の給料等の支払いの際には、配偶者が源泉控除対象配偶者、また、同一生計配偶者が障害者に該当する場合には、それぞれ扶養親族の数に一人を加えて源泉徴収することになりました。
 そこで、源泉控除対象配偶者、同一生計配偶者の該当者の要件について留意が必要となります。前者は居住者の合計所得金額が900万円以下で生計を一にする配偶者の合計所得金額が85万円以下の人、後者は居住者の合計所得金額には制限がありませんが、生計を一にする配偶者の合計所得金額が38万円以下の人です。いずれも青色事業専従者等は除かれます。
 なお、これら合計所得金額ですが、同申告書を提出する日の現況により判断することとなります。
 年末調整の際に提出を受ける同申告書の記載欄を今一度確認しておきましょう。

国税庁:ICTやAI活用した「税務行政の将来像」を公表

国税庁は、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)を活用した約10年後の「税務行政の将来像」を公表しました。

 これは、情報システムの高度化、外部機関の協力を前提として、現時点で考えられる税務行政の将来のイメージを示したものです。
 実現に向けて、e-Taxの使い勝手の改善等を通じた申告・納付のデジタル化の推進により、納税者の利便性の向上とともにデータ基盤の充実を図り、AI技術等を取り入れながら、段階的に取り組んでいくとしております。

 この背景には、ICTやAIの進展、マイナンバー制度の導入、マイナポータルの本格運用、個人投資家の海外投資や企業の海外取引増加など経済社会のグローバル化、厳しい財政需要による国税職員が減少傾向の一方で、所得税申告件数や法人数等の増加、国際的な租税回避への対応や富裕層に対する適正課税の確保、大口・悪質事案への対応のため、マンパワーの重点的投入の必要があるとみられており、ICTやAIの活用による納税者の利便性の向上と税務行政のスマート化を図ることが将来像にあります。
納税者の利便性の向上では、マイナポータルを通じて、納税者個々のニーズに合った「カスタマイズ型の税情報の配信」、メールやチャットなどによる相談・回答、AIを活用した相談内容の分析と最適な回答を自動表示する「税務相談の自動化」、確定申告や年末調整に係る情報のマイナポータルへの表示による手続きの電子化、国と地方への電子的提出のワンストップ化、電子納税等の推進など「申告・納付のデジタル化」を目指すとしております。

 また、課税・徴収の効率化・高度化では、「申告内容と財産所有情報との自動チェック」による申告漏れ等の迅速な把握、)是正が必要な誤り事項等を納税者に自動連絡するなど、納税者等に電子メール等により接触を図る「軽微な誤りのオフサイト処理」、AIを活用したシステムによる、精緻な調査必要度判定や納税者への最適な接触方法と要調査項目、優先着手滞納事案の選定等の提示など「調査・徴収でのAI活用」を進めるとしております。
 今後の動向に注目です。

(注意)
 上記の記載内容は、平成29年11月1日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

民事調停手続の利用

◆民事調停は最も身近な裁判手続
 取引先や顧客との間でトラブルが生じたとき、まずは話し合いで穏便かつ早期に解決することが最良の方法です。もっとも、当事者のみの話し合いでは、話が前進しないこともあるでしょう。当事者間では、つい感情的になったり、客観的な視点を持てずに適切な解決内容を見失ってしまったりすることがあるためです。
 そのようなとき、信頼に足る第三者が入って話し合いを進める制度の一つとして、身近に利用できる「民事調停」という裁判所の手続があります。
 裁判所の手続といっても、訴訟のように当事者が主張や証拠を出し合って裁判所が最終的な判決を下す、というものではありません。裁判官1名と調停委員2名が当事者の間に入り、事案に応じた円滑な解決を目指して話し合いを進める柔軟な手続です。

◆実際の申立方法や審理の内容
 民事調停の申立てを行うには、申立書を作成して簡易裁判所に提出します。申立書の内容も複雑なものではありません。現在、裁判所のホームページに申立書の書式が掲載されていますので、これに記入する形で簡単に申立書が作れます。
 申立費用も訴訟に比べて安価ですし、法廷で公開されるものではありませんので、第三者に知られたくない情報も安心して話すことができます。また、裁判と言えば弁護士を思い浮かべるかもしれませんが、話し合いによる解決制度ですので、弁護士に依頼せず本人のみでの対応が十分可能です。  
 調停委員会の許可を得れば、従業員でも代理人になることができるため、代表取締役本人が出席しなくても良いというのも民事調停のメリットです。

