《コラム》企業発行ポイントの所得税法上の取扱い

最近ではポイント還元事業の影響もあり、企業が発行するポイントを取得する機会が増えました。このポイントは、所得税法上課税されるのでしょうか?

◆国税庁の見解
 国税庁は、国税庁ホームページの「タックスアンサー」でこのポイントの課税上の取扱いを明らかにしています。
 商品購入時の代金の値引きは、原則として課税対象となる経済的利益には該当しないという前提のもと、「一般的に企業が発行するポイントのうち決済代金に応じて付与されるポイントについては、そのポイントを使用した消費者にとっては通常の商取引における値引きと同様の行為が行われたものと考えられますので、こうしたポイントの取得又は使用については、課税対象となる経済的利益には該当しない」としています。このため、原則的には、わざわざ確定申告をする必要は無さそうです。
 ただし、「ポイント付与の抽選キャンペーンに当選するなどして臨時・偶発的に取得したポイントについては、通常の商取引における値引きと同様の行為が行われたものとは考えられませんので、そのポイントを使用した場合には、その使用したポイント相当額を使用した日の属する年分の一時所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。」ともしていますので注意が必要です。
 一時所得であるとすると、その年中の一時所得の金額が50万円以下であれば、課税関係は生じないこととなります。

◆収入計上基準は「使用した日」
 また細かいところですが、国税庁の見解では、総収入金額に算入する時期は、ポイントを「取得した日」ではなく「使用した日」の属する年分としています。所得税法では基本的に権利確定主義により収入金額を認識しますが、企業発行ポイントについてはこの考え方を採用していません。これは、企業発行ポイントの形成権的性格を考慮したように思われます。これに類似する税制非適格ストックオプションも、同じように権利を取得した時点ではなく、権利を行使した時点で経済的利益を認識する取扱いがされています。

《コラム》未婚の方も対象に ひとり親・寡婦控除の見直し

◆ひとり親も控除が受けられるように
 令和2年の税制改正で、未婚のひとり親に対しても寡婦(かふ)控除と同様の所得控除が受けられることとなり、同時に寡婦控除にも改正が加えられることとなりました。
 また、男女間に格差があった特別の寡婦控除が廃止され「ひとり親控除」として新設されます。

◆従来の寡婦(寡夫)控除との違い
 今までの寡婦(女性)控除については、本人の所得が500万円超であっても扶養親族が居る場合は27万円の控除がありましたが、寡夫(男性)控除に関しては500万円超の所得がある人については控除が受けられませんでした。この男女間の格差は「両者とも控除は無し」という納税者側から見れば悪い方向で是正が行われました。
 所得金額が500万円以下であり、かつ扶養親族に子がいる場合は、男性でも女性でも、死別でも離婚でも、未婚のひとり親でも一律に35万円(住民税は30万円)の所得控除となります。名前も「ひとり親控除」へ変更となります。この処置は従来の寡夫控除が27万円だったので男性については控除額の増加となり、今まで控除が受けられなかった未婚のひとり親については35万円の控除額増加となります。
 寡婦であり子以外の扶養親族がいる場合と、扶養親族が居なくても死別が原因の寡婦の場合は、従来と同様の27万円(住民税は26万円)の寡婦控除となります。対して男性の場合は、子以外の扶養親族が居ても、死別であっても従来から控除は受けられず、改正でもその点に変わりはありません。

◆「特別の寡婦」の名称は消滅
 従来の「特別の寡婦」控除の名称は無くなり、ボーダーラインも若干は変わるものの、ひとり親控除に引き継がれるので、悪い影響があるのは「今まで寡婦控除を受けていた所得500万円超の女性」に限定されます。
 なお、ひとり親控除、寡婦控除のいずれについても、住民票の続柄に「夫(未届)」「妻(未届)」と記載されているいわゆる事実婚状態の方は受けられません。

《コラム》老人ホーム入居一時金の贈与

◆夫婦間での生活費のやり取りと税金
 贈与税の非課税規定において、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるものは非課税とする」と定められています。
 夫婦間での生活費のやり取りは、当たり前に税金など意識せずに行っております。

◆不動産や多額の資金の移動の原則と特例
 扶養義務を果たすためとはいえ、生活費はその都度負担が原則で、多額の金銭を子供名義の預金に一括で振り込むとかの現金の移動は、課税贈与行為と通達されています。生活用不動産の共有化も、非課税の範囲を超える贈与行為となります。
 とはいえ、世の中の変化に対応して税制も、居住用不動産又はその取得資金の配偶者間贈与、教育資金、結婚・子育て資金、住宅取得資金の直系尊属からの一括贈与、を可能にするような特例措置が講じられてきています。

