財務省:国際的課税逃れ防止の統一ルールに署名

 財務省は、日本を含む67ヵ国・地域が「税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約」(BEPS防止措置実施条約)に署名したことを明らかにしました。
 各国の税制の違いなどを利用した過度な節税策が問題視されるなか、この多国間協定により複数の国にまたがる過度な節税策にまとめて網がかけられるとみられております。

 同多国間協定は、BEPSプロジェクトで策定された税源浸食及び利益移転(BEPS)を防止するための措置のうち租税条約に関連する措置を、同条約の締約国間の既存の租税条約に導入することが目的です。
 同条約の締約国は、租税条約に関連するBEPS防止措置を、多数の既存の租税条約について同時かつ効率的に実施することが可能になります。

 協定は5ヵ国以上が批准した時点で発効され、日本政府は2018年の通常国会で協定承認を目指すとしております。
 現状、過度な節税封じの対策を共有するには、二国間の租税条約の改正が必要ですが、世界中に広がる課税逃れに対抗するには、該当国の数だけ条約改正手続きが必要となり、煩雑で時間もかかります。

 租税条約は世界で3,000ほどあり、個別に改正手続きを進めると10年近くかかると言われましたが、多国間協定により、二国間の条約改正をしなくても課税逃れ対策の統一ルールを適用できるようになります。
 ただし、米国は今回の多国間協定に参加せず、2国間の租税条約などで対応するとしており、統一ルールで足並みをそろえますが、国際的な連携に課題が残っております。

 こうしたなか、財務省は、2018年にもグローバルに活動する企業の節税防止策を強化する方針で、各国の税率の違いを利用した租税回避を防ぐ仕組みを2018年度の与党税制改正大綱に盛り込む方向で調整予定です。
 現状、日本ではグループ間の利子の支払いについて所得の5割まで損金計上が認められますが、財務省はこの割合を1~3割に圧縮して低税率国の子会社への利益移転を防ぐ模様です。
 この他、知的財産を低税率の国の子会社に移す節税策の防止や、過度な税逃れを指南する税理士に開示義務を課す新制度の導入も検討しているといい、多国間協定により、国際的な課税逃れ防止が大きく前進するものとみられております。
 今後の動向に注目です。

(注意)
 上記の記載内容は、平成29年12月1日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

言葉を理解するAI家電の可能性

 最近、人間の言葉を理解する「AI家電」が注目を集めています。ヒトが話しかけた内容を理解するので、声だけで家電を操作することができます。パネルを見なくても利用できるので、「ノールック家電」、(no-look:操作パネルを見る必要のない家電)とも呼ばれています。

 AI家電の中でも、スマホの次のブームになると期待を集めているのがGoogle Home(グーグルホーム)やAmazon Echo(アマゾンエコー)といったAIスピーカーです。外観は小型のスピーカーのような形をしています。「テレビをつけて」と語りかけると、わざわざスイッチを押しに行かなくても、AIスピーカーがテレビをつけてくれます。自動掃除機がAI対応のもの(お掃除ロボット、ルンバなど)ならば、「掃除して」と話しかけると、AIスピーカーがお掃除ロボットに掃除をするように信号を送り、掃除がはじまります。また、AIスピーカーは話すこともでき、天気予報などを訊ねると、AIスピーカーが「今日は晴れのち曇りです」といった具合に答えます。

 着目したいのは、利用回数が増えると使い手の好みを学習する点です。音楽ならば、最初は様々なジャンルの音楽を再生しますが、ジャズが好みの人には次第にジャズを多く再生するようになります。また、じゃんけんなどの遊びもでき、「楽しい」といった感情を使い手と共有することもできます。何年も一緒にいると、やがて家族の一員のような、なくてはならない存在になるのかもしれません。

 現在、AIスピーカーに関する技術は米国が優勢で、グーグルやアマゾンが先行しています。日本ではLINEが独自でAIの開発を進め、健闘している状態です。

 スマホの次にブームになると期待されているAI家電。技術の開発競争において、世界全体では米国が優勢な状態にあります。米国内で、もっとも先行しているのがグーグルとアマゾンで、日本ではLINEが独自で開発を進め、健闘している状態です。LINEは自社のメインサービス「LINE」を強みに、利用者が機器に話しかけた言葉をメッセージとして相手に送る機能を目玉にしています。

