《コラム》ふるさと納税 国対地方とクラウドファンディング

◆印象的な出来事が多かったふるさと納税
 個人の所得や控除によって決まる上限金額以内の寄附であれば、自己負担が2,000円で済むふるさと納税。そろそろ今年の締め切りである年末が近づき、どの自治体に寄附をしようか、と考えていらっしゃる方も多いでしょう。思えば今年はふるさと納税に関して、印象的な出来事が多かった年となりました。

◆国対地方は司法の場へ
 2019年6月からふるさと納税の新たな運用ルールがスタートし、対象外とされた泉佐野市が国の第三者機関に対して異議を申し立てました。協議の結果は国側である総務省の、対象外とする決定は「法律違反であるおそれがある」として是正を提言された結果とはなりましたが、その結果をもってしても、総務省は除外決定を覆さなかったことから、泉佐野市は裁判所に提訴しました。舞台はついに司法の場に移り、この争いはまだまだ続きそうです。
 そもそもこの対象外とされたのは「お礼の品が寄附額に対して過剰な割合で拠出されていたから」という理由ですが、泉佐野市については、寄附金のうち公共施設整備のための基金を積み立てていながら、その寄附金をお礼の品の費用などに充てていたことが発覚し、こちらも法律に抵触する疑いがあるようです。ルールが未完成だった印象の否めないふるさと納税ですが、今年新たなルールを作成したことにより、そのほころびが目に見えるようになった感があります。

◆目的税としての寄附の役目
 10月31日、沖縄のシンボルである那覇の首里城が火災により全焼、市がこれを再建するための寄附をクラウドファンディングで募ったところ、3日目にして寄附額が1億円を突破しました。
 この寄附に関しては、お礼の品はもらえないものの、税の控除はふるさと納税扱いとなります。首里城への寄附は本来自分の住んでいる自治体への税の一部を、納税者の意思によって目的税化できるという認知が進んでいる証左でしょう。
 功罪様々な事象が起きた今年のふるさと納税ですが、自治体間の不平等や取り決めに関する不透明さを排して、皆さんが安心して行えるものにして欲しいですね。

(後編)2018年度査察白書:査察の告発事案は100%有罪!

(前編からのつづき)

 実刑判決で最も重いものとして、査察事件単独に係るものが懲役4年6ヵ月、他の犯罪と併合されたものが懲役7年でした。
 A社は、美容関連製品の輸出販売を行い、架空の国内仕入(課税取引)及び架空の輸出売上(免税取引)を計上する方法により、不正に多額の消費税の還付を受けており、同社の代表者Bは、消費税法及び地方税法違反の罪で、懲役4年6ヵ月の実刑判決を受けました。
 1件あたりの犯則税額は6,100万円でしたが、平均の懲役月数は14.3ヵ月、罰金額は1,400万円となりました。

 査察の対象選定は、脱税額1億円が目安とされ、脱税額や悪質度合いの大きさが実刑判決につながるといわれております。
 そして査察で告発されますと、社会的信用を失うだけでなく、巨額な罰金刑や実刑判決もありえますので、ご注意ください。
 なお、刑罰は10年以下の懲役に、罰金は1,000万円(脱税額が1,000万円を超える場合は、脱税相当額)以下となっております。

(注意)
 上記の記載内容は、令和元年11月8日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

(前編)2018年度査察白書:査察の告発事案は100%有罪!

2018年度版査察白書によりますと、2018年度中に一審判決が言い渡された122件の100%に有罪判決が出され、そのうち7人に対して執行猶予がつかない実刑判決が言い渡されました。
 また、すでに着手した査察事案について、同年度中に告発の可否を最終的に判断(処理)した件数は182件で、このうち検察庁に告発した件数は66.5%(告発率)にあたる121件となりました。

 査察(いわゆるマルサ)とは、大口・悪質な脱税をしている疑いのある者に対し、犯罪捜査に準じた方法で行われる特別な調査をいい、調査にあたる国税査察官には、裁判官の発する許可状を受けて事務所などの捜査をしたり、帳簿などの証拠物件を差し押さえたりする強制捜査を行う権限が与えられます。
 この査察調査は、単に免れた税金や重加算税などを納めさせるだけでなく、検察への告発を通じて刑罰を科すことを目的としております。
 刑罰とは懲役や罰金をいいますが、これまで実刑判決はなく、執行猶予と罰金刑で済んでいましたが、懲りない面々に対し、1980年に初めて実刑判決が出されて以降は、毎年実刑判決が言い渡されております。

(後編へつづく)

