《コラム》居住用財産譲渡の3,000万円控除の要件

◆マイホームを売った時に使える特例
 マイホーム(居住用財産)を売ったときに、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例を「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といいます。
 利用するためには様々な要件があり、国税庁は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例適用チェック表」を用意しています。この表に売却する(売却した)マイホームを照らし合わせれば、この特例が利用できるか確認が可能です。代表する要件を簡単に見てみましょう。

◆居住用でなければもちろんダメ
 他の居住用財産関係の特例と同じく、基本的には「住んでいなければダメ」です。別荘や仮住まい、セカンドハウスには適用できませんが、単身赴任等で家主が離れているものの、家族が生活しているといった場合はOKです。住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに家屋もしくは家屋と共に敷地等を売る場合に、特例が利用可能です。
 家屋を取り壊した場合については、取り壊しから1年以内に売買契約をし、かつその間に貸付等に利用していないことが条件となります。

◆他の特例との重複適用は基本NG
 3,000万円の特別控除の特例は、長期譲渡所得の課税の特例(所有期間10年超で譲渡益6,000万円以下の部分の税率を優遇)を併用できますが、居住用財産関係の特例や住宅ローン控除と併用することができません。併用できない期間も設定されており、居住用財産関係の特例については前々年、前年、当年に適用されていれば、3,000万円控除が受けられません。住宅ローン控除については居住年およびその前2年、その後3年の計6年間に3,000万円控除を受けた場合、住宅ローン控除の適用を受けることができなくなります。
 また、収用の場合の特別控除、特定期間に取得した土地等を譲渡した場合の特別控除、低未利用土地等を譲渡した場合の特別控除等、居住用でない土地に適用できる特例についても併用できません。
 法定申告期限後に特例の選択替えもできませんから、申告時に慌てることのないよう、早めの検討・準備をしておきましょう。

《コラム》サイバー保険とサイバーセキュリティ対策

◆税務署・国税庁を騙るメール
 e-Taxの普及に伴い、国税庁や税務署を騙る偽メールも増えています。e-Taxを装ったメールでリンク先もe-Taxの画面を模している場合もあり、うっかりアクセスしてパスワード等を入力してしまうと、犯罪に利用される恐れもあります。
①国税庁からのメール本文には、支払い催促や延滞税の金額等は記載されない
②メール本文のリンクは一見正常に見えるが、リンク先が偽装されている可能性も視野に入れ、e-Taxへのアクセスはメールから行わない
など、見分ける方法や対策を知っておきましょう。また、一部の保険会社は被害に遭った時に心強いサイバーリスクに特化した保険を出しています。どんな内容なのか見てみましょう。

◆サイバー保険の補償内容
 サイバー保険の補償対象事故は主に「情報漏洩」「ネットワーク所有・使用・管理に起因する業務阻害」「サイバー攻撃に起因する身体障害・財物損壊」です。契約プランによって取扱いは異なりますが、被保険者の損害賠償金・訴訟費用の補填、サイバー事故に起因して一定期間内に生じた事故原因調査・コールセンター設置・記者会見・見舞金の支払・法律相談・再発防止策の策定といった各種費用の補填、ネットワークを構成するIT機器等の停止による利益損害や営業継続費用の補填など、多岐にわたる補償プランがあるようです。
 また、平時における事故防止対策等のサポートを受けられるものや、ルールの策定・従業員に対する研修や教育支援・リスク診断・セキュリティソフトの導入支援等を行ってくれるものもあります。

◆サイバーセキュリティ対策してますか?
 サイバーセキュリティ対策は保険だけではありません。独立行政法人情報処理推進機構では、中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインを公開していますから、まずはそちらで理解を深めるのも良いでしょう。また、対策に取り組むことを自己宣言する「SECURITY ACTION」は、各種補助金申請の要件となっている場合があります。
 中小企業のサイバーセキュリティ対策に不可欠な各種サービスをワンパッケージで提供するサービス「サイバーセキュリティお助け隊」は、2024年のIT導入補助金でも活用が可能なので、この機会に一度検討してみてはいかがでしょうか。

《コラム》マイホーム売却時の特例

◆マイホームには税の特例がもりだくさん
 住宅ローンを借り入れて、住宅の新築・取得を行った場合受けられる住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、皆さんご存じかと思いますが、マイホームに関連する税制は売却した際にも様々な状況に応じて特例が設けられています。今回は横断的にどんな特例があるのかを見てみましょう。

◆マイホームを譲渡して売却益が出た時
①居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例:マイホーム(居住用財産)を売った時、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる。
②マイホームを売った時の軽減税率の特例:所有期間が10年を超えている場合、長期譲渡所得税率は通常15%(+住民税5%)であるのに対して、6,000万円までの部分については10%(+住民税4%)で計算することができる。
③特定の居住用財産の買換えの特例:特定のマイホームを売って、代わりのマイホームに買い換えた時、一定要件のもとに、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができる。
 ①と②は併用が可能ですが、③も含め、売却益が出て特例を利用した場合、住宅ローン控除との併用はできません。