◆調停成立の効果
 話し合いがまとまり、合意に達した場合には、合意内容を記載した調停調書という書面が作成されます。調停調書は確定判決と同様の効果が得られますので、相手方が調停調書に記載された債務を履行しなかった場合には、強制執行が可能となります。
 他方で、民事調停が不成立となった場合にも、大きなデメリットはありません。その場合には、話し合いによる解決は諦め、訴訟をするか否かを検討すればよいのです。

途上国の日本中古車輸入ビジネスと日本の消費税

◆途上国での日本中古車販売ビジネス
 海外から日本の税金に関する問い合わせで比較的多いのが、「日本から中古車を輸入して途上国で売る際の日本の消費税をどうしたら還付できるか?」というテーマです。 

◆輸出に係る消費税は免税が原則
 具体的な数字で流れを説明します。
 中古車マーケット(=自動車オークション)にて20万円でトヨタ車を買います。国内での購入なので、8%の消費税がかかり代金は21.6万円となります。オークション費用やリサイクル費用などの諸経費、さらに日本から輸出の船賃や本国での輸入代金として1台あたり10万円かかったとします。合計原価は30万円+消費税1.6万円です。
 これを本国にて40万円で販売したとします。消費税を負担したままだと利益率は21%、消費税の還付を受けると25%です。
 消費税の還付を受けられるか否かで利益率が大きく変わってきます。
<原則:輸出に消費税はかかりません>
 輸出される物品(中古車)に消費税はかかりません。でも、オークションで購入する際は国内の売買なので、消費税がかかります。ただし、輸出免税なので、消費税の確定申告をすれば消費税は還付されます。

◆立ちはだかる現実の壁!
 海外在住の外国人や外国法人には古物商の許可取得が難しい事もあり、消費税分を免税扱いにして還付してもらうことはかなり難しいのです。その理由は主に2つです。
1.日本に子会社を設立(=国内で自動車の中古市場に参加するには、警察に古物商の許可申請が必要)して消費税の確定申告をすれば還付されるが、その場合、法人税等の申告もしなければならない。子会社の維持費を賄うためには、その分の固定費を回収できるだけの売上利益が必要となる。そこまでの事業規模は見込めない。
2.日本に子会社を持たない場合、中古車を直接調達できないので、知人から購入し、輸出してもらうことになる。本来は、その知人から輸出として購入する際には輸出免税扱いなので消費税はかからない。しかし、知人は、個人事業としている者が多く消費税の申告していないため、代価は消費税込みの金額となってしまっている。
※現実的には、「輸出は免税」が通じない取引の世界となっているのが実態です。ある程度の事業規模が見込めないとなかなか難しいビジネスです。

中小企業の人材確保における3つのミスマッチ

 「中小企業白書2017年版」では、中小企業の人材確保において、①採用手段のミスマッチ、②情報のミスマッチ、③情報伝達・獲得手段のミスマッチが存在することを指摘しています。同白書では人材を事業活動の中枢を担う「中核人材」と労働力を提供する「労働人材」とに区分して考察を行っていますが、ここでは「中核人材」に着目してみていきましょう。

 まず、採用手段のミスマッチとは、中小企業が有効と考える採用手段と、求職者が有効と考える手段との間に存在するミスマッチを指します。中核人材の採用にあたって中小企業は「ハローワーク」や「親族・知人・友人の紹介」を有効と考えていますが、求職者側については年齢層が低いほど「就職ポータルサイト」や「企業のホームページ」を重視しています。

 情報のミスマッチとは、中小企業が求職者に対し重点的に伝えた自社の情報と、求職者が重視した企業情報との間に存在するミスマッチを指します。例えば「沿革・経営理念・社風」「技術力・サービス力・社会的意義」については中小企業側が重視するほどには求職者側は重視しない傾向にあります。

 情報伝達・獲得手段のミスマッチとは、中小企業が求職者に対し情報を伝えた手段と、求職者が知りたい情報を得るために有効だと考える手段との間に存在するミスマッチです。中小企業側が経営者や採用担当者による面談によって情報を伝える一方で、若年層ほど「各種の求人広告」「企業のホームページ」「説明会・セミナー」といった直接的な選考の前段階を重視する傾向にあります。

