《コラム》私道の調査-相続した土地の売却-

Tさんは一人暮らししていた被相続人(母)の土地・建物を相続しました。建物は木造で築50年、公道から奥まったところに建築されており、公道から玄関まで通路としている私道を、近隣の地権者と一緒に利用していましたが、不動産会社に土地の売却を相談したところ、思いがけず現状のままでは売却できないことがわかりました。

◆接道義務を満たさないと建築不可
 建物の敷地は、原則として、建築基準法上の道路に2m以上接道しなければ、新築や増築できず、そのままでは売却できる土地になりません。
 Tさんの敷地は私道部分が路地状敷地で、出口側で公道と2m接していませんでした。

 敷地が接道義務を満たしているかは、まず法務局で公図、地積測量図を見て、土地の形状、隣地や道路との境界を確認します。
 次に、敷地が接する道路について、市区町村の役所で指定道路図を閲覧し、建物を建築できる敷地に該当するか、該当させるための条件を担当者に照会します。
 私道が位置指定道路や、セットバックを要する2項道路に該当しているか、私道部分が路地状敷地である場合は、出口側で接する道路の指定状況を確認します。
 Tさんは、隣接する土地を地権者と一緒に売却して2mを確保することとしました。

◆越境により建築できない場合も
 土地の売却前に、隣地との境界について確定測量を行います。隣地からの越境は、隣地地権者の立ち会いのもと、境界確認と合わせて越境の状況を双方で確認します。
 Tさんは、確定測量の結果、隣地建物の外壁やドア、換気用フードなどが私道部分に越境しており、まだ2mの接道義務を満たせていないことがわかりました。

◆地権者間で権利調整が必要
 越境が確認された場合、建物が建築できる土地になるよう、隣地地権者と話し合い越境解消について合意が必要です。
 Tさんの場合、買主の不動産会社が役所に出向き、建築できるための条件を相談し、役所が示した要件に合わせて隣地地権者と越境解消の工事手順と負担について話し合い、土地を売却できるようになりました。

 

【時事解説】第三者承継支援総合パッケージについて その2

では、第三者承継支援総合パッケージはどのような内容となっているのでしょうか。そこで同パッケージの概要についてみていきましょう。

 第三者承継支援総合パッケージでは1年間で6万者、10年間で60万者の第三者承継の実現を目指しています。同パッケージは、①経営者の売却を促すためのルール整備や官民連携の取組、②マッチング時のボトルネック除去や登録事業者数の抜本増加、③マッチング後の各種コスト軽減の三つの柱から成り立っています。

 一つ目の柱である経営者の売却を促すためのルール整備や官民連携の取組においては、「事業引継ぎガイドライン」を改訂し経営者が適正な仲介業者・手数料水準を見極めるための指針を整備することで第三者承継を経営者の身近な選択肢とすることや、事業引継ぎ支援センターの無料相談体制を抜本強化し、経営者が気軽に相談できる第三者承継の駆け込み寺とすることなどが主な施策として掲げられています。

 二つ目の柱であるマッチング時のボトルネック除去や登録事業者数の抜本増加においては、「経営者保証ガイドライン」の特則策定により個人保証の二重取りを原則禁止とすることや、「事業引継ぎ支援データベース」を民間事業者にも開放し、スマホのアプリを活用したマッチングなど簡便なしくみを提供することなどが主な施策として掲げられています。

 三つ目の柱であるマッチング後の各種コスト軽減については、新社長就任に向けた後継者の教育支援や、事業の選択と集中を促す補助金の創設をはじめ、予算・税・金融支援を充実させることが掲げられています。

 以上の取組を通して、親族外の第三者による承継を後押しすることが期待されているのです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】第三者承継支援総合パッケージについて その1

