【時事解説】コミットメントラインの会計的メリット その2

コミットメントラインは資金繰りの安定に役立ちます。ただ、会計的には、実際の融資がなくても、融資枠に対して手数料が発生しますから、損益計算書の当期純利益は減ることが予想されます。一方、貸借対照表の資産・負債を圧縮することができます。そのメリットとデメリットをよく考えることが必要です。

 資産を圧縮できれば、総資産を分母とする各種経営指標が向上します。たとえば、自己資本比率(自己資本÷総資産)を引き上げることができるほか、当期純利益との兼ね合いにもよりますが、ROA(総資産利益率、当期純利益÷総資産)の引き上げもできるかもしれません。

 最近の上場企業は資産効率の改善に熱心ですから、コミットメントライン契約による資産・負債の圧縮メリットを強く感じることが予想されます。
 ところが、非上場企業ではそれほど経営指標にはこだわる必要はありませんから、当期純利益の下落のデメリットを強く感じるかもしれません。非上場企業に対するコミットメントラインの訴求ポイントは経営指標の改善より、万一のための資金繰りの安定という点にあると思います。

 企業にとって、コミットメントラインの最大のメリットは言うまでもなく資金繰りの安定にあります。ただ、それだけでなく、その会計的影響も考慮の上、コミットメントライン締結の判断をする必要があります。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】コミットメントラインの会計的メリット その1

銀行には「コミットメントライン」という商品があります。コミットメントラインとは企業が銀行と結ぶ融資契約枠のことです。コミットメントライン契約を結ぶと、あらかじめ契約した融資期間と融資金額の範囲内で、企業から要請があると、銀行は融資をしなければなりません。コミットメントラインの特色は、銀行は実際の融資がなくても、融資契約枠そのものに対して、手数料を取るところにあります。無論、融資を行えば、その融資金額に対して利息を取ります。考えようによっては、企業は融資枠と融資金額の両方にコストが発生しますから、単純な融資に比べて割高になるように思われます。なのに、どうしてコミットメントライン契約が利用されるのか、会計的に考えてみましょう。

 企業にとって、資金繰りは重要です。当座の資金繰りに詰まり、支払資金が不足したために、約束した期日に約束した債務が支払えなくなってしまうと、他にいくら資産があっても、倒産という事態もあり得ます。資金を遊ばせておくのは無駄ですから、できるだけ有効に使いたいとは思うのですが、万一のことを考えたら、資金繰りをギリギリにしておくのは危険です。したがって、資金繰り担当者は余裕を持った資金繰りを心がけるのが常です。

 たとえば、借入金で運転資金を調達する企業は、借入金を実際に必要とする資金より多めに借り入れて預金に預け入れておきます。その結果、必要以上に資産と負債は膨らんでしまいます。そこでコミットメントラインの出番になります。もし、コミットメントライン契約を結んでおけば、必要なときにはすぐ資金を借り入れることが可能になりますので、ギリギリまで借入金を絞り、資産と負債を圧縮することができるからです。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》中堅からベテランまでを拡充したいとき使える助成金

◆45歳以上人材の活用
 企業の人材採用が難しい時代が続いています。そうした中で中高齢者の採用は選択肢の一つとなります。特に最近では45歳以上の年齢でも転職が珍しくない時代になっており、実力のある人材を採用するチャンスも到来しています。今回は会社の核となる45歳以上の人を雇用したときに使える助成金を紹介します。

◆中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)
 「中途採用拡大コース」には「中途採用率の拡大」と「45歳以上の初採用」の2種類ありますが、45歳初採用が比較をして使いやすいでしょう。過去に45歳以上の人を中途採用したことがない会社が対象です。
 中途採用計画(1年以内の期間を定める)を作成し、計画書の申請をしておきます。その後会社として初めての雇い入れ時に45歳以上の人を1名以上雇用すると60万円、該当の人が60歳以上の人であれば70万円の助成金を受給することができます。何名採用しても良いのですが、2名以上雇用しても助成金額の増額はありません。

◆支給の要件と注意点、特徴
①過去に45歳以上の労働者を中途採用していないこと
②期間を定めていなくてもパートタイマー労働者は対象になりません。先ほど出てきた中途採用計画の期間中に45歳以上の人を期間の定めのない正社員等で採用する必要があります。
③助成金が支給決定されるまでに対象の社員が退職してしまうと支給されません。
④申請できるのは1事業所で1回
⑤助成額は大企業と中小企業で同額