 このように中小企業が人材確保を円滑に行うには上記の3つのミスマッチを克服することが求められるのです。

 では中小企業が人材確保を円滑に行うためにはどのような取組みが求められるのでしょうか。ここでは「中小企業白書2017年版」でも先進事例として取り上げられているクリーニング業者の株式会社喜久屋(本社東京都足立区)の取組みについてみていきましょう。

 同社の主戦力であるパートタイム従業員の平均勤続年数は10年と長く、高い定着率を誇っています。その背景として、業務の平準化を図る生産体制の工夫、育児や介護といった個々の事情を抱えるパートタイム従業員の働きやすさを実現する企業風土、従業員の能力向上と継続勤務のモチベーションとなる職能等級制度の存在があげられます。

 生産体制の工夫としては、一人の従業員が複数の業務や機械の操作を担当できるよう「多工程・多台持ち」の仕組みを導入しており、従業員同士で互いの業務を補い合い円滑に業務を進めることが可能となっています。また、パートタイム従業員を対象とした職能等級制度の構築によって能力に応じた等級に基づき賃金を支給するほか、店長への登用や正社員転換等の制度も設けており、これらの制度を通じてパートタイム従業員の能力向上と継続勤務へのモチベーションアップを図っています。

 上記のような従業員が安心して長く働き続けやすい職場環境の情報は、インターネットや各種メディアに取り上げられるとともに、同社も積極的に求人情報等で情報発信しています。その結果、最近では募集人数を大きく上回る応募があるなど、採用の状況も良好です。

 このように働きやすい職場環境づくりを推進しつつ、情報発信を的確に行うことなどによって人材確保が可能となるのです。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)

使用人賞与の損金算入時期

はじめに
 使用人賞与は、原則として実際にその支払が行われた日の属する事業年度において損金の額に算入することとされています。ただし、未払賞与については、例外として実際に支払いが行われたものと同様な状態にあるものに限定し、損金算入が認められています。
 そこで、本稿は、使用人に対して支給した賞与の損金算入時期の概要とその実務上の留意点について解説します。

Ⅰ 制度の概要
1 原則(法令72の3①三)
 法人が各事業年度において、使用人に対して支給する賞与のうち、下記2に掲げる賞与以外のものについては、その支払をした日の属する事業年度において損金の額に算入することができます。

2 例外
 (1)支給予定日が到来している賞与(法令72の3①一)
 法人が各事業年度において、使用人に対して支給する賞与(使用人兼務役員に対する使用人部分を含みます。以下同じ)のうち、労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来しているもの(使用人にその支給額が通知されているもので、かつ、その支給予定日又はその通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理したものに限ります。)については、その支給予定日又はその通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度において損金の額に算入することができます。

 (2)決算賞与(法令72の3①二)
  法人が各事業年度において、使用人に対して支給する賞与のうち、次に掲げる全ての要件を満たすものについては、その支給額の通知をした日の属する事業年度において損金の額に算入することができます。
  ① その支給額を各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。
  ② ①の通知をした金額を通知した全ての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1ヶ月以内に支払っていること。
  ③ その支給額につき①の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。

Ⅱ 支給額の通知(法基通9-2-43)
 法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、上記Ⅰ2(2)に掲げる「通知」には該当しないこととされます。

Ⅲ 同時期に支給を受けるすべての使用人(法基通9-2-44)
 法人が、その使用人に対する賞与の支給について、いわゆるパートタイマー又は臨時雇い等の身分で雇用している者(雇用関係が継続的なものであって、他の使用人と同様に賞与の支給の対象としている者を除きます。)とその他の使用人を区分している場合には、その区分ごとに上記Ⅰ2(2)に掲げる支給額の通知を行ったかどうかを判定することができます。

おわりに
 上記Ⅰ2(2)に掲げる決算賞与を未払計上する場合には、実際に通知書を作成して使用人に交付し、その写しに使用人の確認印を受けるなど使用人に対する通知の事実を後日立証できる様にすべきでしょう。また、①使用人に対して支給額の通知を行ったとしても支給日までに退職した者に対しては賞与を支給しなかったケース、②結果的に退職した者がいなかったため通知した金額を全額支給したケースについても、就業規則などでその通知した支給額について退職者には賞与を支給しないこととされている場合には、その未払賞与は、損金の額に算入することはできません。特に、社会保険労務士が作成している就業規則の基本書式を採用している会社においては、税務調査で問題となっているようですので留意して下さい。

