(後編)2018年度査察白書:査察の告発事案は100%有罪!

(前編からのつづき)

 実刑判決で最も重いものとして、査察事件単独に係るものが懲役4年6ヵ月、他の犯罪と併合されたものが懲役7年でした。
 A社は、美容関連製品の輸出販売を行い、架空の国内仕入(課税取引)及び架空の輸出売上(免税取引)を計上する方法により、不正に多額の消費税の還付を受けており、同社の代表者Bは、消費税法及び地方税法違反の罪で、懲役4年6ヵ月の実刑判決を受けました。
 1件あたりの犯則税額は6,100万円でしたが、平均の懲役月数は14.3ヵ月、罰金額は1,400万円となりました。

 査察の対象選定は、脱税額1億円が目安とされ、脱税額や悪質度合いの大きさが実刑判決につながるといわれております。
 そして査察で告発されますと、社会的信用を失うだけでなく、巨額な罰金刑や実刑判決もありえますので、ご注意ください。
 なお、刑罰は10年以下の懲役に、罰金は1,000万円(脱税額が1,000万円を超える場合は、脱税相当額)以下となっております。

(注意)
 上記の記載内容は、令和元年11月8日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

(前編)2018年度査察白書:査察の告発事案は100%有罪!

2018年度版査察白書によりますと、2018年度中に一審判決が言い渡された122件の100%に有罪判決が出され、そのうち7人に対して執行猶予がつかない実刑判決が言い渡されました。
 また、すでに着手した査察事案について、同年度中に告発の可否を最終的に判断(処理)した件数は182件で、このうち検察庁に告発した件数は66.5%(告発率)にあたる121件となりました。

 査察(いわゆるマルサ)とは、大口・悪質な脱税をしている疑いのある者に対し、犯罪捜査に準じた方法で行われる特別な調査をいい、調査にあたる国税査察官には、裁判官の発する許可状を受けて事務所などの捜査をしたり、帳簿などの証拠物件を差し押さえたりする強制捜査を行う権限が与えられます。
 この査察調査は、単に免れた税金や重加算税などを納めさせるだけでなく、検察への告発を通じて刑罰を科すことを目的としております。
 刑罰とは懲役や罰金をいいますが、これまで実刑判決はなく、執行猶予と罰金刑で済んでいましたが、懲りない面々に対し、1980年に初めて実刑判決が出されて以降は、毎年実刑判決が言い渡されております。

(後編へつづく)

(注意)
 上記の記載内容は、令和元年11月8日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

《コラム》年末調整 令和2年分扶養控除等申告書

◆よく見ると年分に違いがあります
 年末調整は、給与を受ける人それぞれについて、原則毎月の給与や賞与などの支払いの際に源泉徴収した税額と、その年の給与の総額について納めなければならない年税額とを比べて、その過不足を精算する手続きです。各種「控除申告書」を経理担当者等に出すことになりますが、提出書類の中で、1枚だけ翌年分のものを渡されます。
 これはミスではなく「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」については、「来年扶養する予定の人の内容をお知らせする書類」で、提出期限が他の2枚、「給与所得者の配偶者控除等申告書」「給与所得者の保険料控除申告書」が「その年最後の給与等の支払いを受ける前日」なのに対して、「令和2年の最初の給与の支払いを受ける日の前日」となっている関係で、「提出日が1か月しか違わないので、年末調整時にまとめて出してもらおう」という計らいによってお手元に来ているのです。

◆それぞれの紙の意味
 今年の年末ベースを簡単に説明すると
①令和元年分給与所得者の保険料控除申告書:今年(2019.1~12)の保険料等を会社に教えて、所得税の計算をやり直し、年末調整で過不足金を計算するための書類
②令和元年分給与所得者の配偶者控除等申告書:今年(2019.1~12)の配偶者の合計所得を見積もって、配偶者控除・配偶者特別控除を再計算し、年末調整で過不足金を計算するための書類
③令和2年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書:来年(2020.1~12)の、給与から天引きしてもらう所得税を決めるために、来年の扶養控除対象の人数を会社に知らせるための書類となります。