◆その他の項目の重要度は?
 当該助成金は特定求職者雇用開発助成金のようにハローワークからの紹介に限定されませんし、比較的若者向け助成金が多い中、中高齢者の採用時に使える助成金です。ちょうど45歳以上あたりで会社のメインを担うような人材をこれから増やしたい、若い人もいいけれど安定感も欲しいから中高齢者がいいんだよね、といったときにピッタリでしょう。また大企業と中小企業で助成金額が変わらないので大企業で申請をしてみるのも良いでしょう。

【時事解説】無電柱化による防災効果とは その2

台風により大規模停電が発生し、注目を集めるようになった「無電柱化」。電線を地中に埋めて、電柱をなくすことで、防災が図れると期待が高まります。ただ、埋没させるには多額の費用がかかり、なかなか進んでいません。

 その中、少しずつではありますが、千葉、埼玉、神奈川などの多くの自治体で電線の地中化を進めています。特に、東京都の小池知事は2016年の都知事選で「都道電柱ゼロ」を公約に掲げ、ライフワークとして取り組み、成果も見えはじめています。具体的には、整備対象となる都道の2328キロメートルのうち、935キロメートルが電線を地中に埋めることができました。これは対象全体の40%に相当します。さらに、この先は都道だけでなく、区市町村が管理する道路でも無電柱化を進められるよう、2019年度の予算では促進するための補助をはじめています。

 最大の課題はコスト削減です。地下にはガスや上下水道などが埋設されているので、これらを避けながら電線を埋設しなければなりません。手数がかかることもあり、通常の道路工事よりもはるかに工事費が高くなります。ただ、コストの問題は解決に向かって進んでいます。現在、費用は1キロメートル当たり4~5億円かかりますが、10年後には約3分の2程度になるよう、技術革新が進んでいます。

 外国の都市では無電柱化が進んでいるところが多くあります。ロンドンやパリではすでに100%になっており、アジアでもソウルやジャカルタでは4割程度の電線が地中に埋没されています。無電柱化は防災だけでなく、景観をよくする効果もあります。多くの自治体が望む無電柱化。コストの問題にどれだけ取り組めるかがカギとなります。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】無電柱化による防災効果とは その1

台風15号、19号は日本列島に冠水や土砂崩れなど、様々な被害をもたらしました。中でも、長期にわたる大規模停電は住民の生活に影響を及ぼしました。この停電により、急速に注目を集めているのが「無電柱化」です。無電柱化とは、電線を地中に埋めて、電柱をなくすというものです。注目される理由は、停電の原因の一つが倒木などで電線が切断されたことが挙げられます。電線を地中に埋めてしまえば、倒木などによる断線を防げるので停電を回避することができます。

 また、台風で電柱が倒壊すると、停電復旧までに時間を要します。電柱をなくすことで、すみやかな災害復旧が可能になります。このほか、無電柱化は台風だけでなく、地震や竜巻などへの防災にも有効です。実際、東日本大震災では、地中に埋設させた線のほうが電柱と比べて著しく被害が少なくすんだ実績があります。

 以前から無電柱化の必要性は指摘されていました。ただ、課題が多く、それほど進んでいません。日本国内の道路は全長約120万キロメートル。このうち、無電柱化が実施された区間は約3万キロメートルにすぎません。遅々として進まない要因の一つはコストにあります。電柱を地中に埋める費用は、1キロメートル当たり4~5億円が必要だといわれています。自治体の多くは財政状況が厳しく、簡単に費用を捻出できない状態にあります。

 とはいえ、台風の被害から無電柱化を要望する声は高まりました。こうした状況下、国土交通省は自治体向けに無電柱化を促進するためのガイドラインを今年度中に作成するとも報じられています。今後の無電柱化の推進に期待ができそうです。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

 

【時事解説】中小企業における人手不足の現状と課題 その2

では、人手不足になりつつある状況下では、中小企業の労働生産性や労働環境の現状はどのようになっているのでしょうか。中小企業庁編「中小企業白書2019年版」に基づいて見ていきましょう。