◆マイホームを譲渡して売却損が出た時
④マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例:マイホーム(旧居宅)を売却して、新たにマイホーム(新居宅)を購入した場合、旧居宅の譲渡損失が出た場合、一定の要件を満たしていれば、譲渡損失をその年の給与所得等、他の所得と損益通算することができる。また、損益通算しても控除しきれない分は、譲渡の年の翌年以後3年内は繰越控除が受けられる。
⑤特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例:住宅ローンのあるマイホームを住宅ローンの残高より低い価額で売却して譲渡損失が出た場合、一定の要件を満たせば他の所得と損益通算できる。また、譲渡の年の翌年以後3年内は繰越控除が受けられる。
 ④は買い換えの場合に限られますが、⑤は新たにマイホームを買わなくても受けられる特例です。また、売却損が出た時に利用する特例は、住宅ローン控除併用可です。

《コラム》ストックオプション令和6年改正

◆税制適格ストックオプションの要件緩和
 スタートアップの人材確保や従業員のモチベーション向上に資するストックオプション税制。税制適格ストックオプションになれば、権利行使時に給与課税されることなく、譲渡時に譲渡所得課税となります。
 令和6年4月1日より、この税制適格ストックオプションの適用要件が緩和され、利便性が向上します。

◆社外高度人材の範囲を拡充
 ストックオプションの付与を受ける社外高度人材については、非上場の株式会社の役員、執行役員等で経験が1年以上の者、上場会社の役員に加え、執行役員等で経験が1年以上の者、教授、准教授が新たに追加されました。
 また、製品又は役務の販売活動に2年以上従事し、一定の売上要件を満たす者、資金調達活動に2年以上従事し、一定の売上要件を満たす者等も新たに追加されました。
 そのほか、これまで3年以上の実務経験が要件とされていた弁護士・会計士など国家資格保有者、博士の学位を保有する者、高度専門職の在留資格を持って在留する者については、それぞれ実務経験の要件がなくなりました。

◆権利行使価額の限度額引き上げ
 スタートアップのレイター期から上場前後の企業価値が高くなる時期には優秀な人材の採用が必要です。このため、税制適格ストックオプションとなる権利行使価額の年間限度額が大幅拡充となりました。
 限度額は、これまで一律1,200万円でしたが、設立5年未満の株式会社については、2,400万円に、また、設立5年以上、20年未満の株式会社のうち、非上場又は上場後5年未満の株式会社が付与するストックオプションについては、3,600万円に引き上げられました。

◆発行会社による株式管理が可能に
 これまで税制適格ストックオプションとなるには、証券会社等への株式の保管委託が要件でしたが、新たに証券会社の保管委託に代えて、発行会社自身による株式の管理についても税制適格ストックオプションが適用できるようになりました。証券会社に保管管理してもらう場合、コスト、時間、手続き負担がかかり、M&Aで短期間の権利行使が必要となる場合には、円滑なEXITを阻害するとの声をうけて新たな制度が創設されたようです。

【時事解説】日本経済を甘やかす低金利政策 その2

 金融には産業の新陳代謝を促す機能も期待されています。金利負担に耐えられない低収益の企業には退出してもらい、新しい成長性の高い企業が参入し、人的、物的資源を低収益企業から高収益企業に移動することにより、経済は成長することができます。ただ、新陳代謝機能を十分に発揮させるためには、金融の量的制限とある程度の金利が必要です。しかし、現在のような大量の低金利融資が蔓延すると、低収益企業が温存されてしまい、成長企業への資源移転がうまくいきません。もし、ここで急に金利が上昇すれば、人的、物的資源の受け皿になるべく成長企業が十分に存在しないまま、低収益企業が退出しなければならなくなってしまいます。

 このように、日本経済は低金利のぬるま湯の中で、厳しい選択を迫られることなく、何となく生存できている、といってもいい状況です。本来アベノミクスでは、金融緩和で時間稼ぎをしているうちに、成長戦略を実行するはずでした。しかし、肝心の成長戦略が起動しない中で、時間稼ぎであるはずの低金利の金融緩和だけが継続し、経済全体がそれに甘える体質となってしまいました。

 金融緩和が続く限り、現状維持は可能でも、いつまでもこの状況を続けることはできません。今の金融緩和は病巣を膨らませながら、解決を先送りにしているに過ぎません。今は日銀が主体的に金融政策を判断できていますが、国債発行が累増し国内貯蓄を食い潰してしまうとか、あるいはその前に個人貯蓄が海外に流出するキャピタルフライトが本格化すれば、資金不足になり、マーケットに追い込まれる形で利上げせざるをえなくなる可能性もあります。そうなると、より厳しい選択を迫られるようになることも想定しておかなければなりません。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】日本経済を甘やかす低金利政策 その1

