【時事解説】経営者保証を不要とするために その2

 経営者保証の有無により銀行における融資金の回収業務は次のように変わります。経営者保証がある場合は、事業を行う会社が破綻しても、回収業務は終わりではなく、次に経営者個人からの回収に向かいます。銀行にとっては会社以外の補完的な回収手段があるわけですから、好ましいように思えるかもしれません。しかし、格別の悪意のない普通の経営者であれば、経営する会社が破綻するほどに追い込まれれば、個人財産がそれほど多額にあるわけではなく、経営者個人からの回収は労力も時間もかかる割に、実りはそれほど期待できません。また、最終的には個人生活まで踏み込むこともありますから、銀行員として気が進む仕事でもありません。

 一方、経営者保証がなければ、会社が破綻し、残余財産で回収できなければ、その時点で貸倒損失を計上すると同時に融資金額を帳簿から落とし、その案件はそれで終了となります。その結果、銀行員は心機一転新しい仕事に向かうことができます。

 経営者保証を付けて、わずかの可能性がある限り、トコトン回収努力を続けるというのは、一見、銀行の本来の姿のように見えます。しかし、現代のように変化の激しい時代には、限りある人的資源を後ろ向きの仕事にいつまでも貼り付けることが、いいことなのかは疑問です。そうした仕事には早々に見切りを付けて、新規の融資開拓に向かう方がはるかに生産的だと思われます。

 経営者保証は経済成長期の資金需要が旺盛であった、貸し手優位の時の前時代の遺物のようなものです。今はカネ余りで、借り手優位に変わっています。銀行はいつまでも昔の流儀にこだわり、担保や保証は多いほどいいという発想は捨て去るべきでしょう。融資金の返済財源は事業が生み出すキャッシュフローだけだと割り切った方が時流に即していると思います。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】経営者保証を不要とするために その1

 経営者保証とは主として中小企業において、経営者個人(多くの場合は社長)が自ら経営する会社の借入金の返済を保証するものです。経営者保証の存在は、万一の場合、経営者の個人資産までなくなってしまうのですから、個人生活を脅かします。それは同時に、企業家のリスク挑戦意欲の減退を招き、経済活性化の妨げにもなります。今回は経営者保証の今後の方向性について考えてみます。まず、保証を取る銀行側の事情から見てみましょう。

 体制が確立されている大企業は別として、組織が未熟な中小企業への融資に際し、銀行融資の審査ポイントとして重視すべきは、人(経営者)なのか事業なのか、ということは古くから大きなテーマでした。人の重要性を強調する論者は、経営者の信用は事業成功の大きな要因であること、そして、もし万一事業に失敗しても、信用できる経営者であれば、借入金の返済についても誠実な対応が期待できる、といったことを主張します。一方、事業の方が重要だという人は、融資の返済は直接的には融資対象である事業から行うのだから、経営者の人格など関係なく、事業の状況や将来性だけに焦点を絞るべきだとします。

 日本の銀行では昔から、「人を見て融資をしろ」というようなことがよく言われました。最終的には人(経営者)の信頼性が重要だということになれば、事業の現況や収益予想を気にかけるより、経営者の健康状態、精神状態、あるいは家族の状況などが重要になります。その延長線上に、「最終的には私財を投じても返済してもらう」という経営者保証が存在し、広く普及したと考えられます。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》住宅ローン控除の要件

◆住宅ローン控除って何?
 個人が住宅ローン等を利用して、マイホームの新築、取得または増改築等をし、自己の居住の用に供したときは、一定要件下で、住宅ローンの年末残高を基準として、所得税を控除することができます。正式名称は「住宅借入金等特別控除」といいます。
 新築の場合の住宅ローン控除が受けられる要件を確認してみましょう。

◆住宅ローン控除の要件(新築の場合)
・住宅取得後6か月以内に居住していること
・控除を受ける年分の年末まで引き続き居住の用に供していること
・床面積50(特例は40)平方メートル以上かつ居住用に2分の1以上を供していること
・住宅ローン控除を受ける年の合計所得が2,000(特例は1,000)万円以下であること
・10年以上のローンであり、民間の金融機関や住宅金融支援機構などの住宅ローンであること
・2つ以上住宅がある場合は、主として居住の用に供する住宅であること
・居住用財産の譲渡特例等、一定の譲渡所得の特例を居住年および前2年の3年間受けていないこと
・居住年の翌年以後3年以内に、居住した住宅以外の一定の財産を譲渡し、一定の譲渡所得の特例を受けていないこと
・住宅の取得(土地等の取得を含む)は、生計を一にする親族や特別な関係のある者からの取得でないこと
・贈与による住宅の取得でないこと

