【時事解説】2024年版中小企業白書・小規模企業白書の概要 その2

 では、2024年版小規模企業白書ではどのような内容が記載されているのでしょうか。ここでは2024年版小規模企業白書の構成に沿ってその概要をみていきましょう。

 第1部では2023年度の小規模事業者の動向について各種統計データ等に基づきまとめています。
 第2部では、「経営課題に立ち向かう小規模事業者」というタイトルで分析を行っています。

 第1章は、「小規模事業者の経営課題と対応」というテーマで、小規模事業者の売上確保に向けた取組、資金繰り改善に向けた取組、人材確保に向けた取組について分析を行っています。その中で、小規模事業者は販路開拓や人手不足、資金繰り等の経営課題を重視する傾向にあり、これらの課題に対応しながら、売上を確保し事業を持続的に発展させていくことが重要である点を指摘しています。
 第2章は、「小規模事業者に対する今後の期待」というテーマで、小規模事業者の地域貢献と新たな担い手の創出という切り口から分析を行っています。その中で、創業にチャレンジしやすい環境の中で起業・創業により新しい事業者が生まれ、新たな担い手が参入することが重要であること、新たな担い手の参入は労働生産性の向上につながる可能性があることなどを指摘しています。
 第3章は、「中小企業・小規模事業者を支える支援機関」というテーマで、支援機関の現状と課題や、支援体制の強化に向けた取組について分析を行っています。

 このように、小規模事業者が中小企業と比べ厳しい経営環境にある中で、支援機関を適宜活用しつつ、コストを把握した適正な価格の設定や、顧客ターゲットの明確化に取組むことで売上高の増加につなげていくことなどが指摘されているのです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】2024年版中小企業白書・小規模企業白書の概要 その1

 中小企業庁では、2024年版中小企業白書・小規模企業白書を取りまとめ2024年5月10日に閣議決定し公表しました。

 2024年版中小企業白書・小規模企業白書の特色としては、 中小企業・小規模事業者の現状や直面する課題に加えて、今後の展望として中小企業が環境変化を乗り越え、経営資源を確保して生産性の向上に繋げていくための取組や、成長につながり得る投資行動とそのための資金調達、小規模事業者が売上を確保し今後も事業を持続的に発展させていくために必要となる取組、支援機関の役割と体制の強化などについて分析を行っている点にあります。

 2024年版中小企業白書の構成に沿ってその概要は以下の通りです。
 第1部では2023年度の中小企業の動向についてまとめています。
 第2部では、「環境変化に対応する中小企業」というタイトルで各章において3つのテーマ別の分析を行っています。
 第1章は、「人への投資と省力化」というテーマで、人材の確保や多様な人材の活用、省力化投資について分析を行っています。
 第2章は、「中小企業を支える資金調達」というテーマで、中小企業と間接金融や、中小企業とエクイティ・ファイナンスについて分析を行っています。
 第3章は、「中小企業の成長」というテーマで、中小企業の成長投資への意欲や、中小企業の成長に向けた取組などについて分析を行っており、企業の成長には、人への投資、設備投資、M&A、研究開発投資といった投資行動が有効である点を指摘しています。
 第4章は、「中小企業・小規模事業者を支える支援機関」というテーマで、支援機関の現状と課題や、支援体制の強化に向けた取組について分析を行っています。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》マイホーム買換えの場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除

◆買換え時に売却損が出た時の特例
 通常、不動産の譲渡所得については、他の不動産の譲渡所得以外の所得と損益通算ができませんが、マイホーム(旧居)を売却して、新たにマイホーム(新居)を購入した場合に、旧居の譲渡損失が生じた時は、一定の要件を満たしていればその譲渡損失を給与所得や事業所得などの他の所得から控除することができます。
 また、損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰り越して控除することができます。
 この特例の名称は「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」といいます。

◆繰越控除「のみ」受けられないケースも
 「買換え」の特例ですから、新居を取得・もしくは取得予定でなければ適用できません。他にも、旧居は5年以上所有していること、住まなくなって取り壊した場合は3年経過する日の属する12月31日までに新居を取得、新居を取得した年の年末に償還期間10年以上の住宅ローン控除がある、過去2年間他のマイホームに係る特例を受けていないこと等の要件があります。
 また、この特例には「繰越控除のみ受けられない」条件が設けられており、
①「繰越控除適用年」の12月31日において、新居について償還期間10年以上の住宅ローンが無い
②合計所得金額が3,000万円を超える年(その年のみ適用できない)
③旧居の敷地面積が500㎡を超える場合は、超えた部分については繰越控除不可
 以上の場合は繰越控除が認められません。