(注意)
 上記の記載内容は、令和元年11月8日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

《コラム》年末調整 令和2年分扶養控除等申告書

◆よく見ると年分に違いがあります
 年末調整は、給与を受ける人それぞれについて、原則毎月の給与や賞与などの支払いの際に源泉徴収した税額と、その年の給与の総額について納めなければならない年税額とを比べて、その過不足を精算する手続きです。各種「控除申告書」を経理担当者等に出すことになりますが、提出書類の中で、1枚だけ翌年分のものを渡されます。
 これはミスではなく「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」については、「来年扶養する予定の人の内容をお知らせする書類」で、提出期限が他の2枚、「給与所得者の配偶者控除等申告書」「給与所得者の保険料控除申告書」が「その年最後の給与等の支払いを受ける前日」なのに対して、「令和2年の最初の給与の支払いを受ける日の前日」となっている関係で、「提出日が1か月しか違わないので、年末調整時にまとめて出してもらおう」という計らいによってお手元に来ているのです。

◆それぞれの紙の意味
 今年の年末ベースを簡単に説明すると
①令和元年分給与所得者の保険料控除申告書:今年(2019.1~12)の保険料等を会社に教えて、所得税の計算をやり直し、年末調整で過不足金を計算するための書類
②令和元年分給与所得者の配偶者控除等申告書:今年(2019.1~12)の配偶者の合計所得を見積もって、配偶者控除・配偶者特別控除を再計算し、年末調整で過不足金を計算するための書類
③令和2年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書:来年(2020.1~12)の、給与から天引きしてもらう所得税を決めるために、来年の扶養控除対象の人数を会社に知らせるための書類となります。

◆扶養控除等申告書は変更の際は出し直し
 本来扶養の内容に変更がある場合は、年の途中でも出し直しが必要ですが、多くの方は、年末調整時の来年の扶養控除申告書で兼用します。また、2か所以上から給与を貰っている場合は、扶養控除等申告書は1か所のみ提出可能となっています。
 2か所以上から給与を貰っている場合は、確定申告が必要となります。

 

《コラム》義援金の控除と見舞金の損金算入

◆義援金はふるさと納税扱い
 今年も災害が多い年となってしまいました。被害に遭われた方へ、心よりお見舞い申し上げます。
 被災地へ寄附された方も多くいらっしゃると思いますが、寄附した全額が地方公共団体へ拠出するものについては、個人の所得や控除によって決まる上限金額以内の寄附であれば2,000円の負担で済む「ふるさと納税」扱いとなります。

◆寄附先でワンストップの可否が決まる
 個人が地方公共団体の災害対策本部や役所等に直接寄附をした場合、確定申告を用いない、寄附先が5自治体以内である場合に利用できる「ワンストップ特例制度」が利用可能です。
 日本赤十字社等が専用口座を設けて、義援金を募集して、最終的に全額が地方公共団体に拠出されるものも、ふるさと納税扱いとはなるものの、ワンストップ特例制度は利用できないので、控除を受けたい場合は、確定申告をする必要があります。
 なお、ふるさと納税扱いになる寄附に関しては、法人の場合は「国等に対する寄附金及び指定寄附金」という扱いになるため、全額損金算入となります。

◆被災した取引先に対する見舞金は?
 取引先が被災し、お見舞いのお金を出した場合は、被災前の取引関係の維持・回復を目的とするため、取引先が通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間において支出する際には、交際費等には該当せず、損金の額に算入する、となっています。
 また、見舞金だけではなく、自社の製品等の無償交換や補填、売掛金等債権の全部又は一部の免除をしたことによる損失も、交際費等には該当しません。リース等の契約で定められた従前の取引条件を変更する場合及び災害発生後に新たに行う取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様の措置となります。
 寄附等を受けた取引先では、受領した災害見舞金及び事業用資産の価額に相当する金額を益金の額に算入することに留意してください。

《コラム》ふるさと納税の自己負担が2,000円で済まない例外

◆実は複雑? ふるさと納税
 個人の所得や控除によって決まる控除上限金額以内の寄附であれば、2,000円の自己負担でお礼の品がもらえるふるさと納税。所得税や住民税が減額されるので、「上限金額以内の寄附であれば2,000円の自己負担で済む」という仕組みになっていますが、特定条件下で、どうしても2,000円の負担にならないケースもあります。

◆住宅ローンで住民税まで限界に引いている
 住宅ローン控除で所得税が0円となり、住宅ローン控除の残りを住民税から、定められている限界値まで引いている場合、ふるさと納税を確定申告した時の所得税分の減額がなくなります。所得税が0円なので「引けるものがない」、そして「住民税に移動できる枠も使い切っている」からです。
 ただし、この状態でも5か所以内の自治体への寄附かつ確定申告しない際に利用できるワンストップ特例制度を利用すると「本来所得税を引くべき金額も住民税から引く」というルールのおかげで、上限金額以内の寄附であれば2,000円の負担で済むようになります。また、確定申告すると2,000円の負担にならないと言っても、自己負担が増える金額は「本来の所得税が減額される分」になるので、割合的には小さいものになります。お礼の品の価値を考えると得になる場合がほとんどです。