社外取締役はROE、社内取締役は自己資本比率

 上場企業で社外取締役の導入が進んでいます。社外取締役導入の効果については、色々なことが言われていますが、大きくまとめると以下の二つに集約されるかと思います。

 一つはガバナンス体制の強化です。社外取締役は経営トップ(社長等)の暴走に歯止めをかける役割が期待されます。トップの暴走に対する歯止めは社外取締役だけではなく、他の一般の取締役にも求められます。ただ、従業員出身の生え抜きの社内取締役だと、「おかしい」と思っても、自分を引き上げてくれた上司であるトップに直言しにくく、取締役としての監督機能を十分に果たせないことが危惧されるのです。その点、社外取締役は元々外部の人間ですから、トップに意見を言いやすいと考えられます。  また、トップと社内取締役は長年、同じ会社で同じ目標に向かって働いてきたのですから、価値観も同一になりやすく、一般社会とは異なる会社の常識を共有してしまう危険性があります。その点、社外取締役は取締役会に会社とは違う社会の常識を持ち込むことが期待できます。  社外取締役には上記のような経営ガバナンス体制の強化の効果が期待されますが、ただ社外取締役を導入しさえすれば、それで強化されるというものではありません。社外取締役を実質的に選任する経営者が、価値観が同じで自分の言うことに逆らわないようなお友達を選べば、社内取締役とほとんど変わらなくなってしまうからです。その意味で、当然のことですが、どのような人を選ぶかが極めて重要になります。

社外取締役に期待されるもう一つの効果は、カネの使い方を変えることにあります。社内取締役と社外取締役で違いが出てくるのは、投資決定後の剰余金の使い方です。社外取締役は株主の代表ということをより強く意識しますから、配当や自社株買いなどの株主還元を重視するのに対し、従業員出身の社内取締役は会社の存続を第一に考え、社内留保を優先しがちになります。

 社外取締役が何より重視すべき指標は、株主から預かった財産の効率性を示すROE(自己資本利益率)になります。会社で投資に使い切れないカネが残ることは会社の本質に反するのだから、内部留保は株主に還元すべきだと考えます。  一方、従業員出身の社内取締役は、会社は株主のものであるだけではなく、従業員の生活共同体であるという意識を強く持ちます。雇用の流動性の低い日本では、従業員のために会社の存続を第一に考えます。そうすると、彼らの重視する指標は会社の安全性指標である自己資本比率になります。投資に使い切れないカネを不用意に社外に流出するのではなく、まさかのために内部留保すべきだという意見が強くなるのです。  社外取締役の導入で剰余金の使い方に関する意見対立は厳しくなることが予想されます。それは最終的に株主重視か、従業員重視かの会社観の違いに帰着します。どちらがいいかは即断できませんが、グローバル化により日本の会社も否応なく株主重視の経営に向けて動き出しているということなのでしょう。

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)

江戸川区南小岩6-6-8
鈴木税務会計事務所

格差拡大に向かう財務諸表

近年、格差拡大論が盛んです。これは個人間の格差拡大の話ですが、ここでは少し見方を変えて、財務諸表の格差拡大について考えてみましょう。本コラムで言いたいことは、「財務諸表が格差拡大を促している」ということではなく、「財務諸表は格差拡大を先鋭的に表示するように変わってきている」ということです。

 資産価額とは何なのでしょう。そんなことは自明のことだといわれるかもしれません。一般の消費者の感覚からすれば、資産価額とは売買する価格、つまり、その資産を実際購入した価格か売ることができる価格です。企業会計でも以前はこれで十分でした。この考え方によれば、資産価額は資産を所有する企業の外で決められるものであり、企業自体でどうこうすることのできないものでした。  しかし、近年の考え方は違います。資産価額は所有する企業の収益力により変わるとする会計基準が多くなってきています。たとえば、減損会計では、固定資産の価額には将来その資産が生む収益力が反映されると考えます。収益力が落ちれば、固定資産価額を落とすのが減損会計です。  こうなると、資産の評価は客観的なものさしでは測れません。まったく同じアパートを所有していたとしても、所有者の賃借人を集める能力に応じて資産の評価額は変わってきます。これは何もアパートに限るものではなく、工場でも店舗でも同様です。  また、税効果会計でも、収益力の高い会社ほど、繰延税金資産という資産を計上できる可能性が高まります。