 LINEのほかには、ソニーやパナソニックなどがAI家電の開発に取り組んでいます。ただ、ソニーとパナソニックは、言葉を理解する部分に関しては、グーグルの技術を用いて、そこに自社独自の技術を加え、新たな製品を提供しようとしています。パナソニックは洗濯から衣服の折り畳みまで自動化した洗濯機の製品を欧州の家電見本市に参考展示しました。また、ソニーは独自の顔認識技術を用いて、コミュニケーションロボットを開発しています。こちらは家族の顔を判別する機能に特徴があります。外出先で手持ちのスマホから「家族の様子を教えて」と打ちこむと、「5分前に○○くん(子どもの名前)を見かけました」などと、返事を送ってくれます。

 AIスピーカーはグーグルやアマゾンが先行していますが、自社独自の機能を提供することで、後発企業でもAI家電の分野で十分戦えるといえます。
今後は、家庭での利用だけでなく、企業からの需要にも期待できます。既に、一部の企業では活用がはじまっています。ある小売店は店内の案内にAIスピーカーを用いています。ほか、会社の受付けなど、様々な分野での活用が期待できそうです。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)

よろず支援拠点による小規模企業支援

 よろず支援拠点は、国による中小企業・小規模事業者に対する総合的な支援機関として2014年6月に各都道府県に設置されました。よろず支援拠点による主な支援内容は、①売上拡大等の課題解決策を提示する「経営革新支援」、②資金繰り改善や事業再生等の課題解決策を提示する「経営改善支援」、③どこに相談すべきかわからない事業者に対して的確な支援機関等を紹介する「ワンストップサービス」に大別されます。よろず支援拠点には、経営相談に対応する専門家であるコーディネーターが配置され、中小企業・小規模事業者からの経営相談に対するきめ細やかな対応を行っています。

 以下で「小規模企業白書2016年版」に沿って、よろず支援拠点の特徴についてみていきましょう。

 まず、相談者の規模についてみると、創業前の者が約1割、従業員数20人以下の事業者が約7割となっており、小規模企業の占める割合が高いことがわかります。

 次に、よろず支援拠点に配置されている専門家の経歴についてみると、経営コンサルタントが最も多く、他にも民間企業出身者、支援機関出身者など幅広い専門家を揃えていることがわかります。

 相談の解決手法としては、コーディネーターによる直接的なアドバイス以外にも、相談内容に応じて適切な支援機関や専門家を紹介する「ワンストップ支援」や、外部の支援機関等と支援チームを構成して課題解決にあたる「チーム支援」など外部の支援機関の専門家と連携した対応も行っています。

 このように、よろず支援拠点では他の支援機関とも連携しながらとくに小規模企業が抱える様々な経営相談にワンストップで対応することが期待されているのです。

 では、よろず支援拠点においては具体的にどのような支援が行われているのでしょうか。ここでは「小規模企業白書2016年版」において、よろず支援拠点の事例として紹介されている木村屋菓子店(宮城県柴田郡村田町)への支援の取組みについてみていきましょう。

 同店は1904年(明治37年)創業の老舗の菓子店で、「まんじゅう」や「もち菓子」、「ようかん」など和菓子を中心に製造・販売しています。近年では町内の常連客だけでなく、観光客へと販売を拡大するため、町の歴史や風情を取り入れたオリジナル商品の開発にも力を入れています。

 ここ最近有名菓子店の近隣への出店という環境変化を受け、同店は商工会の経営指導員に対応策を相談しました。相談を受けた商工会の経営指導員は、同店が開発したオリジナル商品のブランド化を急ぐ必要があると感じ、商標登録を勧めました。しかし、商標登録申請には専門的な知識も必要であるため、宮城県よろず支援拠点のコーディネーターに協力を依頼し、宮城県発明協会とも連携して同店への支援を開始しました。具体的には看板商品の商標登録に向けた支援や、その後の事業展開に向けた支援を商工会とよろず支援拠点とが連携して行っています。

 上記のように相談者の支援に対し専門的に知識が必要な場合は、一つの支援機関だけでは対応できない場合もあります。こうした中、相談内容に応じて適切な支援機関や専門家を紹介するといったよろず支援拠点がもつ「ワンストップ支援」の機能を活用することによって、小規模企業が抱える様々な経営課題に対して効果的な解決策を提供することが可能となるのです。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)

 

