《コラム》のれんの償却期間 -買収した事業の価値はいつまで続く?-

事業の多角化をねらい、事業買収をしたとき、時価純資産価額を超えて対象事業を評価することで生じた「のれん」の価値は、いつまで継続するのでしょうか?

◆のれんの価値
 のれんには譲渡した側の経営者が長年築いてきた信用、取引先との契約関係、社員のスキル・経験など、様々な価値が内包されていますが、消費者のニーズの変化や市場の変化に応じて減価し、自社の事業に吸収されていきます。
 のれんの償却は、会計・税務上、次のように扱われています。

◆会計上の償却期間
 日本の会計基準では、のれんは、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたり毎期、規則的に償却します。これは、取得事業から生じる収益と償却費用とを対応させることができること、のれんの減価を合理的に予測することが困難であること等の考え方によります。また、のれんの未償却残高は、減損処理の対象となり、投資額の回収を見込めないときは、減損処理が求められます。
 IFRS(国際財務報告基準)では、のれんは償却せず、取得原価のまま評価されますが、毎期、減損テストを行い、減損が認識された場合は、減損処理を行います。

◆税法上の償却期間
 法人税法では、のれん(資産調整勘定)は、60か月(5年)の月割り均等償却です。償却期間が会社の見積りで任意に設定されることを回避し、所得に与える影響を中立にさせています。
 なお、償却に当たり、損金経理要件は課されておらず、会計基準が求める減損処理も法人税法では認められていません。

◆のれんの価値を育てる
 事業を承継した経営者は、買収した事業を自社の事業と融合させて、のれんの価値を高め、投資額を上回る利益の獲得を目指します。その意味からすれば、取得したのれんは、投資の回収を見込む期間内で早めに償却を行い、自社の新たなのれんとして育てていくべきものではないでしょうか。
 買収した事業ののれんは、イソップ物語に出てくる金の卵を産むガチョウのような存在かもしれません。ただし、あせってガチョウの腹をさかないように。

(後編)2019年度査察白書:査察の告発事案は100%有罪!

(前編からのつづき)

 ちなみに、刑罰は10年以下の懲役に、罰金は1,000万円(脱税額が1,000万円を超える場合は、脱税相当額)以下となっております。
 いわゆるマルサといわれる査察は、大口・悪質な脱税をしている疑いのある者に対し、犯罪捜査に準じた方法で行われる特別な調査をいいます。
 そして、調査にあたる国税査察官には、裁判官の発する許可状を受けて事務所などの捜査や帳簿などの証拠物件を差し押さえたりする強制捜査を行う権限が与えられます。

 この査察調査は、単に免れた税金や重加算税などを納めさせるだけでなく、検察への告発を通じて刑罰を科すことを目的としております。
 1980年に初めて実刑判決が出されて以降は、毎年実刑判決が言い渡されております。
 すでに着手した査察事案について、同年度中に告発の可否を最終的に判断(処理)した件数は165件で、このうち検察庁に告発した件数は70.3%(告発率)にあたる116件あったことからも、査察の対象になると、約7割程度が実刑判決を含む刑事罰の対象となりました。

(注意)
 上記の記載内容は、令和2年9月7日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

(前編)2019年度査察白書:査察の告発事案は100%有罪!

2019年度査察白書によりますと、2019年度中に一審判決が言い渡された124件の100%に有罪判決が出され、うち5人に対し執行猶予がつかない実刑判決が言い渡されました。
 実刑判決で最も重いものは、査察事件単独に係るものが懲役10ヵ月、他の犯罪と併合されたものが懲役9年でした。

 事例では、A社はプロセッサ開発・製造・販売等を行うもの会社ですが、架空の外注費を計上するなどの方法により所得を隠し、多額の法人税及び消費税を免れておりました。
 同社の元代表者Bは、詐欺罪との併合事件として、法人税法、消費税法及び地方税法違反の罪で、懲役5年の実刑判決を受けております。
 一審判決があった124件の1件当たり平均の犯則税額は4,700万円、懲役月数は15.5ヵ月、罰金額は1,200万円となりました。
 査察の対象選定は、脱税額1億円が目安といわれ、また、脱税額や悪質度合いの大きさが実刑判決につながります。
 査察で告発されますと、社会的信用を失うだけでなく、巨額な罰金刑や実刑判決の可能性も十分にあります。

(後編へつづく)