◆老人ホーム入居金は不動産的で一括だが
 老齢化社会になり、老人ホームへ入居する際の入居金の一時払いを扶養義務者が負担する、という場合はどうでしょうか。
 終身居住権を確保するためなので、性格は不動産の取得性を帯び、月々償却費消されていく前払金的性格を有し、元本の提供に近いような性格を有するものの、通常の生活を維持するための生活保持義務の履行でもあり、贈与税課税は憚られそうです。
 老人ホーム入居資金提供扶養義務者の死亡時に、一時払い入居金の未償却部分が算定し得る、としてなされた相続税の更正処分は、審判所の裁決で課税否認とされている事例があります。

◆課税とされた事例もあるが
 ネットで検索しただけで、有料老人ホームへの入居一時金が数億円というものの存在も確認されます。
 老人ホーム入居一時金が1.3億円という事例では、3年内贈与に該当するとして、贈与課税されて、最高裁まで争っていますが、納税者敗訴となっています。
 生活維持費は各人各様なので、単純に金額水準だけで、可否判定はしにくいし、入居一時金支払時の贈与というのも担税力や課税実務の実態にそぐわないし、資金支払者死亡時の未償却金の認定も計算上の数字に過ぎず、小規模宅地特例や居住不動産贈与の配偶者非課税特例とのバランスも考慮されるべき、と思われます。

《コラム》賃金請求権(退職手当除く)の消滅時効は当面3年に

◆民法(債権法)の改正
 労働基準法第115条は、賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、退職手当の請求権は5年間の消滅時効を定めています。
 2020年4月1日に施行される改正民法(第166条第1項)では、一般債権の消滅時効は次のいずれかとなります。
①債権者が権利を行使できることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき。
②権利を行使できる時(客観的起算点)から10年間行使しないとき。
 従来、「使用人等の給与」等に設定されていた短期消滅時効が民法では廃止されますので、労働基準法の賃金請求権の消滅時効の取扱いがどうなるか注目されていました。

◆労働基準法の賃金請求権は当面3年に
 厚生労働省は、通常国会に労働基準法改正案を提出し、賃金請求権の消滅時効は、客観的起算点から5年を原則とするものの、労働基準法第109条の記録保存期間に合わせて当分の間3年とし、5年後に必要に応じて見直すことになりそうです。
 なお、退職手当の請求権の5年間、年次有給休暇取得の2年間の消滅時効に変更はありません。

◆未払賃金の遡及も最大3年に
 労働基準監督官の臨検で未払賃金に関して是正勧告された場合、最大2年分の遡及払いを指導されていましたが、今回の改正で、さらに1年分多く遡及される可能性があります。
 つまり、臨検で未払賃金の是正勧告を受けた場合や未払賃金に関する裁判で会社敗訴となった場合のリスクが1.5倍となるということです。
 従来の2年遡及でも、企業にはかなりの痛手となっていましたので、遡及が最大3年となれば、会社の存続自体が危ぶまれるケースが増えてくるかもしれません。

 

【時事解説】女性の昇進を阻む「壊れたはしご」とは その2

 女性の昇進が男性に比べ劣ることは世界共通の解決しなければならない課題です。先日、米国コンサルタント会社の調査で、女性の役員比率が低い原因は「壊れたはしご」にあることがわかりました。壊れたはしごとは、女性が上る昇進の階段(はしご)は最初から壊れており、一段目から差がついてしまう、というものです。

 従来、男女差の原因は「ガラスの天井」にあると考えられていました。これは、女性の昇進には、ガラスのように透明で目に見えないが、確実に天井があり、女性が天井の先へ行くことを阻んでいるというものです。

 「壊れたはしご」が提唱され、男女差は天井(役員就任)にぶつかって発生するのではなく、第一段階であるグループ長や係長などの段階で生じていることがわかりました。結果として、上に行けば行くほど、女性の比率が低くなってしまうのです。
 そんな中、世界には、女性役員の割合を増やした国もあります。それは英国です。数年前まで、企業の女性役員は10%程度でしたが、現在では30%を超えました。なぜ、英国は増やせたのでしょうか。

 有効だった施策の一つに、「メンター制度」があります。経営層の男性が幹部候補の女性に仕事上で助言するという制度です。特徴は、異なる勤務先の男性と女性を組み合わせる点にあります。別の組織に所属しているため利害が対立しないので、互いに本音で話ができます。女性はメンターからの適切な助言により、役員にふさわしい人に成長できます。日本でも、単に数字合わせで女性を登用するのではなく、女性役員がしっかりと根付く方法を模索する必要があるといえます。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】女性の昇進を阻む「壊れたはしご」とは その1