◆住宅ローン控除と併用可能だが
 マイホーム買換えの場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除は、新居の住宅ローン控除が要件に含まれていますから当然併用が可能です。ただし、繰越控除が翌年に残るということは、その年の所得額は0円ということですから、その年の住宅ローン控除で引かれる税額は0円になります。繰り越す譲渡損失が所得金額と比べてとても大きいと、最大4年間は住宅ローン控除の恩恵が受けられず、住宅ローン控除期間を後ろ倒しにはしてくれませんから、適用期間は減ってしまうことになります。

《コラム》夫婦間の役務提供についての課税

◆親族間の役務提供は原則、経費不算入
 夫はITエンジニア、夫と同一生計の妻はWEBデザイナーです。それぞれ独立した個人事業者として事業を行い、確定申告しています。このような中で夫が妻の受注した顧客向けECサイトの構築業務をサポートした場合、妻が夫に支払う役務提供の報酬は、妻の事業所得の必要経費に算入されません。また、夫は収受した報酬も自身の事業所得の収入金額に算入されず、サポートに要した夫の経費は、妻の必要経費となります。この取扱いは、夫婦など同一生計親族間で所得を分散させる租税回避を防止するために設けられた制度です。

◆弁護士夫婦事件で問われたもの
 独立した親族間の役務提供を所得金額に反映させることの是非が争われたのが、いわゆる「弁護士夫婦事件」です。
 裁判では、それぞれ独立して弁護士業を営む夫婦間において、妻弁護士が夫弁護士に提供した役務に対する報酬は、所得税法に規定するとおり、夫の事業所得の必要経費とならず、妻の事業所得の収入金額にならないと判示されました。
 また、親族からの役務提供を所得金額に反映させない取扱いと、親族以外の他人からの役務提供を所得金額に反映させる取扱いとの不整合が憲法14条違反となるかについても、裁判所は、これらの区別は合理的であり、憲法違反ではないとしました。

◆青色事業専従者給与等は必要経費算入
 一方、夫の事業に妻や子供などの親族が青色事業専従者等として従事する場合は、帳簿記帳と一定規模の就業、相当な対価などの要件をもとに、夫が親族に支払う給与は夫の事業の必要経費となり、支払を受けた親族の収入金額となります。これも親族間の役務提供ですが、透明性を担保に例外として所得金額への反映を認めています。

◆個人単位課税への転換が契機に
 親族間の役務提供の経費不算入も、青色専従者給与制度も、戦後、世帯単位課税から個人単位課税に移行する中で、補完措置として設定されました。しかし、現代は副業をはじめ多様な働き方が求められ、夫婦共働きや夫婦間での協業も普通に行われます。独立した事業を適正な対価で営む親族間の取引を所得計算から除外することは、時代の流れに整合しなくなっている面もあります。青色事業専従者として雇用し、法人成りして給与を支払うことでも経費算入は可能ですが、違和感はぬぐえません。

《コラム》居住用財産譲渡の3,000万円控除の要件

◆マイホームを売った時に使える特例
 マイホーム(居住用財産)を売ったときに、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例を「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といいます。
 利用するためには様々な要件があり、国税庁は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例適用チェック表」を用意しています。この表に売却する(売却した)マイホームを照らし合わせれば、この特例が利用できるか確認が可能です。代表する要件を簡単に見てみましょう。

◆居住用でなければもちろんダメ
 他の居住用財産関係の特例と同じく、基本的には「住んでいなければダメ」です。別荘や仮住まい、セカンドハウスには適用できませんが、単身赴任等で家主が離れているものの、家族が生活しているといった場合はOKです。住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに家屋もしくは家屋と共に敷地等を売る場合に、特例が利用可能です。
 家屋を取り壊した場合については、取り壊しから1年以内に売買契約をし、かつその間に貸付等に利用していないことが条件となります。

◆他の特例との重複適用は基本NG
 3,000万円の特別控除の特例は、長期譲渡所得の課税の特例(所有期間10年超で譲渡益6,000万円以下の部分の税率を優遇)を併用できますが、居住用財産関係の特例や住宅ローン控除と併用することができません。併用できない期間も設定されており、居住用財産関係の特例については前々年、前年、当年に適用されていれば、3,000万円控除が受けられません。住宅ローン控除については居住年およびその前2年、その後3年の計6年間に3,000万円控除を受けた場合、住宅ローン控除の適用を受けることができなくなります。
 また、収用の場合の特別控除、特定期間に取得した土地等を譲渡した場合の特別控除、低未利用土地等を譲渡した場合の特別控除等、居住用でない土地に適用できる特例についても併用できません。
 法定申告期限後に特例の選択替えもできませんから、申告時に慌てることのないよう、早めの検討・準備をしておきましょう。