(注意)
 上記の記載内容は、令和2年9月7日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

《コラム》令和2年度地域別最低賃金

◆改定目安は示されず各地方審議会で決定
 令和2年度地域別最低賃金改定額は中央最低賃金審議会で賃上げ額が目安は公表されず、下記のような答申にとどまりました。
「令和2年度の地域別最低賃金額は新型コロナウィルス感染症拡大による現下の経済・雇用への影響等を踏まえ引き上げの目安を示すことは困難であり、現行水準を維持することが適当」とされ、各地方最低賃金審議会に一任されました。
 それを受け各地の審議会で、小幅な改定又は据え置きで10月からの最低賃金額が決定されました。

◆月給の場合の最低賃金額の算出方法
 月給の場合は年間の休日数を出して年間の労働日数を確定させます。例えば土日や祝日、夏季休業、年末年始の休日合計が125日の場合、365-125日=240日が年間の労働日数です。1か月の平均労働日数は240÷12か月=20日となります。1日8時間勤務なら1か月の平均労働時間は20日×8時間=160時間となります。月給を160時間で割り算すれば時間単価が出ます。同じ月給額でも事業所の所在地が東京都の場合は単価が高いので最賃割れで違法でも、地方では大丈夫というケースがあるわけです。

 令和2年度の改定額は以下の通りです。
据え置き
東京 1013円 大阪 964円 京都 909円  静岡 885円 広島 871円 山口 829円 北海道 861円
 
1円改定
宮城 825円 栃木 854円 神奈川 1012円 新潟 831円 富山 849円 石川 833円 福井 830円 山梨 838円 長野 849円 岐阜 852円 愛知 927円 三重 874円 兵庫 900円 奈良 838円 和歌山831円 岡山 834円 福岡 842円
 
2円改定
秋田 792円 福島 800円 茨城 851円 群馬 837円 埼玉 928円 千葉 925円 滋賀 868円 鳥取 792円 島根 792円 香川 820円 高知 792円 佐賀 792円 大分 792円 沖縄 792円

3円改定
青森 793円 岩手 793円 山形 793円 愛媛 793円 徳島 796円 長崎 793円 熊本 793円 宮崎 793円 鹿児島 793円

《コラム》令和2年分から本格化 年末調整手続の電子化

所得税の確定申告や消費税、法人税、法定調書に続き、年末調整についても電子化が進んでいます。

◆年末調整手続の電子化とは
 従来、年末調整では各種控除証明書を書面で収集し、各種の年末調整申告書を書面で作成するケースがほとんどでした。令和2年10月以降は、これらの各種控除証明書や各種年末調整申告書を電子データでやり取りし、これらを電子データのまま保存することも可能となります。これにより、手書きによる書類の作成や書類への押印も不要となり、書類保管コストも削減することができます。

◆勤務先(給与の支払者)の準備
①電子化の方法の検討
 年末調整の電子化は義務ではありませんので、従来の方法によることもできます。また、会社の都合にあわせて部分的に電子化していくことも可能です。
②従業員への周知
 年末調整のデータを提出する従業員にも事前準備が必要となりますので、電子化する際には、早めに従業員に周知する必要があります。
③給与システム等の改修
 電子データを受け入れるには、現在のシステムの改修等が必要となるケースが多くなります。ソフトウェア会社や依頼している税理士事務所等へお問い合わせ下さい。
④税務署への届出
 従業員から年末調整申告書を電子データで提供を受けるためには、所轄税務署長に「電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、承認を受ける必要があります。

◆従業員(給与所得者)の準備
①年末調整申告書作成用のソフトウェアの取得
 どの種類のソフトを利用するかは、勤務先の指示に従います。国税庁が無償で提供するソフトウェアは、10月頃リリースの予定です。
②控除証明書等データの取得
 保険会社等から控除証明書データを取得します。マイナポータル連携を利用して一括取得する方法もあります。

 

《コラム》令和2年度地域別最低賃金

◆改定目安は示されず各地方審議会で決定
 令和2年度地域別最低賃金改定額は中央最低賃金審議会で賃上げ額が目安は公表されず、下記のような答申にとどまりました。
「令和2年度の地域別最低賃金額は新型コロナウィルス感染症拡大による現下の経済・雇用への影響等を踏まえ引き上げの目安を示すことは困難であり、現行水準を維持することが適当」とされ、各地方最低賃金審議会に一任されました。
 それを受け各地の審議会で、小幅な改定又は据え置きで10月からの最低賃金額が決定されました。