◆「住んでいるか」が重要
 要件の通り、住宅ローン控除は住んでいなければ受けられません。ただし転勤で居住を移す場合は、単身赴任等で家族が引き続き居住していれば住宅ローン控除は継続して受けられます。
 「住宅ローン控除も受けられないし、賃貸にして利益を」と考える方もいるかもしれませんが、賃貸にした場合は金融機関の住宅ローンは特別金利等の優遇がなされている関係で規約違反となり、一括返済を求められることが一般的です。
 また、悪質な不動産投資会社等が、顧客に対して「居住用と言えばローンが通る」等の話をもちかけていたケースも報道されています。「知らなかった」では済まされませんので、ご注意ください。

《コラム》ミッション・ビジョン・バリューとは

◆会社の価値観を形にする経営理念
 会社に経営理念があると従業員1人1人の努力のベクトルが同じ方向を向くことができ、ひいては会社の業績につながるものです。従業員が「毎日何のために自分が努力しているのか」と感じた時に売上げを伸ばすだけではない価値観を持てると持てないとでは働くモチベーションも違ってくるでしょう。
 経営理念は初めて作る時、あまり難しく考えずに社長が普段から考えている「理想の会社の姿」を文書に落とし込めばいいのです。今はその言葉をヒントにAIに手伝ってもらうこともできる時代です。
 理念をもとにそれを実現してゆくにはどうすればよいのかを1つの目標として社内が団結して行動できることで企業の成長となり得るでしょう。

◆経営方針に対する3つの考え方
 経営理念にはミッション、ビジョン、バリューとありますが、ピーター・ドラッガーによる定義ではミッションとは「使命」「目的」「存在意義」などを指し、ビジョンは「将来像」「あるべき姿」を表し、バリューは「価値観」「行動指針」を表すとしています。
 経営理念を制定するときは、まずビジョンを考えます。企業が目指す将来を明確にすることでミッションも整理しやすくなります。ミッション実現後の理想像をメンバーと共有します。
 ミッションは事業の「目的」「使命」を指し、企業として果たすべき使命、「顧客や社会が求めているもの」が理想的です。まずは社長が自らの思いを経営陣を交えて共有し、議論し定めます。
 その後、従業員の価値基準・行動指針となるバリューを策定します。ミッションとビジョンは会社が主体ですがバリューは従業員が主体です。ミッション、ビジョンの達成のために従業員はどのような行動を取るべきかをわかりやすく言語化する必要があります。バリューは多すぎないよう5個以内が良いでしょう。策定には従業員も含めた話し合いが良いでしょう。
 行動指針が具体化されることで従業員の当事者意識が高まりモチベーションアップにつながり、この3つがうまく機能することで会社の発展につながることでしょう。

《コラム》定額減税の対象となる人

◆定額減税が6月から
 本人と配偶者・扶養親族について一人当たり所得税3万円(住民税1万円)を減税しますという定額減税が6月から始まり、源泉徴収税額に影響が出ます。この適用対象となる本人と配偶者・扶養親族については、次のような適用要件があります。

◆減税を受けられる本人の要件
1.令和6年分の所得税の納税者
2.日本国の居住者
3.本年分の主たる給与の支払者からの給与収入が2,000万円以下(子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受ける人は、2015万円以下)

◆減税を受けられる配偶者の要件
1.この減税を受ける本人と同一生計
2.合計所得金額が48万円以下
3.非居住者でない
4.青色事業専従者給与受給者・白色事業専従者控除適用者でない
 合計所得金額48万円は給与年収では、103万円です。
 源泉所得税の徴収計算で「扶養親族の数」を一人増やすことになる源泉対象配偶者及び配偶者控除適用を受けられる配偶者とは範囲が異なっています。
 源泉対象配偶者は、合計所得金額が 95 万円(給与収入では 150 万円)以下が要件ですが、減税対象配偶者の所得要件は48万円以下です。

◆減税を受けられる扶養親族の要件
1.配偶者以外の親族
2.この減税を受ける本人と同一生計
3.合計所得金額が48万円以下
4.青色事業専従者給与受給者・白色事業専従者控除適用者でない
 上記における親族とは、民法に定める親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)をいいます。
 所得税の扶養控除の対象とならない16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)も控除金額の計算対象に含まれます。

◆要件充足のための追加申告書
 この減税を受ける本人の合計所得金額が900万円超のため、扶養控除等申告書の源泉控除対象配偶者の欄が空欄になり、減税対象配偶者要件に係る情報不足となる場合には、別途「源泉徴収に係る定額減税のための申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書」に同一生計配偶者の情報を記載して、給与支払者に提出する必要があります。

