【時事解説】中小企業成長促進法について その1

 2020年10月1日に中小企業成長促進法が施行されました。この法律は、中小企業の廃業を防ぐとともに、中小企業が積極的に事業展開を行い、成長できる環境を整備するために必要な措置を講ずるものです。以下で同法の特徴についてみていきましょう。

 1点目の特徴として、経営者保証解除スキームの拡充による事業承継の促進があげられます。具体的には、経営承継円滑化法の認定企業が事業承継する際に、経営者保証を不要とする新たな信用保証制度(経営承継借換関連保証)が新設されました。事業承継時における経営者保証が大きな課題となるなか、2020年4月よりスタートした事業承継特別保証においては、一般枠の範囲内で事業承継時に経営者保証を不要とする信用保証制度が措置されました。今回の中小企業成長促進法の施行を受けて、上記に加え、一般枠ではカバーできない融資に対して、経営者保証を不要とする信用保証の特別枠(最大2.8億円)が法律上措置されています。

 2点目の特徴として、中堅企業への成長環境の整備があげられます。これは、中小企業が、増資や従業員増加により中小企業要件から外れても、地域経済牽引事業計画の実施期間(5年以内)は、中小企業とみなす措置を講じることで、中小企業向け支援を継続するものです。

 3点目の特徴として、海外展開支援の強化があげられます。これは、海外拠点の分散化の促進など、中小企業の海外展開にかかる取組みを一層支援するため、日本公庫によるクロスボーダーローンを措置し、資金調達手段の多様化を図るものです。

 このように中小企業成長促進法の下では、上記のような支援を通して、新型コロナ危機下での事業継続と雇用維持を後押ししているのです。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》脱炭素化のためのグリーン化税制

菅首相は臨時国会の所信表明演説で、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロ(森林吸収分などを差引き後の値)とし、脱炭素社会を目指すことを宣言、再生可能エネルギーなどグリーン化投資推進を成長戦略に位置付ける方針を示しました。対応策の一つと検討されるのが、グリーン化税制(炭素税、エネルギー税、車体課税、投資減税など)です。

◆炭素税と排出量取引
 炭素税は、温室効果ガス排出量に応じて課税されます。排出量に応じた価格付け(カーボンプライシング)を行い、市場メカニズムを通じて排出量の削減をはかります。  
 カーボンプライシングには、炭素税のほかに排出量取引があります。これは、排出者に排出量の上限を定め、他の排出者との取引を認める制度です。どちらも高い削減効果が認められますが、反面、経済成長を抑制する側面もあるといわれています。
 日本では、炭素税「地球温暖化対策のための税」が導入されており、原油や石油製品など化石燃料に対して課税しているほか、東京都や埼玉県では、燃料・熱・電気の使用量の大きな事業者に対してCO2削減を義務付け、排出量取引制度が行われています。

◆エネルギー税、車体課税と投資減税
 エネルギー税は、化石燃料等の消費や、CO2を排出する車体に課税されます。揮発油税、軽油引取税など化石燃料の引取りや、自動車税など自動車の取得・所有に課税します。
 投資減税は、CO2排出量が少なく、エネルギー効率の高い設備や製品への研究開発投資に対する税額控除や、減税措置など優遇措置をとり、経済的インセンティブを高めます。これらは排出量に応じた措置でなく、削減効果は限定的といわれています。

◆グリーン化投資を新たな事業機会に
 ESGに取り組む上場企業への株式投資を促す開示制度(TCFD)も開始されており、世界は、低炭素でレジリエントな社会への転換を目指しています。
 ポストコロナ下での経済は、環境と共存できることが求められます。中小企業にとっては、グリーン化のための製品・サービス開発が新たな事業機会となるかもしれません。

 

《コラム》役員変更登記

◆役員と任期
 会社法上、役員とは取締役、監査役、会計参与となります。取締役及び会計参与の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなりますが、非公開会社は定款で定めることにより、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとすることができます。
 一方、監査役の任期は原則として選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなります。定款によって選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとすることができるのは取締役及び会計参与と同様です。
 また、任期を定款に定めることによって選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと伸ばせる非公開会社とは、定款において全ての株式に譲渡の制限が付されている株式会社のことをいいます。なお、有限会社は、譲渡の制限の定めがあるとみなされています。