◆月給の場合の最低賃金額の算出方法
 月給の場合は年間の休日数を出して年間の労働日数を確定させます。例えば土日や祝日、夏季休業、年末年始の休日合計が125日の場合、365-125日=240日が年間の労働日数です。1か月の平均労働日数は240÷12か月=20日となります。1日8時間勤務なら1か月の平均労働時間は20日×8時間=160時間となります。月給を160時間で割り算すれば時間単価が出ます。同じ月給額でも事業所の所在地が東京都の場合は単価が高いので最賃割れで違法でも、地方では大丈夫というケースがあるわけです。

 令和2年度の改定額は以下の通りです。
据え置き
東京 1013円 大阪 964円 京都 909円  静岡 885円 広島 871円 山口 829円 北海道 861円
 
1円改定
宮城 825円 栃木 854円 神奈川 1012円 新潟 831円 富山 849円 石川 833円 福井 830円 山梨 838円 長野 849円 岐阜 852円 愛知 927円 三重 874円 兵庫 900円 奈良 838円 和歌山831円 岡山 834円 福岡 842円
 
2円改定
秋田 792円 福島 800円 茨城 851円 群馬 837円 埼玉 928円 千葉 925円 滋賀 868円 鳥取 792円 島根 792円 香川 820円 高知 792円 佐賀 792円 大分 792円 沖縄 792円

3円改定
青森 793円 岩手 793円 山形 793円 愛媛 793円 徳島 796円 長崎 793円 熊本 793円 宮崎 793円 鹿児島 793円

《コラム》令和2年分から本格化 年末調整手続の電子化

 所得税の確定申告や消費税、法人税、法定調書に続き、年末調整についても電子化が進んでいます。

◆年末調整手続の電子化とは
 従来、年末調整では各種控除証明書を書面で収集し、各種の年末調整申告書を書面で作成するケースがほとんどでした。令和2年10月以降は、これらの各種控除証明書や各種年末調整申告書を電子データでやり取りし、これらを電子データのまま保存することも可能となります。これにより、手書きによる書類の作成や書類への押印も不要となり、書類保管コストも削減することができます。

◆勤務先(給与の支払者)の準備
①電子化の方法の検討
 年末調整の電子化は義務ではありませんので、従来の方法によることもできます。また、会社の都合にあわせて部分的に電子化していくことも可能です。
②従業員への周知
 年末調整のデータを提出する従業員にも事前準備が必要となりますので、電子化する際には、早めに従業員に周知する必要があります。
③給与システム等の改修
 電子データを受け入れるには、現在のシステムの改修等が必要となるケースが多くなります。ソフトウェア会社や依頼している税理士事務所等へお問い合わせ下さい。
④税務署への届出
 従業員から年末調整申告書を電子データで提供を受けるためには、所轄税務署長に「電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、承認を受ける必要があります。

◆従業員(給与所得者)の準備
①年末調整申告書作成用のソフトウェアの取得
 どの種類のソフトを利用するかは、勤務先の指示に従います。国税庁が無償で提供するソフトウェアは、10月頃リリースの予定です。
②控除証明書等データの取得
 保険会社等から控除証明書データを取得します。マイナポータル連携を利用して一括取得する方法もあります。

 

【時事解説】AIが人柄を判断する その2

状況が順調なときは問題がありませんが、カネが足りなくなってきたとき、返済に対してどのような態度を取るかは人によって異なります。誠実性の高い人は自分の生活をギリギリまで切り詰めても返済をしようとしますし、反対に誠実性の低い人は自分の生活を優先して返済を後回しにするでしょう。そんな誠実性の判断ができれば、与信判断の妥当性はもっと高くなるのではないかと思っていたのです。しかし、そんな誠実性は数値化できないので、与信判断に加えることは無理というのが常識でした。ところが、最近のAI(人工知能)の発達はそんなこともできるようになっているようです。

 買い物履歴、クレジットカードの使い方やその決済状況などは金銭に関する直接的情報ですから、金銭に対するその人の誠実性を判断する重要な情報になることはいうまでもありません。そうした金銭情報だけではなく、その人がネットでどういう情報を好んで読んでいるのかとか、フェイスブック、ツイッターに対する共感や反感を総合的に分析すれば、返済に関する誠実性をかなり正確に判断できるようになるというのです。