◆最高の所得税率が寄附金控除で減る
 所得税は税率が段階的に上がる累進税率となっております。寄附金控除で所得税率が1段下がるような場合は、税金の減額計算は下がった税率で行われるため、所得税部分の減額が少し悪くなり、2,000円の自己負担で済まない場合があります。このケースも、ワンストップ特例を利用すれば回避が可能ですし、確定申告をしても毀損される税の軽減額より、お礼の品の価値の方が高いことが多いのです。

◆確定申告・ワンストップの選択
 ワンストップ特例を利用すれば2パターンの事例は回避できますが、逆に「上限金額以上の寄附をしてしまった場合」は、上限以上の寄附について、ワンストップ特例は所得税側の控除を考慮してくれないため、確定申告を行った方がお得となります。
 大多数の方には当てはまらない細かい事例ですが、申告方法を選べるならケースバイケースで決めた方が良い場合があります。

《コラム》所得税における所得の概念

所得税は、所得を課税の対象とする租税ですが、「所得とは何か」について明確な定義はありません。「所得」って何でしょうか。

◆制限的所得概念(所得源泉説)
 各種の勤労、事業、資産から生ずる継続的な収入から得られる所得のみを課税対象とするものです。毎年発生する経済的利得のすべてが所得を構成するのではなく、所得の範囲を限定しようとする立場であり、一時的、偶発的、恩恵的な利得は所得の範囲から除く考え方です。
 イギリスおよびヨーロッパ諸国の所得税制度は、伝統的にこの考え方に基づいていました。

◆包括的所得概念(純資産増加説)
 継続的に一定の収入源から生ずる利得のみに所得の範囲を限定せず、その発生の原因のいかんを問わず、およそ一定期間内に各人について生じた純資産の増加額がすべて所得であるとする考え方です。一時的、偶発的、恩恵的な利得も所得を構成します。
 1913年にアメリカ合衆国で作られた連邦所得税制度は、この考え方を基本的に採用しています。

◆日本の所得税法では?
 日本の所得税は、明治20年に導入されました。第二次世界大戦前は、所得の範囲は制限的に考えられていました。
 第二次世界大戦後は、シャウプ勧告などを経て、包括的な概念である今日のような制度に整備されました。

◆包括的所得概念のメリット
 この概念の採用により、必要経費の概念は従来より大幅に拡張され、雑損控除・医療費控除といった所得控除も拡充されました。租税法の金子宏教授はこの概念のメリットを次のように指摘しています。①一時的・偶発的・恩恵的利得であっても、利得者の担税力を増加させるものである限り、課税の対象とすることが公平負担の原則の要請に合致する。②すべての利得を課税の対象とし、累進税率の適用のもとにおくことが、所得税の再配分機能を高める。③所得の範囲を広く構成することによって、所得税制度の持つ景気調整機能が増大する。(金子宏『租税法』第23版)

仮想通貨「FXや株と同じ税率に」

仮想通貨の所得税法上の扱いを巡り、国内の仮想通貨の業界団体がこのほど、相次いで見直しを求める要望を提出しました。現在、仮想通貨は「雑所得」として他の所得と合算した上で最高55%の税率がかけられますが、要望では、他の所得から分離して20%の一律課税とすべきだとしています。

 日本仮想通貨交換業業界(JVCEA)と日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)が金融庁に提出した2020年度税制改正に向けた要望書では、仮想通貨取引を金融商品と位置付けた改正金融証券取引法と資金決済法が来年にも施行されることを受け、税制上でも株取引やFXといった他の金融商品と同様の扱いがされるべきだと主張しています。

 現在、仮想通貨の取引によって得た収入は所得税法上の「雑所得」として取り扱われます。そのため他の所得と合算して最高55%の税率を課されるほか、損益通算や損失の繰越控除も認められていません。一方、株やFXによる収入は、租税特別措置法で認められた特例によって他の所得から切り離され、一律20%の税率に抑えられた上で損益通算や損失の繰越控除も可能となっています。

 要望書では、同じ金融証券取引法で規制される取引でありながら、仮想通貨だけが総合課税の対象となるのは「税の中立性を損ねる」として、仮想通貨取引についても株やFXと同様の取り扱いがされるべきと訴えています。そのほか、少額の決済であれば課税対象としない少額非課税制度の導入も要望しました。

