今月の税務トピックス② 税理士法人右山事務所 所長 宮森俊樹

(今月の税務トピックス①よりつづく)

Ⅲ 相続税・贈与税関係
1.相続又は贈与により取得した場合
 仮想通貨については、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値(決済法2⑤)」と規定されていることから、被相続人又は贈与者から相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税が課税されることとされます(問15)。
2.仮想通貨の評価方法
 仮想通貨の評価方法は、「評価方法の定めのない財産の評価(財基通5)」の規定に基づき、次のとおりとされます(問16)。
① 活発な市場が存在する仮想通貨は、相続人等の納税義務者が取引を行っている仮想通貨交換業者が公表する課税時期における取引価格によって評価することとされます。
② 活発な市場が存在しない仮想通貨は、その仮想通貨の内容、性質及び取引実態等を勘案し、個別に評価(例:売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する方法)することとされます。

おわりに
 平成30年11月21日に「仮想通貨の計算書(総平均法用)」が国税庁ホームページで公表されています。この計算書は、前述したⅡ4.の「年間取引報告書」に記載された各項目を入力(Excel)すれば簡単に所得金額を計算することができます。
 なお、平成29年分以前の確定申告において売却した仮想通貨の取得価額を移動平均法で計算されていたとしても、平成30年分以後は継続して適用をすればこの計算書によって「総平均法」で計算することもできます(問11)ので、実務上活用して下さい。

民法の改正相続法の施行は来年7月

民法の改正相続法の施行日を2019年7月とする政令が公布されました。相続制度の大幅な見直しは1980年以来約40年ぶり。従来の相続制度を大きく変える内容が多数盛り込まれ、特に配偶者の権利を拡大するものとなっています。

 配偶者に関する大きな変更はふたつで、ひとつは結婚して20年以上の夫婦間で生前贈与もしくは遺贈をした自宅を、相続の際の遺産分割の対象から除外する特例の創設です。また、配偶者が所有権を相続しなくても自宅に住み続けられる「配偶者居住権」が導入されます。この「配偶者居住権」に限っては2020年4月施行です。

 改正法では、介護などで貢献した親族の金銭要求制度も導入されます。長男の嫁など法定相続人でない人でも遺産分割の際に一定の金銭を「特別寄与料」として要求できるようになります。また、相続した預貯金のうち、生活費や葬式費用に充てる金銭に限り仮払いを受けられる制度もスタートします。

 なお、相続法改正の施行日を定める政令の交付と同日に「遺言書保管法」の施行日を20年7月10日とする政令も公布されました。この制度は法務局が自筆証書遺言の原本を保管し、相続後に遺族の請求を受けて写しを交付するもの。自宅での保管と異なり、紛失や親族による改ざん・隠匿の心配はなくなります。また保管制度を利用すると、遺言書の加除訂正の状態などの内容を家庭裁判所に確認させる手続き(検認)が不要になります。

<情報提供:エヌピー通信社>

仮想通貨の相続税申告が簡素化

国税庁は11月下旬、相続で仮想通貨を取得した時の申告方法を簡素化することを発表しました。これまで仮想通貨の相続税申告については統一された取り扱いが定められていなかったため、相続人が各交換業者のサイトにログインするなどして残高を調べるしかありませんでした。

 国税庁が定めた新たな方法では、相続で仮想通貨を得た相続人は、各交換業者に仮想通貨の残高証明書の交付を依頼できるようになります。業者は依頼に基づき、相続開始日における残高証明書や取引明細書を発行し、相続人は各業者から交付された証明書を税理士に渡すことで相続税の申告書を作成するというもの。

 また国税庁は同時に、仮想通貨の税務上の取り扱いについてのQ&Aも発表しました。仮想通貨を売却した時や交換した時、仮想通貨で給与を支払った時などの税務処理を解説しています。それによれば、相続で仮想通貨を得た時の評価方法は、市場で取引され、継続的に価格情報が提供されているようなものについては、相続発生時点での市場価格に準じます。

 一方、活発な市場が存在せず客観的な交換価値を示すデータがない仮想通貨については、「仮想通貨の内容や性質、取引実態などを勘案し、個別に評価する」としています。

<情報提供:エヌピー通信社>

《コラム》自筆証書遺言保管制度の新設と遺言書の方式緩和

◆自筆証書遺言保管制度の新設
 平成30年7月6日、法務局における遺言書の保管等に関する法律が成立し、法務局において自筆証書遺言を保管する制度が新たに設けられることとなりました。
 新たな制度では、予め保管申請しておくと、遺言者が死亡した後に相続人が法務局において、遺言書保管事実証明書及び遺言書情報証明書の交付請求、遺言書原本の閲覧請求をすることができるようになります。また、相続人の1人に遺言書情報証明書を交付した場合または遺言書の閲覧をさせた場合には、法務局から他の相続人等に遺言書が保管されている旨が通知されることになります。

