【時事解説】中小企業にこそ求められるトップの倫理観 その1

やや旧聞に属しますが、日産自動車のゴーン元会長の逮捕は、大企業にとどまらず中小企業においても会社のガバナンスを考え直すいい機会だと思います。

 近年、主として上場企業においてガバナンス体制の構築が急ピッチで進められてきました。その柱は取締役会の活性化です。従来、ともすれば形式的になりがちであった取締役会を実質的に機能させ、社会的公正さを維持しながら経営効率の向上を図ろうとするものです。その際、取締役会が社内出身者だけで構成されていたのでは、議論が内向きになるだけではなく、人事権を握るトップに反論することは難しいだろうということもあり、社外役員の参加を義務付けました。日産自動車でも当然、複数の社外取締役や社外監査役が存在しています。

 報道によれば、ゴーン前会長の公私混同の事実は社長以下の幹部はつかんでいたようです。会社のガバナンスという見地からいえば、そうした事実があれば取締役会で議論し、前会長の反論を聞いた上で、その解任を取締役会で決め、その後に法律に違反する行為があれば、法的機関に告発するというのが筋です。

 ところが、華々しい事業実績を有し、強力な人事権を持ち、20年近くにわたり君臨するゴーン前会長を前にすると、社内の取締役は言うに及ばず社外取締役も自由に発言できなかったというのです。そこで、会社側は検察と司法取引を行い、ゴーン前会長の逮捕を先にしてもらい、ゴーン氏不在の取締役会で前会長の解任を決めました。これでは、会社のガバナンスが有効に機能したとはいえません。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》老齢厚生年金・老齢基礎年金の繰上げ・繰下げ

◆老齢厚生・基礎年金の繰上げ・繰下げとは
 老齢厚生年金・老齢基礎(国民)年金の繰上げと繰下げの制度をご存じでしょうか?
 老齢厚生年金と老齢基礎年金の受給開始年齢は、共に原則65歳となっていますが、65歳になる前に受給開始する場合を繰上げ、66歳以降に受給開始する場合を繰下げといいます。なお、65歳の1年間は繰下げできません。

◆繰上げ・繰下げのメリット・デメリット
 老齢厚生年金・基礎年金を繰上げすると、月0.5%の割合で受給額が減額されます。例えば、繰上げの上限である60歳到達時から受給する場合、原則の65歳から受給開始と比べて30%減額され、70%の受給額となります。繰上げすると、老齢厚生年金と老齢基礎年金は同時に繰上げとなり、一方のみを繰上げすることはできません。また、いったん繰上げを選択すると、生涯変更できません。
 逆に繰下げの場合、月0.7%の割合で受給額が増額されます。70歳まで5年繰り下げた場合42%の増額となり、65歳からの受給開始に比べて4割以上も受給額が増えます。
 しかし、繰下げも注意が必要です。例えば、老齢厚生年金の繰下げ期間中、加給年金は支給されません。老齢基礎年金の繰下げ期間中、振替加算は支給されません。さらに、65歳以上で在職老齢年金の対象となる場合、支給停止された部分は繰下げによる増額の対象になりません。
 なお、老齢厚生年金と老齢基礎年金は別々に繰下げを選択でき、老齢厚生年金または老齢基礎年金のみの繰下げが可能です。

◆今後の繰上げ・繰下げに関する制度改正
 年金制度改正法(令和2年法律40号)により、令和4年4月以降、受給開始年齢の選択肢が拡大され、受給開始年齢の上限が70歳から75歳に引き上げられます。75歳まで繰り下げた場合、最大で年額84%の増額となります。一方、繰り上げる場合の減額率は月0.4%に変更されますので、60歳到達から受給する場合、従来の最大30%減額が24%減額へ減額幅が縮小します。

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《コラム》JTBの減資-合法的租税回避

◆資本金1億円は中小企業扱いで税負担軽減
 新型コロナ感染の影響で、旅行業界・飲食業界を筆頭に、かつてないほど業績が悪化しています。こうした中で、財務基盤の健全化を図るとともに、税負担の軽減を受けるねらいもある「資本金を1億円以下にする減資」が増えています。JTBは23億4百万円から、スカイマークは90億円から、カッパ・クリエイトも98億円から、それぞれ1億円に減資しています。
 「中小企業扱い」による税負担軽減の狙いは、主に、(1)法人税の欠損金の繰越控除の活用、(2)地方税である法人事業税の外形標準課税の対象から外れること、などがあります。(1)は、大企業であれば黒字=所得と欠損金の相殺は所得の50%までに制限されていますが、中小企業は全額控除できます。(2)は、中小企業になることで、大企業であれば赤字でも課税される外形標準課税(事業所の床面積や従業員数、資本金等及び付加価値など外観から客観的に判断できる基準を課税ベースとして税額が算定される課税方式)が対象外となります。
(注)上記2つの規定は「資本金の額」が基準となります。一方、均等割(=前年の所得金額の多少にかかわらず、地方自治体の行政サービスを維持するために要する費用を広い範囲の人に負担してもらうための税)は、「資本金等の額=資本金+資本剰余金」が課税標準となるため、資本金を資本剰余金に振り替えて減資をする場合(=カッパ・クリエイトのケース)では、均等割は従前と変わりません。