経済産業省は、後継者不在の中小企業に対して、第三者による事業承継を総合的に支援するため、2019年12月に「第三者承継支援総合パッケージ」を策定しました。
 これは、後継者未定の中小企業について、これまでの対策では不十分な点があったため、黒字廃業の可能性のある中小企業の技術・雇用等の経営資源を次世代の意欲ある経営者に承継・集約することを目的に取りまとめられたものです。
 とくに親族外の第三者による承継を推進するうえで、中小企業のM&Aの件数が、潜在的な後継者不在の中小企業の数と比較して不十分となっており、その背景として以下の3点があげられます。

 一つ目の課題として、マッチング前の段階において、中小M&A市場の売り手と買い手の割合が1対9程度となっているなど売り案件が圧倒的に少数である点があげられます。経営者にとって第三者承継が身近でなく、他者へ「売る」ことへの抵抗感が根強いことや、仲介手数料や仲介業者などのM&Aに関する情報が不十分なため、売りを躊躇することが要因として考えられます。

 二つ目の課題として、マッチング時の段階において、事業引継ぎ支援センターの成約率が約8%にとどまっているなどマッチングの成立が困難な点があげられます。個人保証の存在により承継を拒否したり、従業員も含め適切な相手が見つからなかったりすることが要因として考えられます。

 三つ目の課題として、マッチング後の段階において、承継後の経営統合が困難な点があげられます。承継後の経営統合や事業戦略の再構築にコストを要することを懸念して、承継を躊躇することが要因としてあげられます。

 これらの課題に対処するため、第三者承継支援総合パッケージでは政策の抜本強化が図られているのです。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》チケット寄附金控除とふるさと納税

◆チケット寄附金控除とふるさと納税の違い
 コロナ対策税制の一つで「国が認定したイベントチケットを払い戻さない場合は税の控除が受けられる」という制度ができました。寄附金控除といえば、地場の特産品がお得に貰えるというふるさと納税が人気です。ふるさと納税は「個人の所得や控除によって決まる上限金額」より年間のふるさと納税額が低ければ、基本自己負担は2,000円で済み、それ以外は住民税や所得税が減額されるというのが特徴です。
 チケット寄附金控除に関しては、ふるさと納税だけに許されている住民税をたくさん引いてくれる控除がないため、自己負担は2,000円とはいかず、税を引く額は最大でもチケット代金の50%程度になります。ふるさと納税では適用できない、所得税の「認定NPO法人等寄附金特別控除」が利用でき、所得税率に依存しない減額になる仕組みです。

◆ふるさと納税控除上限に影響しない?
 細かな計算を省略すると、ふるさと納税の上限は「個人住民税(税額控除前)所得割額の2割強」となります。チケット寄附金控除は基本所得税部分(所得控除を選択適用可)も住民税部分も税額控除で、ふるさと納税の自己負担が2,000円で済む控除上限金額の計算式に作用しないため、ふるさと納税の上限が低くなることはありません。
 ただし、年間の寄附総額(チケット+ふるさと納税+その他の控除を受けられる寄附)が総所得の40%(住民税は30%)を超える部分は、寄附金控除自体が受けられなくなるため、実質ふるさと納税が自己負担2,000円では済まなくなる可能性がありますが、個人の所得の3割以上を寄附に費やすというのは、あまり考えられることではないので、大半の方は「チケット寄附金控除とふるさと納税は別モノで特に干渉しない」と考えてOKです。

◆両方の控除手続には注意が必要
 ふるさと納税には、「確定申告しない」「年間で5か所以内の自治体への寄附であること」が条件のワンストップ特例申請制度があります。この制度を使えば確定申告をしなくて済みますが、対してチケット寄附金控除は「確定申告が必須」となっていますから、チケット寄附金控除を受ける場合には、ふるさと納税のワンストップ特例制度が利用できなくなります。ご注意ください。

