《コラム》企業発行ポイントの所得税法上の取扱い

最近ではポイント還元事業の影響もあり、企業が発行するポイントを取得する機会が増えました。このポイントは、所得税法上課税されるのでしょうか?

◆国税庁の見解
 国税庁は、国税庁ホームページの「タックスアンサー」でこのポイントの課税上の取扱いを明らかにしています。
 商品購入時の代金の値引きは、原則として課税対象となる経済的利益には該当しないという前提のもと、「一般的に企業が発行するポイントのうち決済代金に応じて付与されるポイントについては、そのポイントを使用した消費者にとっては通常の商取引における値引きと同様の行為が行われたものと考えられますので、こうしたポイントの取得又は使用については、課税対象となる経済的利益には該当しない」としています。このため、原則的には、わざわざ確定申告をする必要は無さそうです。
 ただし、「ポイント付与の抽選キャンペーンに当選するなどして臨時・偶発的に取得したポイントについては、通常の商取引における値引きと同様の行為が行われたものとは考えられませんので、そのポイントを使用した場合には、その使用したポイント相当額を使用した日の属する年分の一時所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。」ともしていますので注意が必要です。
 一時所得であるとすると、その年中の一時所得の金額が50万円以下であれば、課税関係は生じないこととなります。

◆収入計上基準は「使用した日」
 また細かいところですが、国税庁の見解では、総収入金額に算入する時期は、ポイントを「取得した日」ではなく「使用した日」の属する年分としています。所得税法では基本的に権利確定主義により収入金額を認識しますが、企業発行ポイントについてはこの考え方を採用していません。これは、企業発行ポイントの形成権的性格を考慮したように思われます。これに類似する税制非適格ストックオプションも、同じように権利を取得した時点ではなく、権利を行使した時点で経済的利益を認識する取扱いがされています。

《コラム》スマート税務行政とチャットボット

◆スマート税務行政とは
 スマート(smart)とは、活発な、賢明な、という意味で、最近の標語の「超スマート社会」は、サイバー空間と現実社会が高度に融合した社会として、ロボット、人工知能、ビッグデータ、IoTなどを駆使する未来像のことです。
 国税庁は、スマート税務行政の実現に向けてとして、この1月から「チャットボット(chatbot)」の導入を始めました。チャットボットとは対話(chat)とロボット(bot)という2つの言葉を組み合わせたもので、対話を行うロボットのことです。

◆チャットボットに誘う入口
 国税庁のホームページに行くと、チャットボットに誘う入口が案内されています。現在のチャットボットは試験導入で、電話相談や訪問相談の代替措置として,税務当局側の人員不足や繁忙期における円滑な対応についての課題解決を図るため、土日、夜間等の日時にとらわれない相談チャネルとして、導入するものとされています。
 試験導入では、令和元年分の所得税の確定申告のうち、医療費控除や住宅ローン控除、ふるさと納税などの各種控除を中心に、給与収入や年金収入がある方の「よくある質問」に対応しています。

◆税務相談を担当している「ふたば」
 「ふたば」という名前のついたチャットボットの画面では、次のように展開されて行きます。
①アイコンをクリックするとチャットウィンドウが開く。
②チャットウィンドウに質問を入力すると、AIが自動回答する。
③適切な回答ができないような質問をされた場合は、AIからチャット上にメニューボタンが複数表示されることによる逆質問で、質問内容を補完する。
 今後は、相談事例を蓄積して、回答範囲を拡大していく予定としていますが、ロボット自身も、自己学習を積み重ねていくでしょうから、ゆくゆくはベテランの電話相談員のような対応ができるようになるのだと期待されます。
 チャットボットの画面でも、利用者の意見により改善を進め、AI(人工知能)の学習を行うことで、回答の精度が向上していきます。最初は、うまく答えられない質問もあるかもしれませんが、温かい目で成長を見守ってください、とメッセージしています。

《コラム》新型コロナウイルス感染症 中小事業者への支援策

◆中小企業・小規模事業者対策として
 新型コロナウイルスは中華人民共和国での感染が拡大し、中国国内の生産活動の停滞や機械部品等の輸入による製造業者へのサプライチェーンに悪影響を及ぼしています。日本国内でもイベントの自粛など、経済活動に悪影響を及ぼすことが予想されます。それにより中小事業者の事業継続にも懸念が生じています。

◆関係事業者団体への要請
 過去の自然災害によるサプライチェーン毀損時には、下請事業者から、コストが大幅に増加する発注にもかかわらず親事業者は十分に話し合うことなく、一方的に通常発注と同一の単価に据え置く「買いたたき」などの行為があったとの相談が寄せられました。そこで経済産業省は経営基盤の弱い下請の中小企業に対する影響を考慮して、
 ①通常支払われる対価より低い対価による下請代金の設定や適正なコスト負担を伴わない単納期発注や部品の調達業務の委託などを押し付けないようにする。
 ②今回の新型コロナウイルス感染症により影響を受けた下請事業者が、事業活動を維持再開できるように取引関係を継続するように配慮することを関係事業者団体に要請しています。