安倍内閣は「すべての女性が輝く社会づくり」を掲げ、女性の活躍を推進してきました。2015年には、指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%にする、「2030」という目標数値が設定されました。たしかに、女性課長の比率をみると、1989年は2.0%でしたが、2018年には7.3%と増加傾向にあります。また、女性が役員に就任というニュースを耳にすることも増えました。とはいえ、「2030」の目標値、30%は程遠いのが現状です。

 欧米では、女性管理職の割合は30~40%といわれています。日本は欧米諸国と比べると、数値が低いといえます。とはいえ、本来、人口の約半分は女性ですから女性管理職の割合は50%程度が妥当といえます。欧米諸国は日本と比べ進んではいますが、女性管理職30%という数値は決して多いとはいえないのです。

 最近、米国コンサルタント会社の調査で、女性の役員比率が低い原因は「壊れたはしご」にあることがわかりました。入社後、昇進の階段を上るとき、女性の階段(はしご)は壊れているので、最初の一段から足を踏み外し、なかなか上へ登れない、というものです。企業に入社すると、おおむね数年内にグループ長や主任、係長といった地位に就くのが一般的です。この最初のステップである「グループ長」になる時点ですでに男女で差がつきます。さらに、課長、部長と上に行くに従い差が大きくなるというわけです。結果、役員の割合は、女性が少なくなるのは当然のことになります。

 シリコンバレーでの調査では、6割以上もの女性が女性であるためゴルフなどの社交行事から外された経験があり、8割もの女性が「攻撃的すぎる」と批判されたことがあるといいます。女性であることで、昇進に不利な状況は世界共通の事項のようです。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】中小企業におけるBCP策定 その2

では、中小企業のBCP策定において具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。以下で、中小企業庁編『中小企業白書2019年版』においてBCP策定を社内の人材育成としても活用し、組織力向上につなげている企業の事例として取り上げられた天草池田電機株式会社(所在地:熊本県上天草市、従業員数212人)の取り組みについてみていきましょう。

 同社は、産業用機械等の部品生産を主な業務として2002年に設立した企業です。同社が立地する熊本県では、2014年11月に、県と損害保険会社、商工会議所連合会などの商工4団体が「熊本県事業継続計画策定支援に関する協定」を締結し、BCP策定支援セミナーの開催や事業者の個別支援などを実施していました。そのような中、熊本県からBCP策定について声が掛かり、東日本大震災以降、事業継続への危機意識を高めていた同社は、BCP策定に取り組むこととしました。

 同社ではBCP策定を人材育成にもつなげるため、若手、中堅、管理職のバランスを考慮して選抜した約30名からなるチームを編成しました。県の協定に基づいて損害保険会社から招聘されたコンサルタントの指導を受けつつ、約8か月を経て2016年にBCPが完成しました。ボトムアップでBCPを策定したことから、BCPへの理解は従業員に素早く浸透しました。その結果BCP策定直後に発生した2016年の熊本地震では、各従業員が確認作業などを的確に行うことができ早期の業務再開につながりました。また、防災に限らず、幅広い業務で従業員から自発的な改善提案が行われるようになるなどの効果が出るとともに、社会や地域からの評価も高まっています。
 このようにBCPの策定によって組織力向上などの効果も期待できるのです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

 

【時事解説】中小企業におけるBCP策定 その1

中小企業が自然災害への備えを図るうえでカギとなるのが事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定です。中小企業庁編『中小企業白書2019年版』では中小企業におけるBCP策定の現状と課題について調査しています。

 同白書に基づき、BCPの策定状況についてみると、BCPを策定している割合は全体の16.9%となっています。また、従業員規模が小さくなるほど策定割合が低くなり、「名称を知らず、策定もしていない」と回答した企業の割合が高くなっています。

 BCPを策定している企業のきっかけとなったことについて回答割合の高い順にみると、「販売先からの勧め(23.1%)」、「行政機関からの勧め(17.8%)」、「自身の被災経験(17.8%)」となっており、BCPの策定を進めるには、販売先や行政機関などといった周囲からの働きかけが効果的であることがわかります。次に、BCPを策定した企業が感じている平時のメリットについてみると、「重要業務とは何か見直す機会になった」と回答した企業の割合が59.2%と最も高くなっており、BCPの策定を契機に自社の事業を見直し生産性向上につなげるような策を講じていることが見て取れます。一方で「効果は感じていない」と回答した企業の割合は13.6%にとどまっており、大半の企業がBCP策定により何らかの平時のメリットを感じていることがわかります。一方で、BCPを策定していない企業の理由について回答割合の高い順にみると、「人手不足(29.1%)」、「複雑で、取り組むハードルが高い(27.2%)」、「策定の重要性や効果が不明(21.1%)」となっています。