 まだ、実用段階には至っていないようですが、もはや将棋ではプロを凌駕するほどになったAIによるビッグデータ分析の急速な発達を考えれば、早晩可能になるでしょう。借入人の誠実性までも加味した与信判断が行える時代は目前に迫っているようです。

 しかし、ここまで考えたとき思わずドキリとします。確かにカネを貸す立場からは誠実性を判断材料にできるというのは朗報ですが、借りる方からすればゾッとしません。自分の人柄を機械に判断され、「お前は誠実性が低いからカネを貸せない」と言われるのは、何か薄気味悪い気がします。技術の進歩は何もかも数値化を可能としてしまう勢いなのですが、果たしてこれが望ましい社会なのかというと、考え込んでしまいます。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

 

【時事解説】AIが人柄を判断する その1

私は以前、銀行で融資を担当していたことがありますが、融資をする際に最も重要なのは与信判断でした。与信判断とは、借入申込人におカネを貸してもいいかどうか、そして貸せることができるとしたら、いくらまで貸せるかを判断することです。

 与信判断は、つまるところ、借入人の返済財源を見極めることにあります。そして、返済財源は二つに分けることができます。第一の財源は将来の収入見込みです。借入金の返済期間中、収入が十分にあれば、返済できると判断できます。ただ、将来は何があるか分かりません。勤めている会社が倒産してしまうかもしれませんし、病気になり働けなくなってしまうかもしれません。そうした不慮の事態に備えて、第二の財源として担保を取ります。不動産などの担保を評価して、もしものことがあっても担保で取り返せるということであれば、融資可能と判断できることになります。
 ここで肝心なことは、将来収入も担保評価も数値で表現されるということです。その数値を融資金額と比較衡量して、融資の可否及び融資金額を決定します。

 このような形で融資をするのが基本ですが、私は、果たして与信判断を返済財源だけで行うことは正しいのだろうか、という疑問をずっと抱いていました。というのは、特に個人に対する融資について当てはまることなのですが、与信判断には返済財源という数値では表現できない、もっと大切なことがあるのではないかと感じていたからです。それは、やや漠然としていますが、借入人の借入金の返済に関する誠実性といったものです。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》心地良い職場環境の指針~快適なオフィス空間を目指して~

◆事業主の職場環境配慮義務
 コロナ禍の中で迎えた今年の夏も、例年通りの暑い日が続きました。猛暑の中通勤をし、空調の効いたオフィスに到着すると少しほっとできますね。
 ところで、過ごしやすいと感じる環境は人それぞれですが、温度や湿度を含む職場の快適な空間作りのルールは、事業主の努力義務として法律で定められていることをご存じですか。今一度、規則を確認してみましょう。

◆安衛法および事務所衛生基準規則
 労働安全衛生法(安衛法)第71条の3の規定に基づく快適職場指針によると、事業者は、以下の4つの視点から措置を講じ「仕事による疲労やストレスを感じることの少ない、働きやすい職場づくり」を目指すことが望ましいとされています。
(1)作業環境の管理
(2)作業方法の改善
(3)労働者の心身の疲労の回復を図るための施設・設備の設置・整備
(4)その他の施設・設備の維持管理
 これによると、不快と感じることがないよう、空気の汚れや臭気、温度等を適切に維持管理することや、心身の負担が大きい力仕事や不自然な姿勢での作業をさせないこと、休憩室等を設置・整備すること、洗面所やトイレ等も清潔で使いやすい状態にしておくこと等が示されています。
 また、快適な職場空間を維持するため継続的かつ計画的に取り組み、労働者の意見を聞き、個人差への配慮及び潤いへの配慮も考慮すべきとしています。
 更には、安衛法に基づく事務所衛生基準規則には室温が17℃以上28℃以下になるように努めること等、より具体的な数値が示されているので確認するとよいでしょう。

◆快適職場で効率アップ
 勤労者にとって、職場は生活時間のおよそ3分の1を過ごす場所であり、いわば生活の場の一部といえます。その生活の場が暑すぎたり、寒すぎたり、汚れていたり、身体に負担がかかる作業であったり、人間関係が良くない場合には、本人にとって辛いだけでなく、生産性の面からも能率の低下をきたします。
 職場を疲労やストレスを感じることの少ない快適なものとすることは、職場のモラル向上、労働災害の防止、健康障害の防止だけでなく事業活動の活性化に繋がることでしょう。