◆役員の任期の実情
 公開会社であるメリットはあまりないため、上場会社であるような大きな会社を除き、新たに設立する会社のほとんどが非公開会社です。そうなると役員の任期は、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと定款で定めている会社が多いはずです。
 平成18年5月1日に会社法が施行され、非公開会社の役員の任期が、10年まで伸ばせるようになりましたが、平成18年の会社法の施行後に役員の任期を伸長した会社は、任期を伸長した定款変更から10年を経過していれば、役員の任期は満了しており、役員の変更登記をしなければなりません。平成28年で会社法の施行から10年が経過しました。よって、役員の任期も満了している会社は多いのではないでしょうか。

◆確認してみて下さい
 株主総会を開催し役員の改選を行い、役員変更登記まで完了している会社は問題ありませんが、もし気になれば、この機会に定款や任期を伸長した議事録を見返してみてはいかがでしょうか。

《コラム》企業による社会貢献活動の拡大

◆経営理念の実現に加え、社員の成長も
 経団連が9月に発表した「社会貢献活動に関するアンケート調査結果」によると、社会貢献活動の役割や意義について、回答企業の9割以上が「企業の社会的責任の一環」と回答しました。SDGsの浸透もあり、企業側の社会的責任に対する認識も定着してきています。
 そして、8割以上が社会貢献活動を「経営理念やビジョンの実現の一環」とし、「社員が社会的課題に触れて成長する機会」と回答した企業が4%から53%と、前回調査から大幅に増えていることも特徴的です。経営戦略の一部として捉え、社員の参画を重視し、それが社員の成長にもつながるという新しい視点が加わっていることがわかります。
 活動内容については、回答企業の93%が「寄付金等の資金的支援」で最も多く、「自社製品やサービスの無償提供」、「設備・施設の貸し出し」などの物的な支援が6割前後となります。社員がより深く関わっている活動としては、「技術協力、ノウハウ提供」が48%、「出向等の人材派遣」や「社員によるプロボノ支援」が3割強、「社員による寄付やボランティア活動の推進」が87%です。

◆人材の採用にも影響
 社会貢献活動は、いまいる人材の育成だけではなく、より優秀な人材の採用にも影響する可能性があります。
 2021年卒の大学生を対象とした「就活生の企業選びとSDGsに関する調査(DISCO)」によると、就職先企業に決めた理由については「社会貢献度が高い」が最も多い結果となっています。「給与・待遇が良い」や「将来性がある」を上回り、2019年卒、2020年卒と3年間続いている傾向です。
 企業の社会貢献活動は、社会からの期待の高まりにともない、長期的な視点での事業活動への影響も大きくなっていると考えられます。
 これまで取り組んでこなかったという企業も、自社の事業領域との関連、あるいは地域社会とのつながりから検討してみてはいかがでしょうか。連携先を探す場合には、地域のボランティアセンターなどの相談窓口が利用できます。

 

《コラム》「業務委託」「在籍出向」「副業」の労務管理

◆労働力の活用方法の多様化
 新型コロナウィルス感染症の影響もあり人材の動きにも影響が出ています。仕事が減った事業のある一方で人手不足の事業もあり働き方も多様化しています。
 雇用以外で仕事を受け負う形態も有り、その違いを知り企業間の労務管理や契約書を交わすことが求められるでしょう。いくつかの契約形態の例で見てみます。

1、業務委託
 自社で対応できない業務を外部に委託する契約の総称です。
 請負契約や委任契約はこの部類です。
 社員を送る側の会社(受託者)は自社の社員に命令して社員を受け入れる側の会社(委託者)から依頼された仕事を請け負います。委託者は受託者に対し、業務委託手数料を支払います。
 業務上の指示を出すのは受託者です。委託者が指示を出すといわゆる「偽装請負」とみなされ労働者派遣法の罰則に該当してしまいます。自社が委託者で業務の進め方に注文があれば受託者に話を通す必要があります。賃金、労働時間管理(委託先での労働時間を働いた人が受託先に報告)、社会保険・労働保険の適用は受託者が行います。