 まず、労働生産性について企業規模別従業員一人当たり付加価値額の推移をみると、大企業では、リーマン・ショック後に一度落ち込んでいるものの、その後は一貫して緩やかな上昇傾向にあります。一方で中小企業では、大きな落ち込みは無いものの長らく横ばい傾向が続いており、足下では大企業との差は徐々に拡大しています。
 次に、労働環境について企業規模別の給与額の推移について見ると、中小企業の給与額は2010年以降徐々に上昇し続けているものの、大企業の給与水準との格差は埋まらずに推移しています。

 また、従業者規模別賃上げ率(一人当たり平均賃金の改定率)の推移について見ると、従業者規模が299人以下の企業の賃上げ率は、2010年頃から上昇傾向にはあるものの、それ以上の規模の企業の賃上げ率を概ね下回っており、従業者規模による格差は拡大しています。
 従業者規模別の年間休日総数の企業割合について見ると、年間休日総数が110日を超えると従業者規模の大きな順に取得割合が高くなっており、規模の小さな企業ほど有給休暇等の取得が進んでいないことがわかります。なお、企業規模別特別休暇の利用企業割合について見ると、病気休暇、リフレッシュ休暇、ボランティア休暇においては従業者規模間における差異が顕著であり、中小企業にはまだ改善の余地があることがわかります。

 このように中小企業の人手不足解消に向けては、労働生産性の向上と労働環境の改善の両方が求められるのです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】中小企業における人手不足の現状と課題 その1

少子高齢化を背景として生産年齢人口が減少していることにより、人手不足が深刻になりつつあります。以下で、中小企業庁編「中小企業白書2019年版」に基づいて、深刻化する人手不足の現状について見ていきましょう。

・有効求人倍率及び新規求人倍率について:リーマン・ショック以降緩やかに上昇し続けており、有効求人倍率は、足下では約45年ぶりの高水準、新規求人倍率は過去最高水準で推移しています。
・事業所の従業者規模別の求人数の推移について:従業者規模が29人以下の事業所に係る求人数については、30人以上の規模の大きな事業所に係る求人数と比較して2009年以降大幅に増加しています。
・従業者規模別の雇用者数の推移について:従業者規模が500人以上の事業所においては、右肩上がりで年々雇用者数を増加させている一方、29人以下の事業所は右肩下がりで推移しており、従業者規模の小さい事業所ほど新たな雇用の確保が難しくなっています。
・従業者規模別に大卒予定者の求人数及び就職希望者数の推移:就業者数299人以下の企業では、大卒予定者の求人数は足下では2015年卒から5年連続で増加している一方、就職希望者について見ると2017年卒から減少傾向にあり、求人倍率は足下の2019年卒では9.9倍と、2018年卒の6.4倍から大きく上昇しています。一方、従業者300人以上の企業についてみると、2017年卒以降は求人数の増加傾向は変わらないものの、求職者数がそれを上回って増加していることから、2019年卒の求人倍率は0.9倍と1倍を下回る結果となっています。

 以上のことから従業員規模が大きな企業に求人が集中しており、規模の小さな企業の人材確保が厳しくなっている状況が見て取れるのです。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》働く高齢者の年金増額か?

◆在職老齢年金の見直し案
 最近のニュースで働く高齢者の年金を減額する在職老齢年金制度の見直しが行われていることが発表されていました。現在、在職老齢年金は65歳以上の場合年金と賃金を合わせた金額が月収47万円を超えると年金が減額されます。これを62万円程度に引き上げ、年金減額、停止の対象者を減らす方向です。
 60歳から64歳の人は月28万円を超えると減額されることになっています。これも基準を62万円に引き上げるか、60代前半の受給開始がなくなる男性2025年、女性2030年に自動的に終了するまで現行のままでいくという案もあります。

◆70歳まで働くことを前提に
 年金財政の危機を言いながらなぜ年金増額を言うのでしょうか?
 それは働くと年金が減る仕組みが高齢者の就労を抑える可能性があること。厚労省の調査では「年金が減らないように就業時間を調整する」方が65歳から69歳でも4割近くいたことです。政府は70歳までの就労機会の確保を企業の努力義務とする方針を立てており長寿社会に備えようと考えています。保険料を納める人を増やしたい、年金受給開始を75歳まで先送りできるようにしたい、基礎年金の支払期間を40年から45年にしたいという考えがあります。高齢で働く人が増えれば年金や医療の保険料を納める社会保障の担い手も増えることになります。