2016年度の再調査の請求・訴訟等の概要を公表

 国税庁・国税不服審判所は、2016年度の再調査の請求や審査請求、訴訟の概要を公表しました。
 それによりますと、2017年3月までの1年間(2016年度)の再調査の請求・審査請求・税務訴訟を通しての納税者救済・勝訴割合は9.4%となりました。

 納税者が国税当局の処分に不満がある場合は、税務署等に対する再調査の請求(改正前:異議申立て)や国税不服審判所に対する審査請求という行政上の救済制度と、訴訟を起こして裁判所に処分の是正を求める司法上の制度があります。
 再調査の請求の発生件数は、消費税(58.1%減の484件)をはじめ、ほとんどの税目が減少したことから、全体では前年度から47.5%減の1,674件となりました。
 処理件数は、「取下げ等」が275件、「却下」208件、「棄却」1,199件、「一部取消」100件、「全部取消」23件の合計1,805件(前年度比43.6%減)となりました。
 納税者の主張が一部でも認められたのは計123件となり、処理件数全体に占める割合(救済割合)は前年度を1.6ポイント下回る6.8%となりました。

 また、国税不服審判所への審査請求の発生件数は、法人税等(50.9%増の504件)など、ほとんどの税目が増加したことから、18.6%増の2,488件となりました。
 処理件数は、「取下げ」が269件、「却下」191件、「棄却」1,258件、「一部取消」192件、「全部取消」49件の合計1,959件(前年度比15.2%減)となりました。
 納税者の主張が何らかの形で認められた救済割合は同4.3ポイント増の12.3%となりました。

 一方、訴訟となった発生件数は、徴収関係(38.4%増の54件)が増えたものの、所得税(5.9%減の80件)や相続・贈与税(22.3%減の28件)などが減少したことから、前年度を0.5%下回る230件となりました。
 終結件数は、「取下げ等」が25件、「却下」20件、「棄却」189件、「国の一部敗訴」5件、「同全部敗訴」6件の合計245件(前年度比6.5%減)で、国側の敗訴(納税者勝訴)割合は同3.9ポイント減の4.5%となりました。

(注意)
 上記の記載内容は、平成29年11月13日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

財務省:国税における行政手続コスト削減のための基本計画を公表

財務省は、国税における行政手続コスト削減のための基本計画を公表しました。
 それによりますと、基本計画では国税における行政手続きの概要及び電子化の状況を示した上で、コスト削減の取組内容及びスケジュールを明らかにしております。

 コスト削減方策については、電子申告の義務化が実現されることを前提に、
①大法人の法人税・消費税の申告について、電子申告(e-Tax)の利用率100%
②中小法人の法人税・消費税の申告について、電子申告の利用率85%以上
③電子納税の一層の推進
④e-Taxの使い勝手の大幅改善
⑤地方税との情報連携の徹底(法人設立届出書等の電子的提出の一元化、電子申告での共通入力事務の重複排除等)を掲げております。
 上記④のe-Taxの使い勝手の大幅改善では、マイナポータルの「お知らせ」機能などの利活用(2019年1月以降、順次実施に向けて検討)や個人納税者のe-Tax利用の認証手続きの簡素化(2019年1月実施予定)などを推進するとしております。

また、申告書等の送信容量の拡大(2018年度実施に向けて検討)など申告書等の送信手続きの利便性の向上のほか、e-Tax利用による手続きの簡素化を掲げております。
 前記⑤の地方税との情報連携の徹底では、法人納税者が設立又は納税地異動等の際に国税当局と地方税当局それぞれに提出している各種届け出書等について、データの一括作成および電子的提出の一元化を可能(2019年度実施に向けて検討)とします。

 さらに、法人住民税・法人事業税(地方法人二税)の電子申告手続時の複数自治体への申告に共通する事項の重複入力の排除の検討・実現に向けて、総務省と連携し、民間ソフトベンダーへの仕様公開方法の改善や法人税申告情報のインポート機能の実装等を通じて、法人税及び地方法人二税の電子申告における共通入力事務の重複排除に向けて取り組む(総務省と連携して2019年度実施に向けて検討)としております。
 今後の動向に注目です。