 仮想通貨を巡る税務の見直しを求める業界の頭にあるのは、過去に似た道筋をたどったFX取引の扱いです。FXも2000年代初頭には総合課税の対象でしたが、その後普及するに伴い、12年から分離課税に一本化された経緯があります。業界としては、仮想通貨がさらに普及していくためにも税制の見直しは必須だという考えです。

<情報提供:エヌピー通信社>

《コラム》10月から適用されるマイホームの特例 消費税増税と住宅関連制度

いよいよ本年10月からの消費税率引き上げが迫ってきました。税率引き上げの影響の大きい住宅については、税制上の対策だけではなく、税制以外の対策も取られています。

◆住宅についての税制上の対策措置
(1)住宅ローン控除等の拡充(所得税)
 消費税率10%の適用を受ける住宅の取得等については、令和元年10月1日から令和2年12月31日までの間に居住の用に供した場合、住宅ローン控除の適用期間が10年間から13年間に延長されます。
(2)住宅取得等資金に係る贈与税の非課税枠の拡充(贈与税)
 直系尊属からの贈与により取得した住宅取得等資金で一定の要件を満たすものについては、非課税限度額までの金額について贈与税の課税価格に算入されません。従来の非課税枠は最大1,200万円でしたが、消費税率10%の適用を受ける住宅については、非課税枠が最大3,000万円まで拡充されています。

◆税制以外の対策措置
(1)すまい給付金の拡充
 すまい給付金は、消費税率引き上げによる住宅取得者の負担を緩和するために創設した制度です。消費税率が8%に引き上げられた平成26年4月にスタートした制度で、最大30万円給付されるものでした。本年10月の消費税率10%への引き上げ後は、最大給付額が50万円まで増額されます。
 新築・中古、住宅ローンの利用の有無にかかわらず給付が受けられますが、収入(都道府県民税の所得割額)によって給付額が変わる仕組みとなっています。
(2)次世代住宅ポイント制度の創設
 次世代住宅ポイント制度とは、一定の省エネ性、耐震性、バリアフリー性能等を満たす住宅や家事負担の軽減に資する住宅の新築やリフォームをした人に対し、さまざまな商品と交換できるポイントを発行する制度です。
 住宅の新築(貸家を除く)の場合、1戸あたりに発行されるポイントの上限は35万ポイント、住宅のリフォーム(貸家を含む)の場合、1戸あたりに発行されるポイントの上限は30万ポイントです。

《コラム》選択制確定拠出年金のメリット

昨今年金で様々なニュースが流れています。社員の老後のための選択制確定拠出年金(選択制DC)についてご紹介します。

◆確定拠出年金とは
 確定拠出年金は2001年に始まった制度で、少子高齢化等の社会の変化に対応するため個人又は事業主が拠出した資金を個人が自己責任で運用し、原則60歳以降においてその結果で給付を受けられる制度です。国民年金、厚生年金のさらに上の第三階に位置づけられる年金です。確定拠出年金は個人型(iDeCo)と企業型に分かれ選択制DCは企業型に含まれます。

◆選択制確定拠出年金の良い点
 選択制DCの特徴は制度を導入するのは会社が行いますが、選択制の名前の通り利用するか否かは社員が決めます。利用する場合、社員は自分の給与から自身で設定した金額を選択制DCへ回して運用することになります。
 ①選択制DCのメリットは原則60歳まで引き出すことが出来ないため老後の生活資金形成が確実にできます。②また選択制DCへ拠出した分、給与からの社保料や所得税などの控除額が減額されます。例えば給与額が31万円で毎月積立2万円と選択制DC2万8千円を比較すると、31万円-約6万5千円(社保料、所得税)-2万円(積立)=22万5千円、31万-2万8千円(選択制DC)-5万7千円(社保料、所得税)=22万5千円と積立額は8千円の違いがありますが、月の手取金額はほぼ同じです。掛金に対して老後資金を多く積み立てられるといえます。

◆選択制確定拠出年金のデメリット
 ①運用で掛金が減額したときなどは責任を従業員本人が負い年金が減ることもありますが、定期預金等の元本が減らない使い方もあります。②原則として60歳まで引き出せません。③公的年金、失業保険、傷病手当金、育児休業給付、障害補償年金等の公的に受けられる補償額が減少します。社保料や所得税の減少が削減効果は大きいですが、障害補償年金対象者になったときは受け取れる金額が減少してしまうこともあるでしょう。
 選択制DCのメリットは社員の老後の生活資金形成の選択肢を増やせるという点です。会社は運用コストが必要になりますが、安心して働ける会社づくりの一助になるでしょう。