◆扶養控除等申告書は変更の際は出し直し
 本来扶養の内容に変更がある場合は、年の途中でも出し直しが必要ですが、多くの方は、年末調整時の来年の扶養控除申告書で兼用します。また、2か所以上から給与を貰っている場合は、扶養控除等申告書は1か所のみ提出可能となっています。
 2か所以上から給与を貰っている場合は、確定申告が必要となります。

 

《コラム》税法における行政上の制裁

過少申告や無申告があった場合には、延滞税の他に各種加算税が課されます。加算税は義務違反に対する行政上の制裁として課される行政罰の一種です。加算税には下記のものがあります。

◆過少申告加算税
 期限内申告が行われた後に修正申告又は増額更正がなされた場合に課されます。原則として増差税額の10%(期限内申告税額相当額又は50万円のいずれか多い金額を超える部分は15%)の金額です。
 ただし、正当な理由がある場合や調査通知「前」に更正がされることを予知しないで修正申告をした場合は課されません。
 調査通知「後」であっても更正がされることを予知しないで修正申告をした場合は5%(期限内申告税額相当額又は50万円のいずれか多い金額を超える部分は10%)となります。

◆無申告加算税
 期限内申告が行われず期限後申告又は決定がなされた場合等に課されます。
 原則として増差税額の15%(50万円を超える部分は20%)の金額です。過去5年内に無申告加算税又は重加算税が課されたことがある場合には更に10%加算されます。
 ただし、正当な理由がある場合等は課されません。調査通知「前」に決定又は更正を予知しないで期限後申告等をした場合は5%となり、調査通知「後」に決定等を予知しないで期限後申告等をした場合は10%(50万円を超える部分は15%)となります。

◆不納付加算税
 源泉徴収等による国税が法定納期限までに完納されなかった場合に課されます。
 原則として完納されなかった額の10%です。正当な理由がある場合等は課されません。納税の告知を予知しないで納付をした場合は5%となります。

◆重加算税
 上記加算税が課される場合において、国税の計算の基礎となる事実を「隠蔽又は仮装」したところに基づき納税申告書を提出したときに、上記加算税に代えて課されます。過少申告・不納付加算税に代える場合は35%、無申告加算税に代える場合は40%です。過去5年内に無申告加算税又は重加算税が課されたことがある場合には更に10%加算されます。

《コラム》中堅からベテランまでを拡充したいとき使える助成金

◆45歳以上人材の活用
 企業の人材採用が難しい時代が続いています。そうした中で中高齢者の採用は選択肢の一つとなります。特に最近では45歳以上の年齢でも転職が珍しくない時代になっており、実力のある人材を採用するチャンスも到来しています。今回は会社の核となる45歳以上の人を雇用したときに使える助成金を紹介します。

◆中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)
 「中途採用拡大コース」には「中途採用率の拡大」と「45歳以上の初採用」の2種類ありますが、45歳初採用が比較をして使いやすいでしょう。過去に45歳以上の人を中途採用したことがない会社が対象です。
 中途採用計画(1年以内の期間を定める)を作成し、計画書の申請をしておきます。その後会社として初めての雇い入れ時に45歳以上の人を1名以上雇用すると60万円、該当の人が60歳以上の人であれば70万円の助成金を受給することができます。何名採用しても良いのですが、2名以上雇用しても助成金額の増額はありません。

◆支給の要件と注意点、特徴
①過去に45歳以上の労働者を中途採用していないこと
②期間を定めていなくてもパートタイマー労働者は対象になりません。先ほど出てきた中途採用計画の期間中に45歳以上の人を期間の定めのない正社員等で採用する必要があります。
③助成金が支給決定されるまでに対象の社員が退職してしまうと支給されません。
④申請できるのは1事業所で1回
⑤助成額は大企業と中小企業で同額

◆その他の項目の重要度は?
 当該助成金は特定求職者雇用開発助成金のようにハローワークからの紹介に限定されませんし、比較的若者向け助成金が多い中、中高齢者の採用時に使える助成金です。ちょうど45歳以上あたりで会社のメインを担うような人材をこれから増やしたい、若い人もいいけれど安定感も欲しいから中高齢者がいいんだよね、といったときにピッタリでしょう。また大企業と中小企業で助成金額が変わらないので大企業で申請をしてみるのも良いでしょう。