◆セーフティネット貸付の要件緩和
 日本政策金融公庫等政府系金融機関や信用保証協会に対して、セーフティネット保証により、資金繰り支援を実施しています。特に、公庫等においては、特別相談窓口を開設し、資金繰りに不安がある場合は売上高の減少の程度に関わらず、セーフティネット貸付の対象とするように要件を緩和しています。信用保証協会に対しても、特に重大な影響が生じている業種について通常とは別枠での借入債務の80%を保証する5号の実施とともに、自治体の要請があった場合にはこちらも別枠で借入債務の100%を保証する4号を実施します。さらに、一時的な業況悪化等の支障をきたしている旅館業者に対し、経営を安定させるために必要な資金繰りの支援を実施するために、緊急貸付・保証枠として5000億円を確保しました。
 この先もどのような情勢になるか予測できません。取引先との関係や資金繰りに不安があれば、早めに支援機関の窓口に相談して下さい。

《コラム》東京オリンピック 税法の特例措置

◆いよいよやってくる東京五輪
 今年はオリンピックイヤーです。自国開催とあって日本は設備の改修やボランティア、民泊にビザ発給の簡易化等、様々な施策を講じています。税金に関しても「オリンピックだから特別ね」という特例措置がいくつか講じられています。

◆国際二重課税を防ぐための措置
 平成31年度税制改正では、非居住者であるオリンピック・パラリンピックの選手・スタッフ・審判・計測や集計を行う外国法人・外国メディア関係等に対して所得税や法人税等を課さないという特例を創設しています。
 これは、日本と租税条約を結んでいない大会参加国と結んでいる大会参加国との不均衡が生じることや、大会が開催される各国で所得を得ることになる大会関係者が居住地で課税されたいという希望に沿うための措置です。

◆インバウンドを獲得しやすくする措置
 東京オリンピックの旗振り役である東京都は、観光振興を図る施設に要する費用に充てられる法定外目的税の「宿泊税」を、2020年7月1日から9月30日の3か月間、都内の旅館・ホテルの全ての宿泊者について課税停止の措置を講じることになっています。
 1人1泊1万円以上1万5千円未満の宿泊料なら100円、1万5千円以上ならば200円かかる東京都の宿泊税が期間中はかからなくなります。この措置は「オリンピック・パラリンピック観光客の負担軽減のほか、ホテル・旅館の窓口対応等における事務負担の軽減」が狙いのようです。

◆報奨金非課税のオリ・パラ差是正
 今年の税制改正大綱には、オリンピックでメダリストになった選手に対する報奨金の非課税枠について300万円を500万円に引き上げ、なおかつ今まで非課税枠がなかったパラリンピックの選手への報奨金についても、オリンピックと同水準にすることが記載されています。
 開催決定から6年半、関係各所が奔走した東京オリンピックは、いよいよ本番が目前に迫っています。

《コラム》令和2年税制改正大綱 納税環境編

◆振替納税の通知依頼等がe-Taxで可能に!
 令和2年の税制改正により、今まで電子申請・申告ができず、紙の書類で提出していたものが、e-Taxの利用により手続できるようになりそうです。
(1)振替納税・ダイレクト納付の申請
 次の書類の提出は、令和3年1月以後、e-Taxによる電子申請が可能となります。
 ①振替納税の通知依頼
 ②ダイレクト納付の利用届出
 なお、これらの申請手続では、申請者の電子署名や電子証明書の送信は不要とされました(振替納税については、納税地の異動があった場合の手続も簡素化されます)。
(2)準確定申告の電子手続の簡素化
 今まで電子申告ができなかった所得税の準確定申告について、その途が開かれそうです。e-Taxにより所得税の準確定申告書を提出する場合、相続人の電子署名・電子証明書の送信は次のようになります。
 ・申請等相続人:電子署名・証明書送信が必要
 ・それ以外の者:確認証を送信(署名等は不要)
 大綱では、税理士の代理送信等については、明らかとされていませんが、令和2年分以後の準確定申告より適用されます。

◆電子帳簿等保存制度の見直し
 電磁的記録の保存方法の範囲に、次の方法が令和2年10月より追加されます。
 ①発行者のタイムスタンプが付された電磁的記録の受領・保存
 ②電磁的記録の訂正・削除等が確認できるシステムによる記録の授受・保存
 この改正によりカードや電子マネーの履歴をクラウド上で電子データ保存する方法が認められます(改変不可が条件)。