《コラム》キャッシュレス消費者還元事業からマイナポイント事業へ

昨年10月から行われていたキャッシュレス消費者還元事業は、本年6月に終了しましたが、本年9月からは、マイナポイント事業によるマイナポイントの付与が始まります。

◆マイナポイント事業とは
 マイナポイント事業は、マイナポイントの活用により、消費の活性化、マイナンバーカードの普及促進、官民キャッシュレス決済基盤の構築を目的として行う国の事業です。国家予算2,500億円が投じられているそうです。期間は本年9月から来年3月までの7か月間です。
 本年9月以降に行われるICカード(電子マネー)・QRコード決済・クレジットカードなどのキャッシュレス決済サービスがこの制度の対象となります。マイナポイントは決済サービスの利用(チャージまたは購入)額に応じて付与されます。プレミアム率はチャージ額または購入額の25%で、上限は5,000円分となります。

◆マイナポイント取得の事前準備
 マイナポイントを取得するためには、以下の事前準備が必要となります。
①マイナンバーカードの取得
 まず、マイナンバーカードを保有していることが前提となります。
②マイナポイントの予約
 マイナンバーカードが入手できたら、次にマイナポイントの予約手続を行うと、マイキーIDが発行されます。自身のスマートフォン、パソコンで手続するには専用のアプリ・ソフトのダウンロードが必要です。パソコンやスマホがない方は、全国各地に設置してある約9万箇所の支援端末で手続ができます。
③マイナポイントの申込み
 続いて申込み手続を行い、利用しようとするキャッシュレス決済のIDやセキュリティーコードを入力します。この手続も専用アプリや支援端末で行います。

◆加盟店側の手続は不要
 キャッシュレス消費者還元事業では加盟店側(小売店、販売店等)に登録手続が必要でしたが、マイナポイント事業では加盟店に登録手続等は不要です。

 

(後編)定年退職者への海外慰安旅行の供与は原則、非課税!

(前編からのつづき)

 これは、定年退職者旅行がたまたま定年退職を機会として行われるからといって退職所得として課税することは必ずしも相当ではないという理由から、定年退職者旅行も原則、非課税とされております。

 また、永年勤続者表彰旅行については、同一人が数回旅行することもあり得るのに対し、定年退職者旅行については、定年退職という通常は生涯に1回しかない機会をとらえて旅行をすることを考慮すると、永年勤続者表彰旅行を非課税とし、定年退職者旅行を退職所得として課税することはバランスを欠くため、定年退職者旅行を原則、非課税とする理由の一つでもあるようです。

 ちなみに永年勤続者に支給する旅行や記念品等は、その人の勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること、 勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること、同じ人を2回以上表彰する場合には、前に表彰したときからおおむね5年以上の間隔があいていることの要件を全て満たしていれば給与課税しないとされておりますので、該当されます方はご確認ください。

(注意)
 上記の記載内容は、令和2年7月1日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

 

(前編)定年退職者への海外慰安旅行の供与は原則、非課税!

社内慰安旅行の費用は、一定要件を満たしていれば、企業が負担しても、従業員の経済的利益として給与課税されることはありませんが、企業のなかには定年退職者に対し、退職金のほかに海外慰安旅行をプレゼントして永年の会社に対する貢献に報いるところもあるようです。

 税務当局では、この定年退職者に対する海外慰安旅行の課税関係について、定年退職者に対する海外慰安旅行の提供については、それが永年勤続者表彰制度と同様の内容に基づくものであり、社会通念上相当と認められるものについては非課税として取り扱われ、それを上回るものについては退職所得として課税するとしております。

 永年勤続者に対する旅行や観劇の招待、記念品などは、対象者の勤続年数がおおむね10年以上などの一定要件を満たせば非課税となります。

 永年勤続者表彰制度に基づき永年勤続者を旅行に招待した場合のその永年勤続者が受ける経済的利益については、その永年勤続者の地位や勤続期間などに照らし、社会通念上相当と認められれば課税されません。

(後編へつづく)

(注意)
 上記の記載内容は、令和2年7月1日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

(後編)新型コロナウイルス感染症に伴うチケット寄附での優遇税制を創設!

