《コラム》消費税の課税制度の切り替え

◆本則・簡易・2割特例
 中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から、売上に係る消費税額を基礎として仕入れに係る消費税額を算出することができる簡易課税制度が設けられています。みなし仕入れ率は事業区分によって異なり、消費税の納付税額を売上に係る消費税額の10~60%とすることができます。
 また、令和5年10月から開始されたインボイス制度に合わせて、免税事業者からインボイス発行事業者となった事業者の方を対象に、消費税の納付税額を売上に係る消費税額の2割とすることができる制度が新設されました。
 本則・簡易の切り替えルールについて改正はありませんが、まとめておさらいをしておきましょう。

◆2割特例は手続き優遇
 2割特例の適用は①令和5年10月以降に免税事業者からインボイス発行事業者になり②基準期間(前々年もしくは前々年度)における課税売上高が1,000万円以下の事業者であれば、資本金1,000万円以上の新設法人や調整対象固定資産又は高額特定資産の取得により免税事業者とならない事業者等、特殊な状況でなければ受けられます。2割特例を受けるために、事前に届け出の必要はなく、消費税の申告時に2割特例を受ける旨を付記することで適用となります。
 本来は簡易課税制度の適用を受けるためには、課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があるのですが、2割特例利用者が簡易課税制度の適用を受けるには、その課税期間の末日までに届け出を提出すれば、簡易課税制度の適用を受けることが可能です。

◆簡易から本則は原則2年縛り
 簡易課税から本則課税への切り替えは、原則2年たたないと変更できません。簡易課税を選んだ場合、2年間は簡易課税が適用されます。ただし、基準期間の課税売上高が5,000万円超の場合は、強制的に本則課税が適用されます。その翌年の基準期間の売上高が5,000万円以下になった場合は、1年で簡易課税に戻ることになります。
 本則から簡易の切り替え、または任意で簡易から本則への切り替えを行う場合、課税期間の初日の前日までに届け出を提出する必要があります。

【時事解説】アフターコロナで対応が迫られるゾンビ企業の問題とは その2

 新型コロナウイルス禍以降急増している、「ゾンビ企業」が問題となっています。また、近年、日本は日銀の金融政策のおかげで低金利が続いてきました。結果、少ない利益でも利払いを賄えてきた「隠れゾンビ企業」も存在します。

 ゾンビ企業が問題視される理由はいくつかあります。一例を挙げると人材についてです。ゾンビ企業の中には人材を多く抱えているところもあるため、成長産業に人が集まりにくい、採用難に拍車をかけているといった批判があります。ほかにも、自社の補助金採択率が下がる、資金が集まりにくくなるといった声もあります。

 ただ、今後はゾンビ企業が経営難に陥る可能性が高くなると予想されます。現在、日銀の政策、大規模緩和は大きな転換点を迎えています。3月、マイナス金利政策の解除を決定し、マイナス0.1%としていた政策金利を0〜0.1%程度に引き上げると報じられました。こうした政策変更が、ゾンビ企業の財務悪化を顕在化させると指摘する人もいます。

 さらに、物価高や人手不足などに伴うコスト増で、ますます収益が悪化し業績不振に拍車がかかる企業も増えるでしょう。

 ただ、ゾンビ企業が淘汰されればよいと、単純な話でもありません。倒産により、ゾンビ企業で働く従業員の雇用の問題が浮上します。これらの人材の受け皿を探さなければならないという新たな課題が生じます。

 ゾンビ企業の問題を解決するには、単にゾンビ企業を排除するのではなく、収益性の高い経営といった経営改革が求められます。コロナ禍が明けた今、企業はどのように進むか、ゾンビ企業の問題を通して、企業は問われているともいえます。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】アフターコロナで対応が迫られるゾンビ企業の問題とは その1

 新型コロナウイルス禍以降急増している、「ゾンビ企業」が社会問題となっています。ゾンビ企業とは、本業で借入金の支払利息分をまかなえず、政府の資金繰り支援策や金融機関によるリスケ(借入金の返済条件変更)などで延命している企業を指します。つまりは、健全な経営状態ではないものの、倒産や廃業を免れている企業をいいます。

 民間の調査会社によると、新型コロナウイルス禍以降、ゾンビ企業は急増し、2022年度は前年度より3割増え、25万1,000社に上ったといいます。ゾンビ企業が増加したのはコロナ禍で政府が緊急対応として資金支援を打ち出したことが要因の一つといわれています。

 具体的には、2020年、実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)が始まり、多くの融資が実行されました。この支援策により、中小企業の中には資金繰りが支えられたところもありましたが、一方で、審査が甘くなったことで、本来融資を受けられない企業が生き延びました。