(注意)
 上記の記載内容は、平成29年11月6日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

民事調停手続の利用

◆民事調停は最も身近な裁判手続
 取引先や顧客との間でトラブルが生じたとき、まずは話し合いで穏便かつ早期に解決することが最良の方法です。もっとも、当事者のみの話し合いでは、話が前進しないこともあるでしょう。当事者間では、つい感情的になったり、客観的な視点を持てずに適切な解決内容を見失ってしまったりすることがあるためです。
 そのようなとき、信頼に足る第三者が入って話し合いを進める制度の一つとして、身近に利用できる「民事調停」という裁判所の手続があります。
 裁判所の手続といっても、訴訟のように当事者が主張や証拠を出し合って裁判所が最終的な判決を下す、というものではありません。裁判官1名と調停委員2名が当事者の間に入り、事案に応じた円滑な解決を目指して話し合いを進める柔軟な手続です。

◆実際の申立方法や審理の内容
 民事調停の申立てを行うには、申立書を作成して簡易裁判所に提出します。申立書の内容も複雑なものではありません。現在、裁判所のホームページに申立書の書式が掲載されていますので、これに記入する形で簡単に申立書が作れます。
 申立費用も訴訟に比べて安価ですし、法廷で公開されるものではありませんので、第三者に知られたくない情報も安心して話すことができます。また、裁判と言えば弁護士を思い浮かべるかもしれませんが、話し合いによる解決制度ですので、弁護士に依頼せず本人のみでの対応が十分可能です。  
 調停委員会の許可を得れば、従業員でも代理人になることができるため、代表取締役本人が出席しなくても良いというのも民事調停のメリットです。

◆調停成立の効果
 話し合いがまとまり、合意に達した場合には、合意内容を記載した調停調書という書面が作成されます。調停調書は確定判決と同様の効果が得られますので、相手方が調停調書に記載された債務を履行しなかった場合には、強制執行が可能となります。
 他方で、民事調停が不成立となった場合にも、大きなデメリットはありません。その場合には、話し合いによる解決は諦め、訴訟をするか否かを検討すればよいのです。

途上国の日本中古車輸入ビジネスと日本の消費税

◆途上国での日本中古車販売ビジネス
 海外から日本の税金に関する問い合わせで比較的多いのが、「日本から中古車を輸入して途上国で売る際の日本の消費税をどうしたら還付できるか?」というテーマです。 

◆輸出に係る消費税は免税が原則
 具体的な数字で流れを説明します。
 中古車マーケット(=自動車オークション)にて20万円でトヨタ車を買います。国内での購入なので、8%の消費税がかかり代金は21.6万円となります。オークション費用やリサイクル費用などの諸経費、さらに日本から輸出の船賃や本国での輸入代金として1台あたり10万円かかったとします。合計原価は30万円+消費税1.6万円です。
 これを本国にて40万円で販売したとします。消費税を負担したままだと利益率は21%、消費税の還付を受けると25%です。
 消費税の還付を受けられるか否かで利益率が大きく変わってきます。
<原則:輸出に消費税はかかりません>
 輸出される物品(中古車)に消費税はかかりません。でも、オークションで購入する際は国内の売買なので、消費税がかかります。ただし、輸出免税なので、消費税の確定申告をすれば消費税は還付されます。

◆立ちはだかる現実の壁!
 海外在住の外国人や外国法人には古物商の許可取得が難しい事もあり、消費税分を免税扱いにして還付してもらうことはかなり難しいのです。その理由は主に2つです。
1.日本に子会社を設立(=国内で自動車の中古市場に参加するには、警察に古物商の許可申請が必要)して消費税の確定申告をすれば還付されるが、その場合、法人税等の申告もしなければならない。子会社の維持費を賄うためには、その分の固定費を回収できるだけの売上利益が必要となる。そこまでの事業規模は見込めない。
2.日本に子会社を持たない場合、中古車を直接調達できないので、知人から購入し、輸出してもらうことになる。本来は、その知人から輸出として購入する際には輸出免税扱いなので消費税はかからない。しかし、知人は、個人事業としている者が多く消費税の申告していないため、代価は消費税込みの金額となってしまっている。
※現実的には、「輸出は免税」が通じない取引の世界となっているのが実態です。ある程度の事業規模が見込めないとなかなか難しいビジネスです。

中小企業の人材確保における3つのミスマッチ

 「中小企業白書2017年版」では、中小企業の人材確保において、①採用手段のミスマッチ、②情報のミスマッチ、③情報伝達・獲得手段のミスマッチが存在することを指摘しています。同白書では人材を事業活動の中枢を担う「中核人材」と労働力を提供する「労働人材」とに区分して考察を行っていますが、ここでは「中核人材」に着目してみていきましょう。