◆租税回避ですが合法です
 租税回避は、税金を逃れるという悪いイメージがありますが、合法であれば何ら問題はありません。意図はどこにあれ、通常の手続で減資をして、「資本金1億円超」という課税要件の充足を避けることができています。

◆租税回避への対抗は税制改正だけ
 誰が見ても“最初から贈与税回避の意図がアリアリだろう”と思われた「武富士専務贈与税事件」は、最高裁で合法の判決となりました。結局、国は税制改正をし、こうした抜け道に蓋をすることで対処するしかできませんでした。
 従業員がグループ全体で2万7千人(JTB 2020年3月末)もいてどこが中小企業だという世論が大きくなると、税制改正で、こうした減資による減税にも蓋がされるかもしれません。

《コラム》36協定届が更に様式変更されます(令和3年4月~)

◆昨年の36協定届の様式変更
 昨年4月に、働き方改革に対応して、時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定届)の様式が変更されたばかりですが、今年も4月以降、様式が変更されます。
 昨年の変更では、「時間外及び休日労働を合算した時間数は、1か月について100時間未満でなければならず、かつ2か月から6か月までを平均して80時間を超過しないこと」というチェック項目が追加されました。労働基準監督署は、チェックボックスへのチェックがない届出は原則受理せず、再度の提出を求めているようです。

◆今年の様式変更で何が変わるの?
 今年の36協定届の様式変更で変わるのは、以下の2点です。
 ①36協定届への押印・署名の廃止
 ②36協定当事者に関するチェック項目の追加
 ①は、デジタルガバメントの推進が新型コロナにより加速され、行政への届出には原則ハンコを不要とする押印原則の見直しによるものです。
 しかし、36協定届が36協定書を兼ねて提出される場合、従来通り記名押印または署名が必要です。押印・署名が省略できるのは、36協定を別の書面で締結して、その内容を36協定届に転記して提出する場合に限られますので、注意が必要です。
 ②は、36協定の労働者側の当事者である労働者代表が法定通りに適切に選任された者であることの確認のため、チェック項目が2つ追加されました。
 チェック項目は、「協定当事者である労働組合が事業場の全ての労働者の過半数で組織する労働組合又は全ての労働者の過半数を代表する者であること」及び「労働者代表が管理監督者ではなく、選出の際に投票や挙手等の方法で選出され、使用者の意向に基づいて選出された者でないこと」です。

◆届出は電子申請も可能です
 36協定届の提出は電子申請が可能です。労働基準監督署へ出向いたり郵送したりする手間やコストの削減の他、新型コロナの感染防止の観点からも電子申請をオススメします。

《コラム》リモートワークにおける社内コミュニケーション

◆管理職が意識すべき「傾聴」のポイント
 思いもよらぬコロナ禍の影響により、仕事でもプライベートでも、オンラインによるコミュニケーションが増加しています。多くの企業のリモートワークは、十分な準備ができないままに始まり、「リモハラ」という言葉も生まれました。
 ですが、組織内のコミュニケーションの問題はいまに始まったことではありません。企業において分業と協業を成立させるためには必須であり、これまでも組織活性化の視点で重要なテーマとされてきました。
 活性化のために効果的な方法としては、組織の中核である管理者のスキル開発があげられます。たとえば、評価のフィードバックの方法については、研修のテーマとしてよくみられますね。「積極的な聞き役」としてのスキルも大切です。ただ「聞く」のではなく、「傾聴」といわれる行為です。
 管理職にとっての傾聴のポイントは、部下から報告や相談を受けた際、話の内容を否定的にとらえず、相手がそのように考える理由や背景について関心を持って聴くことです。これは時間もかかりますし、集中力や努力も必要としますが、部下との信頼関係を構築するために非常に有効です。