◆円滑な申告・納税のための環境整備
 納税証明書の電子的請求について、電子委任状を添付して行うことができるようになります(委任者の電子署名等は不要)。

◆利子税・還付加算金等の割合の引下げ
 令和3年以後は、①利子税特例基準割合、②猶予特例基準割合、③還付加算金特例基準割合が年7.3%未満の場合には、次のようになります。
 ・平均貸付割合+年0.5%(現行年1%)
 また、相続税・贈与税に係る利子税は、次のようになります。
 ・利子税の割合×利子税特例基準割合/年7.3%

 

《コラム》企業版ふるさと納税の拡充

◆企業版ふるさと納税って何?
 ふるさと納税と聞くと、「何か会社のお金を寄附して、おいしい物がもらえそうだな」と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。残念ながら、企業版ふるさと納税は寄附によって経済的な利益を受けることは禁止されているので、お礼の品が貰える訳ではありません。
 企業版ふるさと納税は地方公共団体が企画する地方創生の取組に対して、志のある企業が寄附をして、地方活性化を応援することを目標にしています。地方公共団体が計画する取組を調べて「これを支援したい」と思う取組について、資金を提供するようなイメージとなります。

◆令和2年税制改正で税額控除額がアップ
 令和元年度までは寄附額の最大6割程度が税額控除(損金算入分約3割、特例税額控除最大3割)となっていたものを、約9割まで税額控除となるようにして、令和6年度まで5年間延長される予定です。
 また、地方公共団体側にも使いやすいように、国の補助金・交付金の併用可能範囲の拡大や、地域再生計画の認定を受けた後であれば、寄附金額の目安の範囲内で事業費確定前の寄附の受領が可能といった変更が加えられています。

◆企業にどんなメリットがあるか
 先に述べた通り、寄附金は税額控除となるものの、支払額と比べて約9割までしか税金が減りませんから、実質的な節税効果はありません。
 また、直接的な経済的利益を受け取れるわけではありませんが、自治体が展開したい事業を上手く選定すれば、人材育成や、環境整備等、その地域を活性化することにより、その地域でサービス展開をしている、もしくは考えている企業であれば、今後の経営にプラスになることもあるはずです。ただし、本社所在の地方公共団体への寄附は対象になりませんのでご注意ください。
 経済的利益の供与は禁止されていますが、「感謝状の贈呈」「寄附活用事例の紹介にあわせて、企業名の紹介」「施設への銘板等の設置」「記念品の贈答」といった一般的な表彰行為はOKとなっているため、事業にプラス効果は無くとも、企業のイメージアップには貢献はできそうです。

【時事解説】“水をさす”会計から“棹さす”会計に その2

しかし、金融のグローバル化は会計の国際化を推し進め、資産評価の時価主義化の流れを強めます。投資有価証券の時価評価、固定資産の減損会計、たな卸資産の低価法などが相次いで導入されました。その上に、税効果会計も加わります。税効果会計では業績が好調で将来収益が見込めれば、繰延税金資産を計上できますが、業績が悪化し赤字予想になれば、それまで積んだ繰延税金資産を取り崩さなければなりません。繰延税金資産を計上するときには損益計算書の利益ですが、取り崩すときには費用が発生します。

 景気が悪いときには当然本業の業績も悪い。その上に資産価格下落の影響を決算書に計上しなければなりません。逆に好景気のときには本業の業績好調に加えて、税効果会計などによる利益が加算される傾向にあります。景気や資産価格の動向が経営者の意思に関わりなく、ヴィヴィッドに決算書に反映されやすくなります。つまり、時代の流れに“掉さす”会計に変わりつつあるのです。

 これからの会計は時代の流れに大きく翻弄されるものになり、調子のいいときには利益が大きく出て、業績が悪化すると赤字が増幅されやすくなります。こうした会計になると、長期的視野に立った経営ができず、短期的な資産価額の変動に大きく経営が左右される、といった批判も出てきます。しかし、会計のこの流れは不可逆的だと考えざるを得ません。経営者はそうしたことも踏まえて経営することが求められるのです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》~ベンチャー出資で所得控除~2020年度の税制改正

◎株式取得額の25%を控除
 企業の内部留保にあたる利益剰余金は、18年度に前年度比3.7%増の463兆1308億円となり、7年連続で過去最高を更新しました。
 こうした背景を踏まえ、政府・与党は2020年度の税制改正大網に、企業によるベンチャー投資の税負担を軽減する「オープンイノベーション税制」として、企業が一定額以上の投資をした場合に出資額の25%を課税所得から控除する方針を固めました。
 資金力に乏しい中小企業には要件を緩和し、大企業は1億円以上、中小企業は1,000万円以上の投資が対象としました。また、海外のベンチャー企業に投資をする場合は、5億円以上の出資額を条件としました。