 当時、企業支援は不可欠なものでしたが、コロナ禍が明けた今、資金は経済成長が期待できる分野、たとえばAIや量子、グリーンなどへ戦略投資すべきという声もあがっています。ただ、日本はバブル崩壊後、リーマンショックや東日本大震災などの大きな経済ショックの影響で、経営者の中には積極投資による成長よりも、人件費や固定費を削減し、生き残りを優先する人が増えました。

 つまりは、今、ゾンビ企業が問題だからと排除しても、リスクをとって積極投資する経営者が少なければ、結果的に成長は望めません。ゾンビ企業の問題は、コロナ禍が明けた今、持続可能な経済成長を促進するにはどうしたらよいか、転換点を提示しているともいえます。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》「固定残業代」近年の裁判傾向

◆固定残業代のインパクトは甚大
 固定残業代制度を導入している企業は多く、それが労働基準法に照らして適法かどうかによって、経営に与える影響は甚大なものになります。仮に、自社の固定残業代制度が有効と認められない場合には、①残業代を1時間分も支払っていないことになる②これまで支払っていた固定残業代部分も残業代計算の基礎賃金に組み込まれる③裁判に至れば裁判費用や場合によっては付加金の支払いを命じられることがある、といったリスクが生じ、文字通りの三重苦に追い込まれる可能性があります。
 そのため、固定残業代の支払が有効となるための要件、判断要素を検討することは極めて重要であり、特に裁判で有効とされた事例または無効とされた事例の検討は大いに参考になります。

◆近年の裁判傾向から見た注意点
 近年の裁判傾向から、固定残業代制度の有効性について注意しなければならないのは大きく2点です。第一に、固定残業代制度を設計する際、その制度導入の目的に正当性、合理性が必要です(「コストダウン」などの目的では無効になる可能性が高いでしょう)。また、従業員への十分な説明を行うなどにより、その導入手続きの妥当性を確保することによって、制度内容及び計算方法に合理性が認められ、裁判上も有効と認められやすくなります。第二には、固定残業代の金額の定め方について、通常の労働時間として支払われるべき金額が多く含まれている、つまり、通常の労働時間の賃金を構成する基本給を、固定残業代に振り分けただけと判断され得る場合には、有効とは認められない可能性が大きくなります。
 そのため、固定残業代制度を設計するときには、自社における、平均的な残業時間などの数値や、法令遵守を意識した残業時間の目標数値などに基づく、合理的な金額設定が必要になると解されます。

◆導入にはメリットデメリットを考慮
 繰り返しになりますが、自社における固定残業代制度について、有効性が認められない場合、経営に与えるインパクトは甚大なものになります。固定残業代制度の導入に関しては、メリットとデメリット両面を考慮して、残業代の支払は、固定残業代がよいか、労働基準法通りの計算がよいか検討が必要です。

《コラム》税制の変遷と近時の改正動向 暗号資産(仮想通貨)

◆仮想通貨は「モノ」
 仮想通貨の課税関係については,参議院議員による質問主意書に対する2014年3月7日の政府答弁書で、初の公式見解が示されました。その文書では、仮想通貨は通貨でなく「モノ」と認定されました。
 「モノ」なので、銀行券や硬貨、また消費税法上非課税取引となる商品券やプリペイドカードなどの物品切手等支払手段でもないことになり、消費税の課税対象になることとされました。

◆「モノ」から「カネ」に
 2017年4月施行の資金決済法で、仮想通貨も紙幣等と同じ支払手段として法的に位置付けられることになり、それに対応して2017年税制改正大綱で仮装通貨の消費税非課税化が示され、政令において通貨と同じ扱いの非課税と規定され、2017年7月施行となりました。ただしこの時点では、法人税法上、期末時点での時価評価はしないものとされていました。

◆暗号資産化と時価法
 2018年3月、企業会計基準委員会が「資金決済法における仮想通貨の会計処理等」を公表し、「活発な市場」が存在する仮想通貨の貸借対照表価額は、市場価格に基づく価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理する、としました。
 これを承けて、2019年の税制改正で、法人税における活発な市場が存在する仮想通貨の評価方法について、時価法を導入する措置が講ぜられました。なお同時期に、仮想通貨の呼称が暗号資産に改められました。