◆世代間バランスも課題
 一方で制度の廃止や縮小には反対意見もあります。年金財源の厳しさが増す中で給付を増やすことへの疑問や、企業が高齢雇用者の給与を決める際その人の年金受給額を勘案して賃金を決める慣行が一般的であり裁判でも年金をもらいながらの働きは現役時より減額されることに一定の合理性があるという考え方をしています。年金を上げると会社は給与を下げるかもしれません。
 65歳以上で厚生年金の支給が停止されている人は現在36万人、受給者の1.4%です。このような高齢者は収入面では恵まれた方といえるでしょう。在職老齢年金の財源もさることながら、現役世代の将来の給付水準が下がってしまう懸念もあります。
 どこまで就労促進が実現するのか今後の動向が気になります。

《コラム》パワハラ防止法への対応はできていますか?

◆パワハラ防止法とは?
 いわゆるパワハラ防止法、「労働施策総合推進法」が2019年5月29日に成立し、大企業には2020年春にも施行される見込み(中小企業は2022年)となりました。
「雇用管理上の措置」として、事業主にパワハラ防止措置が義務づけられます。罰則はありませんが、企業名が公表されるリスクがあり、対応が求められます。
 
◆「パワハラ」の定義
 パワハラとは「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と、はじめて法的に定義されました(労働施策総合推進法第30条の2)。
 なお、優越的な関係とは、上司部下の関係だけでなく、例えば、業務経験が長い部下の新しい上司に対する悪質な言動なども、パワハラに該当する可能性があります。

◆事業主や労働者に求められること
 パワハラに対する事業主と労働者の責務が明確化され、事業主には「研修の実施その他の必要な配慮」、労働者には「パワハラへの理解を深め、他の労働者への言動に注意する努力義務」が課されることになりました(同法第30条の3)。
 つまり、事業主はパワハラに関する研修を実施し、雇用する労働者にパワハラ防止教育を行うことが必要となります。その他、相談窓口の設置や周知、就業規則の変更なども必要になります。

◆準備はお早目に
 今回、パワハラ事案も都道府県労働局による調停の対象に加わりました。
 労働者の申告を恐れて、業務上必要な指導ができなくなれば、企業活動に影響を与えます。指導をパワハラと誤解されないためにも、日頃から指導記録を残すなどの対策が望まれます。 
 パワハラ防止法への対応について、早めに準備に着手されることをお勧めします。

《コラム》台風第19号に伴う災害に関して

この度の台風19号による被害に遭われた地域・世帯の皆様に心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早い復旧をお祈りいたします。経済産業省では被災中小企業・小規模企業対策を実施しています。

◆特別相談窓口の設置
 今回の台風で災害救助法が適用された市区町村において、災害の影響により売上高等が減少している中小企業・小規模事業者を対象に、信用保証協会のセーフティネット保証4号を適用します。
※セーフティネット保証4号とは
①自然災害など突発的な事由により経営の安定に支障が生じている中小事業者へ資金供給を円滑にするため、信用保証協会が通常の保証とは別枠で100%保証を行う制度
②災害の指定基準
(1)災害の発生に起因して、多数の中小企業・小規模事業者が直接または間接的に被害を受けるおそれが生じたとして都道府県から指定の要請があった場合であって、国として指定する必要があると認めるとき
(2)災害救助法が適用された災害及び地域
③対象中小企業者
(イ)指定地域において1年以上継続して事業を行っていること。
(ロ)災害の発生に起因して、災害の影響を受けた後、原則として最近1か月の売上高が前年同月に比して20%以上減少しており、かつ、その後2か月を含む3か月間の売上高が前年同期に比して20%以上減少することが見込まれること。
④保証条件
ア 対象資金:経営安定資金
イ 限度額:無担保8千万円、普通2億円
ウ 保証人:原則第三者保証は不要

◆既往債務の返済条件緩和等の対応
 返済猶予等の既往債務の条件変更や貸し出し手続きの迅速化及び担保徴求の弾力化について、今般の災害を受けた中小企業・小規模事業者の実情に応じて対応するように要請します。

◆小規模企業共済災害時貸付の適用
 災害救助法が適用された各市区町村において被害を受けた小規模企業共済契約者に対し、中小企業基盤整備機構が原則として即日で低利で融資を行う災害時貸付を適用します。