◆紛失・改ざんなどのリスク
 自宅で自筆証書遺言を保管した場合、紛失・亡失の可能性がありますし、遺言書の内容によっては相続人による廃棄、隠匿、改ざんの恐れがあります。実際、その内容に不満を持った相続人が意図的に廃棄する、内容を書き換えるといったことにより相続手続きや相続税申告に支障が出るケースも見受けられます。

◆相続手続きと相続税申告をスムーズに
 相続税の申告は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています。ところが、相続財産の把握や財産分割には思いのほか時間がかかるものです。自筆証書遺言があった場合でも家庭裁判所で検認という手続きが必要になり、最低でも1か月はかかるのが現状です。保管制度を利用すると検認は不要ですし、自筆証書遺言で財産目録と遺言者の意思表示が分かりますので、相続手続きと相続税申告書作成がスムーズにできると期待されます。なお、保管制度の施行日は今後政令で定められることになりますが、施行前には法務局に遺言書の保管を申請することはできませんのでご注意ください。

◆遺言書の方式緩和
 現民法では自筆証書遺言は全文を自筆する必要がありますが、民法改正によりパソコンで作成した財産目録、通帳のコピー、登記事項証明書等の自書によらない財産目録を別途添付することが可能となります。
 財産目録には遺言者の署名押印を行うことで偽造を防止します。この改正は平成31年1月13日から施行されます。

(後編)生命保険協会:2019年度税制改正に関する要望を公表!

(前編からのつづき)

 また、企業年金保険関係では、公的年金制度を補完する企業年金制度(確定給付企業年金制度、厚生年金基金制度)及び確定拠出年金制度等の積立金に係る特別法人税の撤廃や確定給付企業年金、厚生年金基金における過去勤務債務等に対する事業主掛金等について、早期の年金財政の健全化に資する柔軟な取扱いを可能とすることを要望しております。
 さらに、企業型確定拠出年金制度における退職時の脱退一時金についての支給要件の緩和も要望しております。

 そして、生命保険契約関係では、遺族の生活資金確保のため、相互扶助の原理に基づいて支払われる死亡保険金の相続税非課税限度額について、これまでの限度額である「法定相続人数×500万円」に「配偶者分500万円+未成年の被扶養法定相続人数×500万円」を加算することを要望しております。
 その他では、生命保険業の法人事業税について、現行の課税方式を維持することなどを税制改正要望に盛り込んでおります。
 今後の税制改正の動向に注目です。

(注意)
 上記の記載内容は、平成30年9月3日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

(後編)国税庁:2017年度査察白書を公表!

(前編からのつづき)

 告発分の脱税総額は前年度を26億9,100万円下回る100億100万円、1件あたり平均の脱税額は8,900万円(同9,600万円)となりました。
 告発分を税目別にみてみますと、法人税が前年度から18件減の61件で全体の54%、脱税総額は約57億円で56%を占めました。

 所得税は同8件減の19件(脱税総額約20億円)、相続税は同1件増の3件(同約4億円)、源泉所得税は同2件増の3件(同約3億円)、消費税は同4件増の27件(同約18億円)となり、消費税の脱税額のうち約11億円は消費税受還付事案(ほ脱犯との併合事案を含む)です。
 告発件数の多かった業種・取引をみてみますと、建設業が26件(前年度30件)で最多となり、次いで不動産業が10件(同10件)、人材派遣の5件と続きました。
 なお、査察は脱税でも特に大口・悪質なものが強制調査されますが、2017年度の査察は国際事案(15件告発)や太陽光発電関連事案(7件告発)など近年の社会情勢に即した事案に対しても積極的に取り組み、多数の事案を告発しております。

(注意)
 上記の記載内容は、平成30年8月10日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

(後編)2018年度税制改正:国外財産の相続・贈与の納税義務の範囲を見直し

(前編からのつづき)

 そして、2018年度税制改正において、相続開始又は贈与の時において国外に住所を有する日本国籍を有しない者等が、国内に住所を有しないこととなった時前15年以内において、国内に住所を有していた期間の合計が10年を超える被相続人又は贈与者から相続若しくは遺贈又は贈与により取得する国外財産については、相続税又は贈与税を課さないことになりました。
 この場合の被相続人又は贈与者は、その期間引き続き日本国籍を有していなかった者であって、その相続開始又は贈与の時において国内に住所を有していないものに限ります。

 ただし、その贈与者が、国内に住所を有しないこととなった日から同日以後2年を経過する日までの間に国外財産を贈与した場合において、同日までに再び国内に住所を有することとなったときにおけるその国外財産に係る贈与税については、この限りではないとされます。
 なお、この改正は、2018年4月1日以後に相続・遺贈又は贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されますので、該当されます方はご確認ください。