(前編からのつづき)

 具体的には、映画館、博物館(美術館・動物園・水族館を含む)、テーマパーク等の観覧チケット等については、新型コロナウイルスの感染拡大防止の措置のために閉館・休園となり、前売りチケットの購入者に払戻請求権が発生した場合は適用の対象とされます。

 また、カルチャースクール・スポーツジムなど、繰り返し開催されているイベントや文化芸術に係る催しと共に旅行や食事などとパッケージで提供しているイベントについても、文化芸術・スポーツに関連するイベントであって、その他の要件を満たすものであれば、寄附金控除の対象に該当し、対象となるイベントは、文化庁・スポーツ庁がイベントの主催者の申請を受けて指定を行い次第、同庁のホームページにアップされます。

 なお、減税額については、寄附の合計額から2,000円を引いた額の40%分に当たる金額が所得税から減税され(税額控除方式の場合)、居住する自治体が指定したイベントについては、さらに最大10%分が住民税から減税されるとしておりますので、該当されます方はご確認ください。

(注意)
 上記の記載内容は、令和2年7月6日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

(前編)新型コロナウイルス感染症に伴うチケット寄附での優遇税制を創設!

新型コロナウイルス感染症の影響による政府の自粛要請を受けて、文化芸術・スポーツイベントを中止等したことで主催者に大きな損失が生じている状況を踏まえ、中止等されたイベントの入場料等について、観客等がチケット等の払戻しを受けない(放棄する)ことを選択した場合には、放棄金額の20万円を限度に寄附金控除(所得控除又は税額控除)を受けられる優遇税制が創設されました。

 寄附金控除の対象となるイベントは、
①文化芸術又はスポーツに関するもの
②2020年2月1日から2021年1月31日までに開催された又は開催する予定だったもの
③不特定かつ多数の者を対象としているもの
④日本国内で開催された又は開催する予定だったもの
⑤新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止のための措置の影響により、現に中止等されたもの
⑥中止等の場合には、入場料金・参加料金等の対価の払戻しを行う規約等があるもの又は現に払戻しを行っているものの要件を全て満たすものとされます。

(後編へつづく)

(注意)
 上記の記載内容は、令和2年7月6日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

《コラム》給与計算と不就労控除

◆控除に対するルール決めが必要
 給与計算において、賃金計算期間途中に従業員が欠勤、遅刻、早退、私用外出等で休み給与から不就労控除をする場合、働いていない分の給与の支払い義務はありませんが、控除のルールを決めておかないと無用なトラブルになりかねません。
 賃金は労働力の対価ですので、不就労(労働力が提供できない)の場合、対価(賃金)はノーワークノーペイの原理からして得られません。ただ月次給与は基本給などの定額項目が多く、定額部分の金額を変更することは煩雑です。そのため月次給与を減額する時の項目やルールが必要になります。

◆不就労控除をする方法
 控除をするには(基本給+手当)÷1か月平均所定労働時間数×不就労控除時間数が一般的ですが、欠勤控除の方法は労働基準法に規定されていません。欠勤控除をするには次のようないくつかの要素があります。
①1日当たりの金額を算出する場合、分母をどうするのか?
ア、「当該月所定労働日数」不就労があった月の所定労働日数
イ、「年平均所定労働日数」1年間の所定労働日数を12で除した日数
ウ、「当該月暦日数」不就労があった月の暦日数
②1時間当たりの金額を算出する場合の分母をどうするのか?
ア、「当該月所定労働時間数」不就労があった月の所定労働時間数
イ、「年平均労働時間数」1年間の所定労働時間を12で除した時間数
③不就労の時間を控除するのか、就労した時間を支給するのか?
ア、「控除方式」遅刻や欠勤で不就労になった時間相当額を控除する
イ、「支給方式」実際に就労した時間相当額を支給

 当該月の所定労働日数で控除すると月により時間単価が変わってきます。また、1年の平均労働時間数を使えば分母が毎月変わらなくていいのですが、1日だけ出勤したときに給与が0になる場合があります。暦日方式は土日祝日の分も支給されてしまうなど問題があります。結局、通常簡便な方法としては年平均所定労働時間数を使う控除方式が扱いやすいと言えるでしょう。