《コラム》現物配当(現物分配)の税務

 株式会社は、利益の配当をする場合、金銭以外の財産を配当対象とすることができ、これを現物配当(現物分配)といいます。

◆適格現物分配
 現物分配の税務上の取扱いについては、組織再編税制の一つと位置付けされ、配当する法人を「現物分配法人」、配当を受け取る法人を「被現物分配法人」とするとの規定を置き、そのうち、現物分配法人が内国法人で、被現物分配法人がその現物分配の直前に現物分配法人との間に完全支配関係がある内国法人であるものを「適格現物分配」というと規定しています。
 適格現物分配の場合には、適格現物分配の直前の帳簿価額により現物分配対象物件が譲渡されたものとして取り扱われ、含み損益に対する課税はなされません。また、利益の配当なので、利益積立金額を同額減少する税務会計処理をします。なお、所得税法上、適格現物分配は配当等の範囲から除かれており、現物分配法人には源泉徴収義務が生じません。

◆現物分配と消費税
 また、配当は消費税法で定める「対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為」に該当しないので、建物等を現物分配した場合であっても消費税対象外取引(不課税取引)という扱いにされます。

◆現物分配の便利な利用
 ちなみに、現物分配は、会社法で禁止されている子会社の親会社株式保有状態の解消方法として利用されたり、子会社の子会社(孫会社)を子会社に会社関係の再編(兄弟会社化)のために使ったり、もされています。

◆子法人株式に限った現物分配
 この兄弟会社化にする現物分配については、平成29年度税制改正で、非適格現物分配のうち、完全支配子法人株式を対象とする現物分配を、他の者による支配関係がない上場企業のような法人が実行する場合、これを「株式分配」という新類型の組織再編行為と規定し、共同事業要件を簡易にした5要件を充足すれば、適格株式分配として含み損益に対する課税のない帳簿価額での税務会計処理をするものとされました。なお、令和5年度税制改正では、子会社株式を現物配当するに際し、親会社に20%未満の出資持分を残すことも条件付きで許容する税制適格株式分配にもなっています。

【時事解説】競争力のある企業が進めるDEI経営とは その2

 競争力のある企業は、ダイバーシティ(D:多様性)だけでなく、エクイティ(E:公正)とインクルージョン(I:包摂)を重視する傾向にあるといわれています。それぞれの頭文字をとりDEI経営と呼ばれ、注目を集めています。背景には、DEI経営はイノベーション創出や人材獲得、定着に有効であることが挙げられます。

 世界有数のソフトウェア開発会社では、10年ほど前から、多様性と包摂を優先事項としてさまざまな取り組みを展開してきました。取り組みを開始した当時、この会社は業績が上がらず苦しい時を過ごしていました。その中、ビジネスモデルや事業の構造改革だけでなく、カルチャーを変えることが必要と判断し、DEI経営に取り組みました。

 具体的な施策は、障害のある社員が働きながらITスキルを高められるプログラムを発足。ほかには、宗教の異なるさまざまな人材への配慮として、食堂のメニューを豊富にしたことが一つ。さらには、同性のパートナーの結婚については、法的には結婚していなくとも、家族として認め、結婚祝い金や休暇を提供するといった取り組みを実施しました。

 多様な人材をひきつける改革は事業にも好影響を与えます。当時停滞気味だったプロジェクトの中には、カルチャーが変わることで、多様な人材が連携して動き出し、次々と革新が起こったといいます。さまざまな改革が功を奏し、この会社は停滞期を乗り越え、再び成長軌道をたどり、存在感を取り戻しました。

 多様性や包摂を表面的ではなく、真剣に取り組むことで、改革の停滞した雰囲気を打破できるといわれています。日本でも、化粧品会社やヘルスケア系メーカー、アパレル、地銀など、大手を中心に少しずつ取り組みが増えています。今後の広まりに期待したいところです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】競争力のある企業が進めるDEI経営とは その1

 近年、ESG経営やマルチステークホルダー経営など、時代の流れに沿った「○○経営」を目にする機会が増えました。背景には、企業は自社の利益を追求するだけでなく、社会の公器として、どのように活動するかが問われる時代となったことがあります。

 こうした流れの中で、ここ数年、注目されているのがDEI経営です。DEIは、ダイバーシティ(D:多様性)、エクイティ(E:公正)、インクルージョン(I:包摂・ほうせつ)の頭文字をとったものです。ダイバーシティ(多様性)とエクイティ(公正)は馴染みがありますが、インクルージョン(包摂)については一般的な言葉ではありません。