《コラム》サイバー保険とサイバーセキュリティ対策

◆税務署・国税庁を騙るメール
 e-Taxの普及に伴い、国税庁や税務署を騙る偽メールも増えています。e-Taxを装ったメールでリンク先もe-Taxの画面を模している場合もあり、うっかりアクセスしてパスワード等を入力してしまうと、犯罪に利用される恐れもあります。
①国税庁からのメール本文には、支払い催促や延滞税の金額等は記載されない
②メール本文のリンクは一見正常に見えるが、リンク先が偽装されている可能性も視野に入れ、e-Taxへのアクセスはメールから行わない
など、見分ける方法や対策を知っておきましょう。また、一部の保険会社は被害に遭った時に心強いサイバーリスクに特化した保険を出しています。どんな内容なのか見てみましょう。

◆サイバー保険の補償内容
 サイバー保険の補償対象事故は主に「情報漏洩」「ネットワーク所有・使用・管理に起因する業務阻害」「サイバー攻撃に起因する身体障害・財物損壊」です。契約プランによって取扱いは異なりますが、被保険者の損害賠償金・訴訟費用の補填、サイバー事故に起因して一定期間内に生じた事故原因調査・コールセンター設置・記者会見・見舞金の支払・法律相談・再発防止策の策定といった各種費用の補填、ネットワークを構成するIT機器等の停止による利益損害や営業継続費用の補填など、多岐にわたる補償プランがあるようです。
 また、平時における事故防止対策等のサポートを受けられるものや、ルールの策定・従業員に対する研修や教育支援・リスク診断・セキュリティソフトの導入支援等を行ってくれるものもあります。

◆サイバーセキュリティ対策してますか?
 サイバーセキュリティ対策は保険だけではありません。独立行政法人情報処理推進機構では、中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインを公開していますから、まずはそちらで理解を深めるのも良いでしょう。また、対策に取り組むことを自己宣言する「SECURITY ACTION」は、各種補助金申請の要件となっている場合があります。
 中小企業のサイバーセキュリティ対策に不可欠な各種サービスをワンパッケージで提供するサービス「サイバーセキュリティお助け隊」は、2024年のIT導入補助金でも活用が可能なので、この機会に一度検討してみてはいかがでしょうか。

《コラム》マイホーム売却時の特例

◆マイホームには税の特例がもりだくさん
 住宅ローンを借り入れて、住宅の新築・取得を行った場合受けられる住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、皆さんご存じかと思いますが、マイホームに関連する税制は売却した際にも様々な状況に応じて特例が設けられています。今回は横断的にどんな特例があるのかを見てみましょう。

◆マイホームを譲渡して売却益が出た時
①居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例:マイホーム(居住用財産)を売った時、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる。
②マイホームを売った時の軽減税率の特例:所有期間が10年を超えている場合、長期譲渡所得税率は通常15%(+住民税5%)であるのに対して、6,000万円までの部分については10%(+住民税4%)で計算することができる。
③特定の居住用財産の買換えの特例:特定のマイホームを売って、代わりのマイホームに買い換えた時、一定要件のもとに、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができる。
 ①と②は併用が可能ですが、③も含め、売却益が出て特例を利用した場合、住宅ローン控除との併用はできません。

◆マイホームを譲渡して売却損が出た時
④マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例:マイホーム(旧居宅)を売却して、新たにマイホーム(新居宅)を購入した場合、旧居宅の譲渡損失が出た場合、一定の要件を満たしていれば、譲渡損失をその年の給与所得等、他の所得と損益通算することができる。また、損益通算しても控除しきれない分は、譲渡の年の翌年以後3年内は繰越控除が受けられる。
⑤特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例:住宅ローンのあるマイホームを住宅ローンの残高より低い価額で売却して譲渡損失が出た場合、一定の要件を満たせば他の所得と損益通算できる。また、譲渡の年の翌年以後3年内は繰越控除が受けられる。
 ④は買い換えの場合に限られますが、⑤は新たにマイホームを買わなくても受けられる特例です。また、売却損が出た時に利用する特例は、住宅ローン控除併用可です。

《コラム》ストックオプション令和6年改正

◆税制適格ストックオプションの要件緩和
 スタートアップの人材確保や従業員のモチベーション向上に資するストックオプション税制。税制適格ストックオプションになれば、権利行使時に給与課税されることなく、譲渡時に譲渡所得課税となります。
 令和6年4月1日より、この税制適格ストックオプションの適用要件が緩和され、利便性が向上します。

◆社外高度人材の範囲を拡充
 ストックオプションの付与を受ける社外高度人材については、非上場の株式会社の役員、執行役員等で経験が1年以上の者、上場会社の役員に加え、執行役員等で経験が1年以上の者、教授、准教授が新たに追加されました。
 また、製品又は役務の販売活動に2年以上従事し、一定の売上要件を満たす者、資金調達活動に2年以上従事し、一定の売上要件を満たす者等も新たに追加されました。
 そのほか、これまで3年以上の実務経験が要件とされていた弁護士・会計士など国家資格保有者、博士の学位を保有する者、高度専門職の在留資格を持って在留する者については、それぞれ実務経験の要件がなくなりました。