 このように、人手不足や取り組むハードルの高さを理由として、中小企業においてBCPの策定は現状では難しい取り組みと考えられているのです。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》お金が必要になった時の年金担保融資(令和4年まで)

◆年金担保融資とは?
 どうしてもお金が必要な事情があるときは、自分で持っていなければ家族や友人、消費者金融、銀行から借りるということになるかもしれません。しかしそれ以外にも年金受給中の方であれば「年金担保融資」が受けられます。その要件は?
①申し込み可能者……老齢年金、老齢基礎年金、障害年金、遺族年金を受給している方
②融資金額……10万円~200万円
③利率(金利)……2.8%
④資金使途……保健医療、介護福祉、住宅リフォーム、教育、冠婚葬祭、事業維持、債務等の一括整理、生活必需品購入
 銀行や消費者ローンだと金利は10%~18%の範囲が多いのですが、それに比べると年金担保融資は金利がかなり低いといえます。すでに他で借り入れていた債務整理に充てることも認められています。
 また、老齢年金だけでなく、障害年金や遺族年金受給者の方も利用できます。

◆年金担保融資の利用条件
 年金担保融資は前提として「融資希望額」が借り入れ限度額です。
①受給している年金の0.8倍以内(1年分。年金から源泉徴収されている所得税額相当額を除く)
②1回あたりの返済額の15倍以内(元金相当は大体2年6か月以内で返済する)
 融資限度額は「必要な金額」を希望しなければなりません。また、その額が必要なことを証明する資料(「見積書」「請求書」等)を添付しなければなりません。使途自由で限度額内なら何度でも借り入れできる消費者金融や銀行とは違うところです。

◆定額返済額は1万円単位
 年金担保融資は年金を受ける権利を担保に借り入れる制度ですから、借り入れをした方に支給される年金から指定した額が引かれ自動的に返済されます。上限は1回あたり年金支給額の3分の1以下、下限は1万円です(ただし借り入れの決まりがあるので融資額によって1万円以上になることがあります)。また、連帯保証人は必要ですが、いないときは信用保証制度が使えます。
 シニア層になると消費者金融や銀行からの借り入れが難しくなりますが、年金担保融資なら60歳過ぎても借りられるので心強い制度ですね。

《コラム》スマート税務行政とチャットボット

◆スマート税務行政とは
 スマート(smart)とは、活発な、賢明な、という意味で、最近の標語の「超スマート社会」は、サイバー空間と現実社会が高度に融合した社会として、ロボット、人工知能、ビッグデータ、IoTなどを駆使する未来像のことです。
 国税庁は、スマート税務行政の実現に向けてとして、この1月から「チャットボット(chatbot)」の導入を始めました。チャットボットとは対話(chat)とロボット(bot)という2つの言葉を組み合わせたもので、対話を行うロボットのことです。

◆チャットボットに誘う入口
 国税庁のホームページに行くと、チャットボットに誘う入口が案内されています。現在のチャットボットは試験導入で、電話相談や訪問相談の代替措置として,税務当局側の人員不足や繁忙期における円滑な対応についての課題解決を図るため、土日、夜間等の日時にとらわれない相談チャネルとして、導入するものとされています。
 試験導入では、令和元年分の所得税の確定申告のうち、医療費控除や住宅ローン控除、ふるさと納税などの各種控除を中心に、給与収入や年金収入がある方の「よくある質問」に対応しています。

◆税務相談を担当している「ふたば」
 「ふたば」という名前のついたチャットボットの画面では、次のように展開されて行きます。
①アイコンをクリックするとチャットウィンドウが開く。
②チャットウィンドウに質問を入力すると、AIが自動回答する。
③適切な回答ができないような質問をされた場合は、AIからチャット上にメニューボタンが複数表示されることによる逆質問で、質問内容を補完する。
 今後は、相談事例を蓄積して、回答範囲を拡大していく予定としていますが、ロボット自身も、自己学習を積み重ねていくでしょうから、ゆくゆくはベテランの電話相談員のような対応ができるようになるのだと期待されます。
 チャットボットの画面でも、利用者の意見により改善を進め、AI(人工知能)の学習を行うことで、回答の精度が向上していきます。最初は、うまく答えられない質問もあるかもしれませんが、温かい目で成長を見守ってください、とメッセージしています。