 高まるインフレへの警戒感から、アメリカを筆頭に多くの欧米諸国が金融政策を転換し、利上げに転じています。一方、日銀は、我が国のインフレは欧米ほどではないこと、及び経済状況が一向に好転しないことなどを理由に、かたくなに金融緩和姿勢を崩しません。円安を阻止するためには金融引き締め、すなわち利上げが必要との意見も根強いのですが、この状況で利上げをすれば、日本経済に深刻な打撃を与えることは間違いありません。つまり、今の日本経済は低金利でしか生きていけなくなっている状況にあるといえます。

 低金利・大量資金供給の恩恵を最も受けているのは国家財政です。国債発行残高は1,000兆円を突破、国家債務の対GDP比率は250%を超え、先進国ではダントツの水準にあります。そうした状況でも、財政を組むことが出来るのは低金利のおかげです。ただ、それが逆に放漫財政を許容しているともいえます。

 財政を考えるときに、よく出てくるのは「大砲かバターか」という言葉です。大砲は防衛の、バターは民生の象徴です。不穏な国際情勢から防衛予算の増大が求められ、一方、依然向上しない国民生活支援も必要になります。財政はそのどちらかを選択しなければならないというのです。しかし、それは財源に限りがあるからこその話です。金利がほとんどゼロに近く、しかも最終的には日銀がその購入を約束している国債を財源にすることができれば、無理に「大砲かバター」を選択する必要はなく、「大砲もバターも」どちらも手にすることができます。こうした財政制約が緩い状況だから、バラマキ型の無駄な支出が可能となり、日本の財政は肥大化してしまっています。この状態が永遠に続くのであればそれでもいいのですが、いつかは必ず限界が来ます。資金が不足し金利が上昇する事態となれば、「大砲かバター」を今よりももっと厳しい環境下で、より苛烈な形で選択せざるを得なくなります。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》配偶者の定額減税

◆所得税の納税者が対象
 所得税の定額減税は、所得税の納税者である合計所得金額1,805万円以下の居住者に適用され、所得税額から本人3万円、同一生計配偶者と扶養親族1人につき3万円が控除される制度です。所得税の納税がない人は定額減税を受けることはできません。

◆非居住者には適用されない
 定額減税は、海外で就職、留学などで国内に住所を持たない者、または1年以上、居所が国外にある者は対象となりません。

◆合計所得金額による扱いの違い
 合計所得金額48万円以下の配偶者は、所得税の納税がないため、同一生計配偶者となることで定額減税を受けられます。給与等の源泉徴収では、合計所得金額の見積額900万円超の同一生計配偶者は、扶養控除等申告書に氏名等が記載されていませんので「源泉徴収に係る申告書」を提出して月次減税を受けます。また、年末調整の際は「配偶者控除等申告書」又は「年末調整に係る申告書」を提出して年調減税を受けます。また、国税庁の様式以外も使用できます。
 同一生計配偶者に該当するかの判定は、原則、令和6年12月31日の現況で行い、年の中途で出国、死亡の場合は、出国日、死亡日で行います。青色事業専従者や白色事業専従者は同一生計配偶者に該当しません。
 また、合計所得金額48万円超となる共働き世帯などの配偶者は、自身が所得税の納税者として定額減税を受けます。

◆住民税は市区町村で計算
 住民税の定額減税は、納税者の所得割額から本人1万円、同一生計配偶者と扶養親族1人につき1万円が控除される制度です。所得割額がない人、均等割り額のみの人は、定額減税を受けることができません。定額減税の手続きは、各市区町村が実施します。
 なお、令和5年度の所得税確定申告では1,000万円超の給与所得者の同一生計配偶者であったため、給与支払報告書等に控除対象配偶者として記載されていない配偶者は、市区町村が令和6年度住民税の定額減税対象者として把握できていないため、令和7年度の住民税から控除を受けます。

◆控除しきれない人には調整給付
 所得税および住民税の定額減税を自身の納税額から控除しきれない人は、各市区町村から調整給付金を受けます。給付額の算定は各市区町村で実施してくれます。
 また、1万円未満の給付は1万円単位に切上げとなりますので、少し、お得です。

《コラム》飲酒に関するガイドライン

◆健康に配慮するための指針
 飲酒による身体への影響には個人差があります。そのため、飲酒の際にはそれぞれの状況に応じた適切な飲酒量・飲酒行動を本人が判断し、不適切な飲酒によるリスクを抑えていかなければなりません。
 そこで厚生労働省は、国内初となる「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を作成しました。基礎疾患などがない20歳以上の成人を中心に、飲酒による身体等への影響について、年齢、性別、体質等による違いや、飲酒による疾病・行動に関するリスクなどをわかりやすく伝えるものです。そのうえで考慮するべき飲酒量(純アルコール量)や配慮のある飲酒の仕方、飲酒の際に留意してほしい事項(避けるべき飲酒等)を示すことで飲酒や飲酒後の行動の判断などに資することを目的としています。