2、在籍出向
 在責出向は社員を送る側(出向元)との労働契約を維持したまま、受け入れる側(出向先)とも労働契約を締結して働くことです。出向を命じられた社員は出向先の指揮命令を受けて働きます。出向先が出向契約にない業務を命じる場合は都度出向元と相談が必要でしょう。
 賃金、労働時間、社会保険・労働保険の取り扱いは出向契約で決めますが、賃金は通常出向元が負担、その場合、社会保険や雇用保険は出向元で加入します。労災保険は出向先の保険を適用することが一般的です。労働時間は通常出向先で管理します。

3、副 業
 副業とは本業と掛け持ちで他の仕事をすることで本業先が自社の社員を副業先に紹介した場合は、副業先も労働契約を結びます。業務中の指示も副業先が出します。労働時間は副業先では副業先が管理します。
 時間外労働は本業と副業先と両方で働く場合、両方の労働時間を通算し法定労働時間を超えた時間が副業先(原則労働契約時期が遅い方)での支払いになります。社保加入は条件を満たせば2社の適用になり、雇用保険は賃金の多い方で加入します。

【時事解説】購買動機は内的要因が重要 その2

政府が行う経済対策でモノの値段が下がることがあっても、それに安易に乗るのは考え物だということです。モノを買うときのベースはあくまで自分自身における必要性です。必要性が先にあり、その必要性と見比べた時、採算が合うかどうかという判断をして、モノを購入するというのが手順です。モノの値段が安いから必要性を探すというのは正しい考え方ではありません。確かに政府の対策でモノの値段が下がっていれば、モノを購入しやすくなるということはあるでしょう。しかし、それはあくまで必要性があっての話です。必要性の吟味をおろそかにしたまま、モノの値段だけで安易にモノを購入しない方がいいということです。

 スーパーに行って、5%引きや10%引きの値札があるので思わず買ってしまったが、家に帰ってみたら、自分が欲しかったものではなかったという経験がある人もいるかと思います。これは内的要因を軽視して外的要因に振り回された結果です。消費行動は外的要因に左右されないことが大切です。

 本年はコロナ禍もあり、外的要因が大きく変動します。こうしたときこそ、モノを買うときには、外的要因に踊らされることなく、必要性をしっかり吟味することが必要だと思います。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】購買動機は内的要因が重要 その1

コロナ禍による消費低迷で、政府は様々な経済対策を用意します。政府の対策にどのように対応するかは重要なことですが、余りに過敏に反応しすぎるのも疑問です。

 京セラフィロソフィーで有名な稲盛和夫氏も次のように言っています。
 『京セラでは、原材料などの購買について、毎月必要なものは毎月必要な分だけ購入するようにしている。場合によっては、毎月ではなくて、毎日必要な分だけを買うようにしているケースもある。私はこれを「一升買い」と呼び、資材購入の原則としてきた。たとえ、一斗樽でまとめて買えば安くなりますよと言われても、今必要な一升だけを買うようにしてきたのである。
(中略)
使う分だけ当座買いするから、高く買ったように見えるが、社員はあるものを大切に使うようになる。余分にないから、倉庫も要らない。倉庫が要らないから、在庫管理も要らないし、在庫金利もかからない。これらのコストを通算すれば、その方がはるかに経済的である。セラミックのように腐らないものならまだしも、腐るものを扱う場合には、気がついてみたら使えなくなっていたということになりかねない。』(「稲盛和夫の実学」より)

 モノを購入する時の思考パターンを考えてみましょう。まず、自分がそのモノを必要としている状況があり、その必要性をベースに、モノの値段の妥当性を判断して、購入を決断するというのが普通です。必要性は「内的要因」、モノの値段は「外的要因」といってもいいかもしれません。稲盛氏がここで言っているのは、モノを購入するときに大切なのは外的要因ではなく、内的要因だということです。自身の必要性を十分検討することなく、モノの値段を主体にして購入を判断することは、正しい消費行動とはいえません。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】どこまで進むかブロックチェーン技術の応用 その2

 暗号通貨の中核技術を担うブロックチェーンが近年、様々な分野で応用されるようになりました。ブロックチェーンは台帳のような機能を有しています。しかも、改ざんされにくいのが特徴で、これを利用して物流システムなどに応用されています。

 なぜ、ブロックチェーンは改ざんされにくいのでしょうか。物流システムを例に説明しましょう。ブロックチェーンには情報が詰まったブロックが連なっています。そして、個々のブロックは1つ前のブロックの情報が受け継がれています。中国で生産されたものを日本で生産したことにしようと、ブロックの一部、生産地を書き換えたとしましょう。すると、受け継がれた前のブロックと、書き換えたブロックとの間で、情報の差異が生じるので改ざんが発覚します。