 まず、採用手段のミスマッチとは、中小企業が有効と考える採用手段と、求職者が有効と考える手段との間に存在するミスマッチを指します。中核人材の採用にあたって中小企業は「ハローワーク」や「親族・知人・友人の紹介」を有効と考えていますが、求職者側については年齢層が低いほど「就職ポータルサイト」や「企業のホームページ」を重視しています。

 情報のミスマッチとは、中小企業が求職者に対し重点的に伝えた自社の情報と、求職者が重視した企業情報との間に存在するミスマッチを指します。例えば「沿革・経営理念・社風」「技術力・サービス力・社会的意義」については中小企業側が重視するほどには求職者側は重視しない傾向にあります。

 情報伝達・獲得手段のミスマッチとは、中小企業が求職者に対し情報を伝えた手段と、求職者が知りたい情報を得るために有効だと考える手段との間に存在するミスマッチです。中小企業側が経営者や採用担当者による面談によって情報を伝える一方で、若年層ほど「各種の求人広告」「企業のホームページ」「説明会・セミナー」といった直接的な選考の前段階を重視する傾向にあります。

 このように中小企業が人材確保を円滑に行うには上記の3つのミスマッチを克服することが求められるのです。

 では中小企業が人材確保を円滑に行うためにはどのような取組みが求められるのでしょうか。ここでは「中小企業白書2017年版」でも先進事例として取り上げられているクリーニング業者の株式会社喜久屋(本社東京都足立区)の取組みについてみていきましょう。

 同社の主戦力であるパートタイム従業員の平均勤続年数は10年と長く、高い定着率を誇っています。その背景として、業務の平準化を図る生産体制の工夫、育児や介護といった個々の事情を抱えるパートタイム従業員の働きやすさを実現する企業風土、従業員の能力向上と継続勤務のモチベーションとなる職能等級制度の存在があげられます。

 生産体制の工夫としては、一人の従業員が複数の業務や機械の操作を担当できるよう「多工程・多台持ち」の仕組みを導入しており、従業員同士で互いの業務を補い合い円滑に業務を進めることが可能となっています。また、パートタイム従業員を対象とした職能等級制度の構築によって能力に応じた等級に基づき賃金を支給するほか、店長への登用や正社員転換等の制度も設けており、これらの制度を通じてパートタイム従業員の能力向上と継続勤務へのモチベーションアップを図っています。

 上記のような従業員が安心して長く働き続けやすい職場環境の情報は、インターネットや各種メディアに取り上げられるとともに、同社も積極的に求人情報等で情報発信しています。その結果、最近では募集人数を大きく上回る応募があるなど、採用の状況も良好です。

 このように働きやすい職場環境づくりを推進しつつ、情報発信を的確に行うことなどによって人材確保が可能となるのです。(了)

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)

社外取締役はROE、社内取締役は自己資本比率

 上場企業で社外取締役の導入が進んでいます。社外取締役導入の効果については、色々なことが言われていますが、大きくまとめると以下の二つに集約されるかと思います。

 一つはガバナンス体制の強化です。社外取締役は経営トップ(社長等)の暴走に歯止めをかける役割が期待されます。トップの暴走に対する歯止めは社外取締役だけではなく、他の一般の取締役にも求められます。ただ、従業員出身の生え抜きの社内取締役だと、「おかしい」と思っても、自分を引き上げてくれた上司であるトップに直言しにくく、取締役としての監督機能を十分に果たせないことが危惧されるのです。その点、社外取締役は元々外部の人間ですから、トップに意見を言いやすいと考えられます。  また、トップと社内取締役は長年、同じ会社で同じ目標に向かって働いてきたのですから、価値観も同一になりやすく、一般社会とは異なる会社の常識を共有してしまう危険性があります。その点、社外取締役は取締役会に会社とは違う社会の常識を持ち込むことが期待できます。  社外取締役には上記のような経営ガバナンス体制の強化の効果が期待されますが、ただ社外取締役を導入しさえすれば、それで強化されるというものではありません。社外取締役を実質的に選任する経営者が、価値観が同じで自分の言うことに逆らわないようなお友達を選べば、社内取締役とほとんど変わらなくなってしまうからです。その意味で、当然のことですが、どのような人を選ぶかが極めて重要になります。