◆言語による発信の大切さ
 一方で、言葉によらない「非言語コミュニケーション」も、対人関係においては大きな役割をもちます。たとえば、相手との距離感、アイコンタクト、身ぶり手ぶり、といったものですが、これがオンラインでは活用が難しい状況です。
 そのため、やはり言葉でのコミュニケーションを充実させる必要があります。部下から仕事の連絡をもらったとき、あるいは作成した書類が提出されたとき、内容を確認してから返信しようとして数日たってしまった、というようなことはないでしょうか。出社していれば、忙しい様子も相手にわかってもらえるかもしれません。しかしリモートワークでは、自分から発信しなければ、相手に伝わりません。内容を確認する時間がなければ、まずは忘れないうちに、受け取ったことに対して反応を返しましょう。これによって、部下はつながっている安心感を得ることができ、次のコミュニケーションへとつながっていきます。

【時事解説】脱炭素化で増大する「電費」の重要度 その2

バイデン米政権が誕生し脱炭素が強化されるようになりました。世界的に電気自動車の普及促進が取り組まれています。その中、消費者にとって、電費(1kWhで走る距離、ガソリン車でいう燃費のようなもの)向上は、今後、様々な面でメリットをもたらすことが予想されます。

 一つは、電費向上が企業にとって商機になることです。たとえば、電費を向上させるには、より性能の高いモーターが必要です。モーターメーカーは売上向上のチャンスとなります。また、車内に搭載された、エアコンの消費電力を抑えるには、高断熱材が商機になります。このように、電費向上は様々な部品メーカーの商機になります。

 社会全体にとっても電費向上はさまざまなメリットをもたらします。電気自動車は二酸化炭素を排出しませんが、自動車を動かすための電力には、火力発電のように二酸化炭素を排出するものもあります。従って、電費をよくすることは、電力の消費量を減らし、結果、脱炭素に貢献します。

 また、将来的には電費向上は企業の収益に貢献する可能性もあります。菅政権が脱炭素の政策を掲げる中、現在、カーボンプライシングが検討されています。これは、名前の通り二酸化炭素に価格をつけ、排出量の多い企業には税や罰金という形でお金を負担してもらうというものです。具体的な方法は検討中ですが、ヨーロッパなどで採用されている排出権取引方式が日本でも用いられると、二酸化炭素排出が少ない企業は、排出の多い企業に二酸化炭素の枠を売ることができるようになります。つまり、電費向上をして、二酸化炭素の排出量を減らせば、その成果を収益に結び付けることができます。こうなると、電費向上は企業がお金を稼ぐための手段の一つにもなります。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】脱炭素化で増大する「電費」の重要度 その1

 

バイデン米政権が誕生し、脱炭素化(GX:グリーン・トランスフォーメーション)に関する政策が強化されるようになりました。中でも、電気自動車は二酸化炭素を排出しないため、バイデン政権は普及に力を入れています。一例を挙げると、全米に50万カ所の充電設備を設置する計画を政権発足後に掲げました。米国企業もこうした流れを受け、ゼネラル・モーターズは2035年までにガソリン車の製造販売をやめて、電気自動車などに切り替える方針を明らかにしています。

 併せて、日本でもGXが加速しています。GXの流れの中、最近は「電費」という言葉を耳にする機会が増えました。電費とは、ガソリン車でいう燃費のようなものです。ガソリン車の場合、1リットルの燃料で走ることのできるキロ数を「燃費」として表示しますが、電気自動車の電費では、1kWhで走れる距離数を示します。
 従来から、燃費が良い車はガソリン代を低く抑えられるので、消費者の購入意欲を促します。同様に、電費の良い車は電気代を抑えることができるので、魅力的な商品となります。

 現在、電気自動車を買うときは価格やバッテリー容量(容量が大きければ一回の充電で長く走れる)が比較のポイントとして大きな割合を占めています。今後は、買った後にかかる費用も比較のポイントとして加わることが予想されます。結果、電費の良し悪しは重要な基準となるでしょう。

 消費者が電費を強く意識するようになると、自動車メーカーは、高性能の電池を搭載するだけでなく、今後はさらに、車体の形を工夫し、軽い素材を用いるなど、電費を意識して設計するようになることが予想されます。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

 

【時事解説】小規模事業者に期待される役割・機能 その2

では、小規模事業者においては期待される役割に対して具体的にどのような取組みが行われているのでしょうか。以下で、中小企業庁編『中小企業白書2020年版』の中で、特に小規模事業者においての役割が期待される「生活インフラ関連型」の事例として紹介された、吉野川タクシー有限会社(本社:徳島県徳島市)の取組みについてみていきましょう。