 また、ブロックチェーンのもう一つの特徴は、台帳の管理はマイナーと呼ばれる記帳者らが行っている点にあります。マイナーは世界中、だれでも自由に参加できます。結果、不正を働くには、世界全体、無数に存在するマイナー全員を買収しなければなりません。これでは、不正を働いてもコストが見合わないというわけです。

 ブロックチェーンの台帳の機能を利用して、ある部品メーカーでは、部品の配送や納品状況をリアルタイムで把握するシステムづくりに取り組んでいます。

 アートの世界でも活用が進んでいます。音楽や絵画などの芸術情報に関して、ブロックチェーンを用いて台帳を作成し、オンラインで作品を売買するというものです。新型コロナウイルスの影響で美術館は閉鎖、個展の開催も困難になりました。ブロックチェーン技術の活用は芸術家たちの活動の支えにもなります。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】どこまで進むかブロックチェーン技術の応用 その1

2017年、仮想通貨バブルが起こり、ビットコインをはじめとする仮想通貨の価格が短期間で何倍にも跳ね騰がりました。なかでも、ブロックチェーンは仮想通貨の中核技術として注目を集めました。ところが、2018年に入るとビットコインなどの仮想通貨はのきなみ価格が急落してしまいます。バブルがはじけるとともに、ブロックチェーンは人々の記憶から徐々に消え去りました。

 その後、仮想通貨は暗号通貨と改称されます。そして、最近では再びブロックチェーンに注目が集まるようになりました。ただ、今回は暗号通貨としてではなく、別の分野にブロックチェーン技術を応用し、新たな取り組みを生んでいます。

 もともと、ブロックチェーンの主な機能はデータを記録することにあります。取引に関する履歴を記録すれば、ブロックチェーンは台帳のような役割を果たします。そして、この台帳は流通など、多岐に渡る利用が可能なのです。また、ブロックチェーンの最大の特徴は情報が改ざんされにくい点にあります。

 これらの特徴を活かした応用例を挙げると、食品偽装防止への取り組みが挙げられます。ブロックチェーンの中には文字通りブロックが多数存在し、これらは鎖のように連なっています。ブロック上に原材料の生産から加工、出荷まで、いつ、だれが、どこで行ったかといった情報を記録します。そうすることで、生産地の偽装などが防げます。

 ブロックチェーンは物流システム以外にも、たとえばPCR検査結果の証明書を発行するためのデータ管理、従業員のコミュニケーションの記録、芸術作品の管理など、さまざまな事項に応用できます。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】中小企業におけるテレワーク導入 その2

 では、中小企業におけるテレワーク導入においては具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。そこで『中小企業白書2020年版』において、「感染症BCP」に基づきテレワークなどの感染症対策を速やかに実施した企業として紹介されたサクラファインテックジャパン株式会社(本社:従業員数170名、東京都中央区)の事例ついてみていきましょう。

 同社は、医療用機械器具の製造・販売を行う企業です。同社では2013年の風疹の流行を踏まえ、同年から会社の全額費用負担で風疹・インフルエンザワクチンの社内での集団予防接種を実施しました。
 また、事前対策だけでなく、実際に感染症が流行した場合や従業員が感染した場合にも備える必要があると考え、東京都の感染症対応力向上プロジェクトへの参加を契機に2016年に「感染症に係る業務継続計画」(「感染症BCP」)を策定しました。同計画では、感染症流行時の具体的な対応策として、従業員の衛生管理の徹底や在宅勤務(テレワーク)が有効と記載されています。

 2020年春に新型コロナウイルスの発生を受け、同社では感染症BCPに基づき、すぐに発熱者の出社禁止などの措置を開始するとともに、メール、電話会議システム、チャットアプリを活用したテレワークを推奨しました。各部門内でチームを編成し、チームごとにオフィスと自宅とで勤務場所を分けてシフトを組むことで、感染予防と業務継続の両立を図りました。さらに、働き方改革の一環として導入していた時差勤務制度を拡充し、部門ごとに通勤時間を割り振ることで、感染リスクの低減を図りました。
 このように、感染症対策への備えが、テレワークや時差勤務の拡充へとつながっていったのです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)