◆純アルコール量とは
 ガイドラインでは、適切な飲酒量を知る目安として「純アルコール量」に着目しています。「摂取量ml×アルコール濃度(度数/100)×0.8(アルコールの比重)」で表すことができ、食品のエネルギー(Kcal)のようにその量を数値化できます。例えばビール500ml×(度数5%)の場合の純アルコール量は、「500ml×0.05×0.8=20g」です。

◆飲酒量と健康リスク
 世界保健機関(WHO)ではアルコールの有害な使用を低減するための世界戦略を示しており、また循環器疾患やがん等の疾患の予防コントロールのため、アルコール有害使用の削減に関する目標を含めた行動計画を発表しています。さらに飲酒量(純アルコール量)が少ないほど飲酒によるリスクは少なくなります。
 そのうえで、疾病別の発症リスクと飲酒量(純アルコール量)を示し、適切な飲酒量の参考とするように呼び掛けています。
 飲酒による疾患への影響は人それぞれです。したがって自分の適量を知り、飲酒習慣のない方も身近な人に当てはめるなど、より少ない飲酒の心がけで健康を守ることを意識していきたいですね。

《コラム》役員引当金取崩しでも当期の損金

◆役員賞与の損金算入要件
 法人の役員賞与は原則として損金不算入ですが、事前確定届出をしておけば、損金算入できるようになります。
 損金算入の要件としては、株主総会の決議で定めること、職務の執行の開始の日から1月を経過する日までに所轄税務署に届け出ていること、が要求されています。
 職務執行開始前に職務執行の対価としての役員賞与を事前に定めるのです。職務執行期間は、当該株主総会終了時から、次の株主総会終了時までです。

◆役員賞与引当金の計上の場合
 次期以降に支払いが生ずる役員賞与だが、その給付の原因たる職務執行が当期間に行われていた、という場合に会計処理として、(借)役員賞与/(貸)引当金 とすることがあります。支払い時は、(借)引当金/(貸)現金預金 という会計処理になります。
 この場合の支払時の役員賞与は、過去の職務執行期間における執行対価なので、事前確定届出賞与には該当しません。
 ところが、仙台国税不服審判所が令和5年2月3日、引当金処理をして支給した役員賞与を損金算入事前確定届出賞与として認める旨の裁決を行っています。

◆会社の処理と当局の否認
 会社の申告書別表処理としては、引当金計上期には「引当金損金不算入」として別表加算、賞与支払期には「前期否認引当金当期認容」として別表減算処理しているものと推測されます。
 会社側は、引当計上は、会計処理の継続性及び保守主義の観点からしているものであり、その額は、次期の事前届出賞与の額確定のための参考値にすぎない、との主張をしており、税務署側は、役員賞与について賞与引当金を計上し、支給時にこれを取り崩す会計処理をしていたのであるから、本件各役員賞与に係る職務執行期間は事前ではなく過去である、と主張しています。

◆審判所の判断
 裁決は、運用実態において引当金計上通りに支給がなされているわけではなく、引当金額は具体的な支給額の決定の参考情報にすぎず、議事録にいつの職務執行に対する役員賞与として決定したかを明確に示す記載はなく、各役員給与が過去の職務執行の対価であることをうかがわせる記載もないのであるから、事前確定届出賞与の各要件を充足する、としています。

《コラム》代表取締役等住所非表示措置の創設-10月から非公開可能に!

◆登記の社長住所を非公開にできる制度創設
 令和6年4月16日の商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)により、代表取締役等住所非表示措置が令和6年10月1日から施行されることとなりました。この措置は、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」といいます)の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービス(以下「登記事項証明書等」といいます)に表示しないこととする措置です。
 平たくいうと、これまで登記簿謄本で表示されていた社長の自宅住所を、一定の要件の下、表示しないようにする制度です。ただし、最小行政区画=市区町村まで(東京都においては特別区まで、指定都市においては区まで)は記載されます。

◆代表取締役等住所非表示措置の要件
 代表取締役等住所非表示措置を講ずることを希望する者は、登記官に対してその旨申し出る必要があります。この申出は、設立の登記や代表取締役等の就任の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記の申請と同時にする場合に限りすることができます。そのため、住所の非表示だけを求めての申し出はできません。なお、申し出に際しては、株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面等の添付が必要となります。

◆非表示のデメリットも事前考慮が必要です
 代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されます。
 そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な検討が必要です。
 顧問の税理士や司法書士などと今後の事業展開とその際の非表示の影響をよく話し合っての検討をお勧めします。