社外取締役に期待されるもう一つの効果は、カネの使い方を変えることにあります。社内取締役と社外取締役で違いが出てくるのは、投資決定後の剰余金の使い方です。社外取締役は株主の代表ということをより強く意識しますから、配当や自社株買いなどの株主還元を重視するのに対し、従業員出身の社内取締役は会社の存続を第一に考え、社内留保を優先しがちになります。

 社外取締役が何より重視すべき指標は、株主から預かった財産の効率性を示すROE(自己資本利益率)になります。会社で投資に使い切れないカネが残ることは会社の本質に反するのだから、内部留保は株主に還元すべきだと考えます。  一方、従業員出身の社内取締役は、会社は株主のものであるだけではなく、従業員の生活共同体であるという意識を強く持ちます。雇用の流動性の低い日本では、従業員のために会社の存続を第一に考えます。そうすると、彼らの重視する指標は会社の安全性指標である自己資本比率になります。投資に使い切れないカネを不用意に社外に流出するのではなく、まさかのために内部留保すべきだという意見が強くなるのです。  社外取締役の導入で剰余金の使い方に関する意見対立は厳しくなることが予想されます。それは最終的に株主重視か、従業員重視かの会社観の違いに帰着します。どちらがいいかは即断できませんが、グローバル化により日本の会社も否応なく株主重視の経営に向けて動き出しているということなのでしょう。

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)

江戸川区南小岩6-6-8
鈴木税務会計事務所

格差拡大に向かう財務諸表

近年、格差拡大論が盛んです。これは個人間の格差拡大の話ですが、ここでは少し見方を変えて、財務諸表の格差拡大について考えてみましょう。本コラムで言いたいことは、「財務諸表が格差拡大を促している」ということではなく、「財務諸表は格差拡大を先鋭的に表示するように変わってきている」ということです。

 資産価額とは何なのでしょう。そんなことは自明のことだといわれるかもしれません。一般の消費者の感覚からすれば、資産価額とは売買する価格、つまり、その資産を実際購入した価格か売ることができる価格です。企業会計でも以前はこれで十分でした。この考え方によれば、資産価額は資産を所有する企業の外で決められるものであり、企業自体でどうこうすることのできないものでした。  しかし、近年の考え方は違います。資産価額は所有する企業の収益力により変わるとする会計基準が多くなってきています。たとえば、減損会計では、固定資産の価額には将来その資産が生む収益力が反映されると考えます。収益力が落ちれば、固定資産価額を落とすのが減損会計です。  こうなると、資産の評価は客観的なものさしでは測れません。まったく同じアパートを所有していたとしても、所有者の賃借人を集める能力に応じて資産の評価額は変わってきます。これは何もアパートに限るものではなく、工場でも店舗でも同様です。  また、税効果会計でも、収益力の高い会社ほど、繰延税金資産という資産を計上できる可能性が高まります。

新しい会計概念では損益計算書の収益力は単に損益計算書にとどまらず、貸借対照表をも動かします。本業の収益力が高ければ、税効果会計で繰延税金資産という資産を計上し、資産総額を増大させることができます。一方、収益力が低ければ、繰延税金資産を計上できませんし、場合によっては既に積んだ繰延税金資産を取り崩すこともあります。また、減損会計では既存の固定資産まで減額しなければならなくなります。こうした資産の計上や取崩しは貸借対照表の価額を変動させるだけではありません。複式簿記ですから資産の反対勘定として、損益計算書の損益を再び揺り動かします。

 つまり、元々の収益力の高い会社は貸借対照表の資産をより厚くし、それが損益計算書の最終利益を更に高めます。逆に収益力のない会社は貸借対照表の資産を減額しながら、損益計算書の損益を一層悪化させます。  近年の会計基準は、従来の会計基準ではオブラートに包んでいた、強いものの本当の強靭さと弱いものの真の脆弱さを白日のもとにさらします。その意味では弱者に冷たい制度です。日本人のメンタリティーからすれば、旧来の会計基準の方が性に合っているような気がしますが、グローバル化に従う限りこれは不可避な流れです。会計制度も世の中の風潮と同様に格差を一層助長する方向に向かっているといえます。  収益力を持つ会社は益々強く、収益力を持たない会社は益々弱くなります。今の会計制度の下で重要なのは収益力です。収益はすべてを癒します。

(記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター)

江戸川区南小岩6-6-8
鈴木税務会計事務所