 包摂は哲学などで用いられる言葉で、辞書には、「いろいろな人が個性・特徴を認めあい、いっしょに活動すること」とあります。ダイバーシティは、人種・性別・宗教・価値観などさまざまに異なる属性を持つ人々が、組織の中で共存することを意味します。包摂はさらに一歩進んで、こうした人々がお互いの個性や特徴を認め合い、受け入れ、共に行動することを意味します。

 DEI経営では、まず、企業のトップが方向性を示すことが必要です。実現には、社内設備や制度を整え実践することが求められます。具体策には、障がい者に向けたバリアフリー化、多言語対応、同性パートナーシップ制度、さらには不妊治療の補助などが挙げられます。

 世界では、DEIに関する市場は2022年の94億ドルから2030年までには244億ドルへと拡大するという予想もあります。DEI経営はイノベーション創出や人材獲得、定着に有効だといわれているため、投資に対するリターンが見込めると考える企業も多くあります。こうした流れに乗り成長の源にしようとする動きもあり、実際、業績を伸ばす企業が増えているといわれています。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】中小企業におけるM&A成立前までの取組 その2

 では、中小企業におけるM&A成立前までの段階ではどのような取組が求められるのでしょうか。
 そこで中小企業庁編「中小企業白書2023年版」において、M&Aの実施によりグループ間の相乗効果を発揮させている企業の事例として紹介された、株式会社坂井製作所(岐阜県各務原市)の取組についてみていきましょう。

 株式会社坂井製作所は水栓金具を中心とした金属部品の受託加工・組立てを手掛ける企業です。現社長が将来の成長を見据えてM&Aを検討する中、2015年に取引先の子会社であった同じ市内の企業を買収しました。この企業は部品加工業務の後工程に当たる組立て業務を主に担っており、相乗効果を見込めたことが買収の決め手となりました。

 2020年には岐阜県内の製造業者を買収しました。後継者不在の悩みを抱えていた譲渡側の社長から相談があったことを機に、経営者同士で買収に向けた話し合いを始めました。対話の際には相手先経営者と価値観を一致させることを重視し、「譲渡側の雇用を維持する」という点で価値観が一致し、M&Aに至りました。M&Aにあたっては公的支援機関に仲介を依頼し、両社がフェアな状態で契約手続を進められるよう心掛けました。M&A成立後は経営統合を円滑に進めるべく、経営理念・行動指針の明文化や評価基準の見直し等を行い、グループとしての経営方針を浸透させることに努めました。
 M&Aの結果、自社グループで加工できる範囲が広がったため、新しい事業分野へ進出することが可能となりました。

 このように、中小企業のM&Aにおいては譲渡側企業と価値観を一致させることを重視しながら、経営統合を進めることが重要となるのです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】中小企業におけるM&A成立前までの取組 その1

 事業承継の手段として「社外への引継ぎ」は増加傾向にあり、その中でも特にM&Aについては、事業承継だけでなく、企業規模の拡大や事業多角化など成長戦略の一環としても、中小企業の間で広がりを見せています。

 中小企業庁編「中小企業白書2023年版」では、M&A成立前までの取組に関して実施したアンケート調査に基づき分析を行っています。
 まず、買い手としてM&Aに関心がある企業を対象に、希望するM&Aの相手先企業の特徴についてみると、相手先企業の規模としては「自社より小規模」、業種としては「同業種」、属性としては「仕入先・協力会社」、地域としては「同一都道府県」・「近隣都道府県」など比較的近隣の地域、形態としては「水平統合」を希望する傾向にあります。

 買い手としてM&Aに関心がある企業を対象にM&Aの目的を回答割合の高い順にみると、「売上・市場シェア拡大(74.6%)」、「人材の獲得(54.8%)」、「新事業展開・異業種への参入(46.9%)」となっています。
 M&Aを買い手として実施した企業の満足度別に、最も重視したM&Aの相手先企業への確認事項についてみると、M&Aの満足度が「期待以上となった」企業は、「期待を下回った」企業と比較して、「相手先経営者や従業員の人柄・価値観」を重視する傾向にあることがわかります。また、買い手としてM&Aに関心がある企業を対象に、M&Aを実施する際の障壁についてみると、「相手先従業員等からの理解が得られるか不安がある(51.6%)」という回答が5割以上と最も高くなっています。

 このように、M&A成立前の段階から「相手先経営者や従業員の人柄・価値観」を確認しておくことが重要となるのです。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)