◎主な要件は?
■出し手の要件(出資側)
・ベンチャー企業に直接またはコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を通じて出資を行う国内の事業会社
・特定期間(5年間)の報告義務

■受け手の要件(ベンチャー側)

・設立後10年未満の株式会社
・非上場会社であること
・大規模企業グループに属していない
・オープンイノベーション性の要件を満たすこと

※オープンイノベーション性の要件
・革新性:事業会社にとっての革新性
・リソース開放性:ベンチャーの成長への貢献
・ビジネス変革性:事業会社のビジネス変革に寄与する可能性

 なお、新税制は2020年4月から2022年3月末までの出資に適用する期限があります。その他の条件として、特定期間(5年間)内に株式を譲渡したり配当を受けたりした場合は、その分の控除額を取り崩し、益金に算入が行われます。

 

《コラム》令和2年税制改正大綱 資産課税編

◆所有者不明土地等に係る措置(固定資産税)
 土地・家屋の固定資産税は、原則として土地の「所有者」(登記簿上の所有者)に課税されますが、昨今の「所有者不明土地等」の増加に伴い、次の措置が設けられます。
(1)「現に所有している者」の申告制度化
 市町村長は、その市町村内の土地・家屋について、登記簿に「所有者」として登記がされている個人が死亡している場合には、その土地・家屋を「現に所有している者」(現所有者)に、条例で定めるところにより、賦課徴収に必要な事項を申告させることができることとなりました。
(2)所有者不明土地等の「使用者」に課税
 市町村は、調査を尽くしてもなお固定資産の所有者が一人も明らかとならない場合には、その「使用者」を所有者とみなして固定資産課税台帳に登録し、固定資産税を課することができることとされました。

◆国外財産調書制度等の見直し(相続税等)
(1)相続直後の調書等への記載の柔軟化
 相続開始年の年末に有する国外財産に係る国外財産調書については、相続・遺贈により取得した国外財産(相続国外財産)は記載しないで提出できるようになりました。
(2)提出がない場合等の加算税等の見直し
 国外財産調書の提出がない場合の過少申告加算税の加重措置の適用対象に、相続国外財産に対する相続税の修正申告等があった場合等が追加されました。
 また、国外財産調書に記載すべき国外財産に関する書類の提示・提出がない場合の加算税の軽減措置・加重措置の特例が創設されました。

◆その他の改正(相続税・贈与税)
(1)農地等の納税猶予制度の対象拡大
 特例適用農地等の範囲に、三大都市圏の特定市の市街化区域内に所在する農地で、地区計画農地保全条例(仮称)により制限を受ける一定の地区計画の区域内に所在するものが追加されます。
(2)医業継続に係る納税猶予制度の延長
 適用期限が3年延長されます。
(3)相続税の物納の特例の対象拡大
 適用対象となる登録美術品の範囲に制作者が生存中である美術品のうち一定のものが追加されます。

【時事解説】中小企業の防災・減災に向けた支援 その2

では、中小企業の防災・減災に向けてどのような支援が行われているのでしょうか。以下で、2019年7月に創設された事業継続力強化計画認定制度についてみていきましょう。

 大規模な自然災害が全国各地で相次いで発生し、中小企業の事業継続にとって大きな脅威となる中、国は2019年1月に中小企業の災害対応力の強化に向けて「中小企業強靭化パッケージ」をとりまとめました。 同パッケージにおいて、公的認定制度の創設と認定事業者への支援が掲げられたことを受け、2019年7月に「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律(中小企業強靱化法)」が施行され、同法において、防災・減災に取り組む中小企業がその取り組みを「事業継続力強化計画」としてとりまとめ、国が認定する制度が創設されました。

 事業継続力強化計画の記載項目としては、事業継続力強化に取り組む目的の明確化、ハザードマップ等を活用した自社拠点の自然災害リスク認識と被害想定の策定、発災時の初動対応手順の策定、ヒト・モノ・カネ・情報を災害から守るための具体的な対策、計画の推進体制(経営層のコミットメント)、訓練実施や計画の見直し等実効性を確保する取り組みなどがあげられます。

 認定を受けた企業に対する支援策としては、低利融資や信用保証枠の拡大等の金融支援、防災・減災設備に対する税制措置、補助金(ものづくり補助金等)の優先採択などがあげられます。
 また、認定を受けた企業は、認定に関するロゴマークの使用が可能となり、会社案内や名刺などで認定のPRが可能となります。

 このように中小企業の災害に対する事前対策を促進する取り組みが行われているのです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)