《コラム》義援金の控除と見舞金の損金算入

◆義援金はふるさと納税扱い
 今年も災害が多い年となってしまいました。被害に遭われた方へ、心よりお見舞い申し上げます。
 被災地へ寄附された方も多くいらっしゃると思いますが、寄附した全額が地方公共団体へ拠出するものについては、個人の所得や控除によって決まる上限金額以内の寄附であれば2,000円の負担で済む「ふるさと納税」扱いとなります。

◆寄附先でワンストップの可否が決まる
 個人が地方公共団体の災害対策本部や役所等に直接寄附をした場合、確定申告を用いない、寄附先が5自治体以内である場合に利用できる「ワンストップ特例制度」が利用可能です。
 日本赤十字社等が専用口座を設けて、義援金を募集して、最終的に全額が地方公共団体に拠出されるものも、ふるさと納税扱いとはなるものの、ワンストップ特例制度は利用できないので、控除を受けたい場合は、確定申告をする必要があります。
 なお、ふるさと納税扱いになる寄附に関しては、法人の場合は「国等に対する寄附金及び指定寄附金」という扱いになるため、全額損金算入となります。

◆被災した取引先に対する見舞金は?
 取引先が被災し、お見舞いのお金を出した場合は、被災前の取引関係の維持・回復を目的とするため、取引先が通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間において支出する際には、交際費等には該当せず、損金の額に算入する、となっています。
 また、見舞金だけではなく、自社の製品等の無償交換や補填、売掛金等債権の全部又は一部の免除をしたことによる損失も、交際費等には該当しません。リース等の契約で定められた従前の取引条件を変更する場合及び災害発生後に新たに行う取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様の措置となります。
 寄附等を受けた取引先では、受領した災害見舞金及び事業用資産の価額に相当する金額を益金の額に算入することに留意してください。

【時事解説】無電柱化による防災効果とは その2

台風により大規模停電が発生し、注目を集めるようになった「無電柱化」。電線を地中に埋めて、電柱をなくすことで、防災が図れると期待が高まります。ただ、埋没させるには多額の費用がかかり、なかなか進んでいません。

 その中、少しずつではありますが、千葉、埼玉、神奈川などの多くの自治体で電線の地中化を進めています。特に、東京都の小池知事は2016年の都知事選で「都道電柱ゼロ」を公約に掲げ、ライフワークとして取り組み、成果も見えはじめています。具体的には、整備対象となる都道の2328キロメートルのうち、935キロメートルが電線を地中に埋めることができました。これは対象全体の40%に相当します。さらに、この先は都道だけでなく、区市町村が管理する道路でも無電柱化を進められるよう、2019年度の予算では促進するための補助をはじめています。

 最大の課題はコスト削減です。地下にはガスや上下水道などが埋設されているので、これらを避けながら電線を埋設しなければなりません。手数がかかることもあり、通常の道路工事よりもはるかに工事費が高くなります。ただ、コストの問題は解決に向かって進んでいます。現在、費用は1キロメートル当たり4~5億円かかりますが、10年後には約3分の2程度になるよう、技術革新が進んでいます。

 外国の都市では無電柱化が進んでいるところが多くあります。ロンドンやパリではすでに100%になっており、アジアでもソウルやジャカルタでは4割程度の電線が地中に埋没されています。無電柱化は防災だけでなく、景観をよくする効果もあります。多くの自治体が望む無電柱化。コストの問題にどれだけ取り組めるかがカギとなります。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】無電柱化による防災効果とは その1

台風15号、19号は日本列島に冠水や土砂崩れなど、様々な被害をもたらしました。中でも、長期にわたる大規模停電は住民の生活に影響を及ぼしました。この停電により、急速に注目を集めているのが「無電柱化」です。無電柱化とは、電線を地中に埋めて、電柱をなくすというものです。注目される理由は、停電の原因の一つが倒木などで電線が切断されたことが挙げられます。電線を地中に埋めてしまえば、倒木などによる断線を防げるので停電を回避することができます。

 また、台風で電柱が倒壊すると、停電復旧までに時間を要します。電柱をなくすことで、すみやかな災害復旧が可能になります。このほか、無電柱化は台風だけでなく、地震や竜巻などへの防災にも有効です。実際、東日本大震災では、地中に埋設させた線のほうが電柱と比べて著しく被害が少なくすんだ実績があります。