◆時価法適用制限への逆流
 2022年11月、企業会計基準委員会が「暗号資産発行者の自己割当暗号資産の会計上の取扱い」を公表し、対価受領のない自己割当暗号資産は第三者との取引が生じるまでは会計上時価評価しない、としました。
 これを承けて、2023年の税制改正で、期末時価評価の対象となる暗号資産の範囲から、自己が発行した暗号資産が除外されました。2024年の税制改正では、譲渡についての制限のある暗号資産については期末時価評価の強制から除くこととされます。
 前年からの改正は、期末の時価評価での担税力の伴わない含み益課税を嫌って、スタートアップソフトウェア開発企業が日本から流出する傾向にある、ことへの対処と言われています。

【時事解説】後継経営者による事業再構築を成功させるポイント その2

 では、後継経営者による事業再構築を成功させるにはどのような点がポイントとなるのでしょうか。そこで中小企業庁編「中小企業白書2023年版」において、事業承継を契機とした新規事業創出に取り組む企業の事例として紹介された、アルファ電子株式会社(福島県岩瀬郡天栄村)の取り組みについてみていきましょう。

 アルファ電子株式会社は、主に電子部品や医療機器などの受託製造等を行う企業です。前社長(現会長)の次女である現社長は、東日本大震災を経験して家業に対する思いを強くし2015年に同社に入社しました。そして主力の受託製造事業中心の業態から脱却するため、同社の柱となる新しい事業を創出する必要性を感じていました。

 新規事業の構想を練る中で、2019年から米粉を使用した麺の開発に着手、2021年に「う米(まい)めん」というブランド名で商品の販売を開始しました。一方で、収益性を改善するため他社への製造委託から自社製造への切替えを検討、経済産業省の事業再構築補助金を活用し、2022年に米粉麺を製造する自社工場を設立しました。

 米粉麺の製造にあたり、社員の理解や協力を得ることにも気を配りました。例えば新製品開発に取り組む理由を整理して明示することで社員の納得感を高めました。また、同社の売上高や費用等の開示などを通して経営の透明性を高め、社員との信頼関係を構築しました。

 米粉麺の開発を通して、会社の認知度向上にもつながるとともに、既存事業である電子部品等の受託製造の受注につながるなど、既存事業との相乗効果も生まれました。

 このように、後継経営者による事業再構築を成功させるためには社員からの理解や協力を得ることがポイントとなるのです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】後継経営者による事業再構築を成功させるポイント その1

 中小企業の後継経営者には経営環境の変化に的確に対応しつつ、事業承継を契機に成長分野に向けた大胆な事業再構築を図ることが求められています。そして事業再構築を成功させるうえでは先代経営者や従業員との関係も重要です。

 中小企業庁編「中小企業白書2023年版」では、事業承継を契機とした事業再構築を進めるうえでの課題や、先代経営者や従業員との関係に関するアンケート調査の分析を行っています。
 まず、事業再構築を進める上での課題について回答割合の高い順にみると、「人材の確保(54.2%)」、「新たな技術・ノウハウの獲得(47.2%)」の順となっており、事業再構築を行う上で人材や新しい技術などを求めていることがわかります。
 次に事業承継後の意思決定の状況別に、事業再構築の取組状況をみると、「主に後継者が意思決定を行っている」企業は、「主に先代経営者が意思決定を行っている」企業と比べて、事業再構築に取り組んでいる割合が高くなっています。

 さらに従業員からの信認状況別及び事業再構築の取組状況別に、売上高年平均成長率の分布をみると、従業員から信認を得ており、かつ事業再構築に取り組んでいる企業は売上高年平均成長率の水準が最も高い傾向にあります。
 先代経営者や従業員から理解を得るための取組について回答割合の高い順にみると、「現経営者自ら率先して行動する姿を見せた(58.8%)」、「現経営者自ら、取組の意義やメリットを継続的に発信した(46.1%)」の順となっています。このことから、後継者が事業再構築を進める際には、後継者自ら積極的に行動する姿勢を示す取組などを通して、先代経営者や従業員から理解を得ていくことが重要となることがわかります。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》裁量労働時間制の改正~専門型も本人同意が必要に~

◆裁量労働時間制とは
 裁量労働時間制は、業務の性質上、大幅に労働者の裁量に委ねる必要があり、業務遂行手段や時間配分等を使用者が具体的に指示することが困難な一定の業務に限定して採用できるとされています。
 「専門業務型」と「企画業務型」がありますが、採用割合は前者が2.2%、後者は0.6%(令和4年厚生労働省調査)です。
 「専門業務型」の適用対象は、研究開発、情報処理、デザイン、広告宣伝の他、税理士、公認会計士、弁護士などの士業の業務に限定されています。