新しい会計概念では損益計算書の収益力は単に損益計算書にとどまらず、貸借対照表をも動かします。本業の収益力が高ければ、税効果会計で繰延税金資産という資産を計上し、資産総額を増大させることができます。一方、収益力が低ければ、繰延税金資産を計上できませんし、場合によっては既に積んだ繰延税金資産を取り崩すこともあります。また、減損会計では既存の固定資産まで減額しなければならなくなります。こうした資産の計上や取崩しは貸借対照表の価額を変動させるだけではありません。複式簿記ですから資産の反対勘定として、損益計算書の損益を再び揺り動かします。

 つまり、元々の収益力の高い会社は貸借対照表の資産をより厚くし、それが損益計算書の最終利益を更に高めます。逆に収益力のない会社は貸借対照表の資産を減額しながら、損益計算書の損益を一層悪化させます。  近年の会計基準は、従来の会計基準ではオブラートに包んでいた、強いものの本当の強靭さと弱いものの真の脆弱さを白日のもとにさらします。その意味では弱者に冷たい制度です。日本人のメンタリティーからすれば、旧来の会計基準の方が性に合っているような気がしますが、グローバル化に従う限りこれは不可避な流れです。会計制度も世の中の風潮と同様に格差を一層助長する方向に向かっているといえます。  収益力を持つ会社は益々強く、収益力を持たない会社は益々弱くなります。今の会計制度の下で重要なのは収益力です。収益はすべてを癒します。

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)

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鈴木税務会計事務所

商工会・商工会議所による中小企業支援

中小企業の経営環境が厳しさを増す中、中小企業支援機関への期待が高まっています。中小企業支援機関の中でも商工会・商工会議所は、古くから全国の市町村において、地元に根差した中小企業支援を行っており、中小企業にとっては、幅広い相談に応じてくれる存在として認識されています。

『中小企業白書2014年版』においては、商工会・商工会議所について聴取したアンケート調査の結果が示されており、まず、その強みについては、「地域に密着した『顔の見える』支援」、「幅広い相談に対応可能」、「小規模企業支援のノウハウを持っていること」などといった回答が多くなっています。  一方で、商工会・商工会議所の課題については、「財源の不足」、「指導人員の不足」、「経営指導員の能力の差異」、「専門的知識の不足」などといった回答が多くなっています。  こうした中、経営指導員の能力向上に向けて人材育成に取り組む事例もみられています。例えば、滋賀県商工会連合会では2009年度から県内22の商工会の職員に関する「人事制度改革」を本格的に実施し、経営指導員の能力向上に向けた取組みを推進しています。具体的には6段階の階級を整備してそれらに基づいた人事評価を行い、処遇や次年度に取り組む業務に反映させています。また、経営支援に必要な専門分野を8つ設定し、それらを年間に2分野ずつ、研修等による知識習得と現場での実践を組み合わせながらマスターしていく仕組みを構築しています。  このように商工会・商工会議所では、経営指導員の能力向上のための研修制度の充実や、財源や人員不足を補完するための他の専門的な支援機関との連携が求められているのです。

では商工会・商工会議所では具体的にどのような支援が行われているのでしょうか。ここでは千葉県の木更津商工会議所の経営指導員による薬局の事業展開支援の取組みについてみていきましょう。

 木更津市で「エンゼル薬局」を経営する薬剤師が仕事を通じて地域住民の健康増進に取り組む中、無農薬、無添加で育てる市観光ブルーベリー園のブルーベリーを活用することに着目し、特産品のブルーベリーを活用したゼリーである「きさポン・ブルーベリーゼリー」を開発しました。このゼリーは一般的な市販のゼリーに比べ、ビタミン、カルシウム、ナイアシンなどといった多くの栄養素を含んでいます。こうした栄養素の高さなどが評価され、このゼリーは市立小中学校11校の給食で月1回ずつ提供されるなどの販路開拓にこぎつけました。今後は学校給食用への販路を木更津市周辺に向けて拡大したり、高齢者用、一般用の商品を新たに開発して販路を広げたりする方針です。  こうしたゼリーの開発及び販路開拓には、木更津商工会議所の中小企業診断士資格を保有した経営指導員の支援が深く関わっています。商品化にあたっては、経営指導員のサポートによってちば農商工連携事業基金を活用することができました。また、千葉県の経営革新計画の承認を受けることで、公的支援の幅を広げることも可能となりました。  このように商工会・商工会議所では、事業者の事業計画策定を支援しつつ、地方自治体や他の支援機関の支援制度の活用につなげるなどして、中小企業の製品開発・販路開拓の支援を行うことで、地域の中小企業の支援において中核的な役割を果たすことが求められているのです。(了) (記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)

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