 同社の現社長は祖父が代表を務めていた同社を27歳のときに事業承継したことを契機に、地域の人々の移動を支えることを目的に新たなサービス開発やIT化に取組んでいます。
 同社では妊産婦が安心して病院に通えるよう、妊産婦専用のタクシーサービス「マタニティタクシー」を新たなサービスとして考案しました。同サービスは、安全性能の高い専用車両とヘルパーの資格を持つドライバーを特徴とし、登録制で24時間いつでも通常のタクシーと同じ料金で利用できます。また、複数の子供たちを相乗りさせて塾や習い事の送り迎えを行う「キッズタクシー」を考案しました。これらの妊産婦・子供向けのサービスをきっかけとして、同社のリピーターとなるケースもあり、通常のタクシー利用にもつながっています。

 現場のIT化については、タクシーの自動配車システムを開発しました。同システムの導入により、コールセンターが利用者から電話を受けると、最短距離にいるタクシーを自動で検出し、車内に搭載されたタブレット端末経由で通知することで、効率的・安定的な配車が可能となっています。
 このように人口減少・少子高齢化が深刻な地方において、地域住民のニーズに応えることで生き残りを図ることが可能となるのです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】小規模事業者に期待される役割・機能 その1

 

『中小企業白書2020年版』では、中小企業・小規模事業者に期待される役割・機能を「グローバル展開をする企業(グローバル型)」、「サプライチェーンでの中核ポジションを確保する企業(サプライチェーン型)」、「地域資源の活用等により立地地域外でも活動する企業(地域資源型)」、「地域の生活・コミュニティを下支えする企業(生活インフラ関連型)」の四つの類型に分類し考察を行っています。

 同白書において上記4つの類型に基づいて小規模事業者に対して実施したアンケート調査の分析結果についてみると、「生活インフラ関連型」と回答した企業が62.5%と最も多く、以下「地域資源型」が23.6%、「サプライチェーン型」が6.3%、「グローバル型」が3.5%の順となっています。中規模企業も含めた中小企業全体と比較すると、小規模事業者では、「生活インフラ関連型」、「地域資源型」の回答割合が高くなっており、地域や住民生活との密接性を重視する企業の割合が高いことがわかります。

 業種別に見ると、「生活インフラ関連型」を目指す企業の割合が高いのは「医療・福祉」、「生活関連サービス業」、「電気・ガス・熱供給・水道業」、「金融業、保険業」などとなっています。「地域資源型」を目指す企業の割合が高いのは「農業、林業、漁業」、「宿泊業」、「製造業」などとなっています。

 4つの類型別に今後5年間の事業方針についてみると、小規模事業者の中で割合の高い「生活インフラ関連型」では「現状維持」と回答する企業の割合が58.5%となっており、「成長・拡大」と回答する割合29.5%を大きく上回っています。

 このように小規模事業者に期待される役割は多様なものとなっているのです。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

 

《コラム》給与?経費精算? 在宅勤務に係る費用負担

 

◆在宅勤務にまつわる費用はどうなる?
 新型コロナウイルス感染症の蔓延によって、日本社会は「リモートワーク」や「在宅勤務」といった言葉が一般的になりました。会社が支給してくれる在宅勤務等に係る費用について、従業員の皆さんや経理担当の方の中には「これは経費になるの? それとも給与扱い?」と疑問を持った方もおられるのではないでしょうか。

◆課税当局からの説明
 国税庁は今年1月に「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」というまとめを出しています。
 「在宅勤務手当」を従業員に支給した場合は「給与として課税する」ことになります。在宅勤務手当とは、在宅勤務を行う社員に一律に金額を支給するものなどです。また、在宅勤務に係る事務用品等を支給する場合でも、これは現物支給の給与扱いとなりますので、課税となります。
 一方、「貸与」として事務用品等を社員に貸し出した場合は、給与扱いとはなりません。その事務用品を使ってもらうために、仮払いでお金を出した場合でも、領収書で精算をする場合でも、どちらでも給与課税とはなりません。また、企業が従業員に専ら業務に使用する目的で「支給」したとしても、業務に使用しなくなったとき返却してもらう場合には「貸与」とみて差し支えないとのことです。

◆通信費や電気料金は按分計算が必要
 通信費や電気料金についても、業務に利用した部分を合理的に計算した金額を支給している場合に関しては給与として課税する必要はありません。
 ただし、一定の金額を「通信費等で必要だろう」と渡し切りにしている場合、実際に業務のために使用した額を超えている部分については、給与として課税する必要があると説明しています。
 業務のためのスペースが自宅になく、レンタルオフィス等を従業員に借りてもらった費用を会社が出している分については、給与として課税する必要はありません。