◆「専門業務型」裁量労働時間制の改正
 「専門業務型」を採用するには、過半数労働組合または過半数代表者と労使協定を締結し、個別労働契約や就業規則を整備して、労使協定の労働基準監督署への届出が必要とされています。
 さらに、令和6年4月以降は「労働者本人の同意」と「健康・福祉確保措置」が追加されます。

◆「労働者本人の同意」
 「専門業務型」で認められていた、「就業規則による包括的同意」ではなく、「企画業務型」と同様、個別に書面等での取得が必要となります(電磁的記録でも可)。

◆「健康・福祉確保措置」
 今回の改正で「専門業務型」「企画業務型」共に、下記【1】【2】から1つずつ以上の実施が望ましいとされています。
【1】長時間労働抑制・休日確保の措置
①勤務間インターバル(終業から始業まで一定時間以上の休息時間)を確保
②深夜業(22時~5時)の回数制限
③労働時間の上限措置
④連続した年次有給休暇の取得

【2】勤務状況や健康改善を講ずる措置
①医師による面接指導
②代償休日・特別休暇の付与
③健康診断の実施
④心とからだの相談窓口の設置
⑤必要に応じた配置転換
⑥産業医等の助言や指導

《コラム》特定一般社団法人等への課税取込みと対予防策

◆2018年の見直しの一般社団法人等
 平成30年(2018年)の税制改正で、公益社団財団を除く一般社団財団法人で、次の①②の要件を満たすものは、「特定一般社団法人等」と規定されました。
①相続開始の直前における同族理事(被相続人、その配偶者、三親等内の親族、その他特殊関係者)数の総理事数に占める割合が2分の1を超えること。
②相続開始前5年以内において、同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。

◆みなし個人相続税課税
 特定一般社団法人等の理事である者(理事を辞任後5年未満の者を含む)が死亡した場合において、その特定一般社団法人等に遺贈があったものとみなして、みなし個人相続税課税がされます。
 相続税の課税価格に算入される金額は、その死亡した者の相続開始の時におけるその特定一般社団法人等の純資産額をその時における同族理事の数(被相続人を含む)で除して計算した金額です。

◆同族理事とは
 一般社団法人等の理事のうち、被相続人、その配偶者又は3親等内の親族、その他その被相続人と特殊関係がある者(被相続人が会社役員となっている会社の従業員等)のことを指します。3親等内の親族には、叔(伯)父、叔(伯)母、甥、姪が含まれ、従兄姉弟妹は含まれません。

◆一般社団抑止税制への予防的留意事項
 この制度では、特定一般社団法人等の理事が死亡した場合のことを規定していますが、一般社団法人の最高意思決定機関である「社員総会」の構成員の社員が死亡した場合を対象としていません。
 理事を孫など、被相続人になることと縁遠い世代にすることで課税取込みの制度から縁遠くすることは可能です。
 また特定一般社団法人等に該当したとしても、兄弟姉妹を含めて同族理事を増やすことにより課税対象額を少なくすることも可能です。さらには、理事を3親等内の親族等の範囲外(たとえば、従兄弟姉妹など)の者を多く含めることで、特定一般社団法人等から外れるようにすることも可能です。
 少し考えると、思わぬ課税取込みに対する色々な予防策を張っておくことができます。

【時事解説】国民感情と乖離するインフレ目標 その1

 近年、インフレがすっかり定着し、かつて話題になった「インフレ目標」という言葉が聞かれなくなりました。今、到来しているインフレも日銀が掲げたインフレ目標の結果ではないことは明らかです。インフレ目標は国民感情と乖離するものではなかったかという気がします。ここで、インフレ目標とは何だったのかを、振り返ってみたいと思います。

 日銀は2%のインフレ目標を設定しました。インフレになれば賃金が上がり、経済が好循環に入るというのが、日銀の論理です。しかし、インフレになれば必ず賃金が上昇するという保証はありません。賃金上昇率がインフレ率を上回るかどうかが、今の焦点です。リフレ派は今回の物価上昇はデマンドプル型ではなくコストプッシュ型だから、その転換のためにも高い賃金上昇が必要だと主張します。たとえリフレ派が主張する通り、賃金が上昇すれば経済の好循環が生まれるとしても、賃金上昇より物価上昇が先にあるのですから、賃金が上昇するまでの間、国民には物価の先行上昇に耐えてもらわなければなりません。

 日銀がインフレ目標を本気で達成しようとするなら、それこそ総力を挙げて、国民に「賃金が上がるまでの間、物価上昇に我慢してくれ」とお願いしなければならないはずです。しかるに、今回の一連の経緯を見れば、日銀にそこまでの覚悟はないように見えます。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)