◆権利行使価額の限度額引き上げ
 スタートアップのレイター期から上場前後の企業価値が高くなる時期には優秀な人材の採用が必要です。このため、税制適格ストックオプションとなる権利行使価額の年間限度額が大幅拡充となりました。
 限度額は、これまで一律1,200万円でしたが、設立5年未満の株式会社については、2,400万円に、また、設立5年以上、20年未満の株式会社のうち、非上場又は上場後5年未満の株式会社が付与するストックオプションについては、3,600万円に引き上げられました。

◆発行会社による株式管理が可能に
 これまで税制適格ストックオプションとなるには、証券会社等への株式の保管委託が要件でしたが、新たに証券会社の保管委託に代えて、発行会社自身による株式の管理についても税制適格ストックオプションが適用できるようになりました。証券会社に保管管理してもらう場合、コスト、時間、手続き負担がかかり、M&Aで短期間の権利行使が必要となる場合には、円滑なEXITを阻害するとの声をうけて新たな制度が創設されたようです。

【時事解説】日本経済を甘やかす低金利政策 その2

 金融には産業の新陳代謝を促す機能も期待されています。金利負担に耐えられない低収益の企業には退出してもらい、新しい成長性の高い企業が参入し、人的、物的資源を低収益企業から高収益企業に移動することにより、経済は成長することができます。ただ、新陳代謝機能を十分に発揮させるためには、金融の量的制限とある程度の金利が必要です。しかし、現在のような大量の低金利融資が蔓延すると、低収益企業が温存されてしまい、成長企業への資源移転がうまくいきません。もし、ここで急に金利が上昇すれば、人的、物的資源の受け皿になるべく成長企業が十分に存在しないまま、低収益企業が退出しなければならなくなってしまいます。

 このように、日本経済は低金利のぬるま湯の中で、厳しい選択を迫られることなく、何となく生存できている、といってもいい状況です。本来アベノミクスでは、金融緩和で時間稼ぎをしているうちに、成長戦略を実行するはずでした。しかし、肝心の成長戦略が起動しない中で、時間稼ぎであるはずの低金利の金融緩和だけが継続し、経済全体がそれに甘える体質となってしまいました。

 金融緩和が続く限り、現状維持は可能でも、いつまでもこの状況を続けることはできません。今の金融緩和は病巣を膨らませながら、解決を先送りにしているに過ぎません。今は日銀が主体的に金融政策を判断できていますが、国債発行が累増し国内貯蓄を食い潰してしまうとか、あるいはその前に個人貯蓄が海外に流出するキャピタルフライトが本格化すれば、資金不足になり、マーケットに追い込まれる形で利上げせざるをえなくなる可能性もあります。そうなると、より厳しい選択を迫られるようになることも想定しておかなければなりません。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】日本経済を甘やかす低金利政策 その1

 高まるインフレへの警戒感から、アメリカを筆頭に多くの欧米諸国が金融政策を転換し、利上げに転じています。一方、日銀は、我が国のインフレは欧米ほどではないこと、及び経済状況が一向に好転しないことなどを理由に、かたくなに金融緩和姿勢を崩しません。円安を阻止するためには金融引き締め、すなわち利上げが必要との意見も根強いのですが、この状況で利上げをすれば、日本経済に深刻な打撃を与えることは間違いありません。つまり、今の日本経済は低金利でしか生きていけなくなっている状況にあるといえます。

 低金利・大量資金供給の恩恵を最も受けているのは国家財政です。国債発行残高は1,000兆円を突破、国家債務の対GDP比率は250%を超え、先進国ではダントツの水準にあります。そうした状況でも、財政を組むことが出来るのは低金利のおかげです。ただ、それが逆に放漫財政を許容しているともいえます。

 財政を考えるときに、よく出てくるのは「大砲かバターか」という言葉です。大砲は防衛の、バターは民生の象徴です。不穏な国際情勢から防衛予算の増大が求められ、一方、依然向上しない国民生活支援も必要になります。財政はそのどちらかを選択しなければならないというのです。しかし、それは財源に限りがあるからこその話です。金利がほとんどゼロに近く、しかも最終的には日銀がその購入を約束している国債を財源にすることができれば、無理に「大砲かバター」を選択する必要はなく、「大砲もバターも」どちらも手にすることができます。こうした財政制約が緩い状況だから、バラマキ型の無駄な支出が可能となり、日本の財政は肥大化してしまっています。この状態が永遠に続くのであればそれでもいいのですが、いつかは必ず限界が来ます。資金が不足し金利が上昇する事態となれば、「大砲かバター」を今よりももっと厳しい環境下で、より苛烈な形で選択せざるを得なくなります。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)