 以前から無電柱化の必要性は指摘されていました。ただ、課題が多く、それほど進んでいません。日本国内の道路は全長約120万キロメートル。このうち、無電柱化が実施された区間は約3万キロメートルにすぎません。遅々として進まない要因の一つはコストにあります。電柱を地中に埋める費用は、1キロメートル当たり4~5億円が必要だといわれています。自治体の多くは財政状況が厳しく、簡単に費用を捻出できない状態にあります。

 とはいえ、台風の被害から無電柱化を要望する声は高まりました。こうした状況下、国土交通省は自治体向けに無電柱化を促進するためのガイドラインを今年度中に作成するとも報じられています。今後の無電柱化の推進に期待ができそうです。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

 

【時事解説】中小企業における人手不足の現状と課題 その2

では、人手不足になりつつある状況下では、中小企業の労働生産性や労働環境の現状はどのようになっているのでしょうか。中小企業庁編「中小企業白書2019年版」に基づいて見ていきましょう。

 まず、労働生産性について企業規模別従業員一人当たり付加価値額の推移をみると、大企業では、リーマン・ショック後に一度落ち込んでいるものの、その後は一貫して緩やかな上昇傾向にあります。一方で中小企業では、大きな落ち込みは無いものの長らく横ばい傾向が続いており、足下では大企業との差は徐々に拡大しています。
 次に、労働環境について企業規模別の給与額の推移について見ると、中小企業の給与額は2010年以降徐々に上昇し続けているものの、大企業の給与水準との格差は埋まらずに推移しています。

 また、従業者規模別賃上げ率(一人当たり平均賃金の改定率)の推移について見ると、従業者規模が299人以下の企業の賃上げ率は、2010年頃から上昇傾向にはあるものの、それ以上の規模の企業の賃上げ率を概ね下回っており、従業者規模による格差は拡大しています。
 従業者規模別の年間休日総数の企業割合について見ると、年間休日総数が110日を超えると従業者規模の大きな順に取得割合が高くなっており、規模の小さな企業ほど有給休暇等の取得が進んでいないことがわかります。なお、企業規模別特別休暇の利用企業割合について見ると、病気休暇、リフレッシュ休暇、ボランティア休暇においては従業者規模間における差異が顕著であり、中小企業にはまだ改善の余地があることがわかります。

 このように中小企業の人手不足解消に向けては、労働生産性の向上と労働環境の改善の両方が求められるのです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】中小企業における人手不足の現状と課題 その1

少子高齢化を背景として生産年齢人口が減少していることにより、人手不足が深刻になりつつあります。以下で、中小企業庁編「中小企業白書2019年版」に基づいて、深刻化する人手不足の現状について見ていきましょう。

・有効求人倍率及び新規求人倍率について:リーマン・ショック以降緩やかに上昇し続けており、有効求人倍率は、足下では約45年ぶりの高水準、新規求人倍率は過去最高水準で推移しています。
・事業所の従業者規模別の求人数の推移について:従業者規模が29人以下の事業所に係る求人数については、30人以上の規模の大きな事業所に係る求人数と比較して2009年以降大幅に増加しています。
・従業者規模別の雇用者数の推移について:従業者規模が500人以上の事業所においては、右肩上がりで年々雇用者数を増加させている一方、29人以下の事業所は右肩下がりで推移しており、従業者規模の小さい事業所ほど新たな雇用の確保が難しくなっています。
・従業者規模別に大卒予定者の求人数及び就職希望者数の推移:就業者数299人以下の企業では、大卒予定者の求人数は足下では2015年卒から5年連続で増加している一方、就職希望者について見ると2017年卒から減少傾向にあり、求人倍率は足下の2019年卒では9.9倍と、2018年卒の6.4倍から大きく上昇しています。一方、従業者300人以上の企業についてみると、2017年卒以降は求人数の増加傾向は変わらないものの、求職者数がそれを上回って増加していることから、2019年卒の求人倍率は0.9倍と1倍を下回る結果となっています。

 以上のことから従業員規模が大きな企業に求人が集中しており、規模の小さな企業の人材確保が厳しくなっている状況が見て取れるのです。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)