(注意)
 上記の記載内容は、平成30年8月6日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

(前編)2018年度税制改正:国外財産の相続・贈与の納税義務の範囲を見直し

2017年度税制改正において、国外財産に対する相続・贈与の納税義務の範囲については、国際的租税回避行為の抑制等の観点から、相続人(受贈者)が日本に住所を有せず、日本国籍を有しない場合でも、被相続人(贈与者)が10年以内に日本に住所があったときは、国内・国外双方の財産が相続税・贈与税の課税対象になるように見直されました。
 しかし、この見直しに対する強い批判を踏まえ、2018年度税制改正において、再度見直しがされました。

 そもそも、改正は課税逃れ防止を目的としたものですが、一方で、高度外国人材の受入れ促進のため、日本国籍を有さずに、一時滞在(国内に住所がある期間が相続開始前15年以内で合計10年以下の滞在)している場合の相続・遺贈の係る相続税は、国内財産のみが課税対象とされました。
 しかし、引退後に母国に戻った外国人が死亡した場合にまで、国外財産に日本の相続税を課すのはどうなのかとの声もありました。

(後編へつづく)

(注意)
 上記の記載内容は、平成30年8月6日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

《コラム》新しい権利 配偶者終身居住権

◆新しい法定された権利の創設
 民法が改正され、配偶者終身居住権が創設されました。被相続人の配偶者が自宅に住み続けることができる権利で、高齢化が進む中、残された配偶者の住居や生活費を確保し易くする、というのが狙いです。
 子が自宅の所有権を相続し、被相続人の配偶者が終身居住権を相続する、というのが最も典型的な予想ケースとされています。
 所有権が第三者に渡っても、そのまま自宅に住み続けることができる、という排他的権利です。

◆評価額と権利の性質
 居住権の評価額は平均余命などを基に算出され、不動産の価額は、終身居住権の価額と終身居住権付不動産の価額とに分割されることになる、と法務省法制審議会民法部会で審議されていました。相続税評価額がどうなるかは未定ですが、法制審の審議を承けたものになると思われます。
 終身居住権の譲渡資産性は弱そうですが、登記されることを前提にしているので、債権でありながら、借地権のような物権的性格を強く持ちそうです。

◆所得税への影響
 相続により承継する終身居住権と終身居住権付不動産のそれぞれが、譲渡の局面に立ち至った場合は、それらの承継取得原価は、借地権と底地の関係のように、各評価額の比で按分されることにならざるを得ません。ただし、それには、借地権の法律政令の規定のような終身居住権に係る新たな規定の創設が必要です。

◆終身居住権の一身専属性
 終身居住権は一身専属権として死亡と共に消滅するものです。その自然消滅によって、終身居住権付不動産は何の制限もない不動産に生まれ変わります。その時に、終身居住権の消滅益を認識すべきか、終身居住権に対応することになる承継取得原価はどのような扱いになるか、なども必然の検討テーマになります。

◆自然消滅借地権が参考になる
 自然消滅借地権の場合は、借地権の消滅益を認識せず、借地権の取得価額は自然消滅になります。これに準ずるとすると、終身居住権の消滅益は認識せず、それに対応している取得価額も自然消滅となり、誰にも承継されません。

 

小規模宅地特例の適用要件厳格化

アパートの敷地など他人に貸すための土地は、200平方メートルを上限に、相続税を計算するにあたっての評価額を5割まで下げることができる特例の適用が可能です。資産を現金として持っているよりも相続税の負担を大きく減らせるとあって、相続税対策の定番として広く使われています。

 最新の税制改正には、相続前に〝にわか不動産業者〟となって税負担を減らすケースを特例の対象から外す見直しが盛り込まれました。改正内容は、相続開始前の3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地」は特例を適用できないというものです。

 新しいルールは、3年以内の間に厳密には新たに事業を始めたわけではなくても、適用されることがあります。例えばアパートの借り手がいなくなったため一時的に自分が住み、次の借り手が見つかった時に不動産を貸すと、その時点で「新たに事業を始めた」とみなされてしまうことになります。それが相続開始前の3年以内であれば特例を適用できません。特例の対象とするには、借り手が退去した後に自分が部屋を使うということはせず、次に住む人をすぐに募集するなど、継続して貸付事業を行っている必要があります。

 建物を建て替える時も同様で、建て替え後にオーナーが一度そこで住んでしまうと、部屋の貸し出しを再開した時点から新たに事業をスタートしたとみなされます。3年以内に相続が発生すると、相続税評価額を5割減らすことはできなくなります。

 税制改正では、貸し出し用の土地だけではなく、居住用の土地で小規模宅地特例を利用する際の条件も厳格化されました。節税策と当局の取り締まりは永遠のいたちごっこと言われますが、相続に関してもまだまだ続きそうです。
<情報提供:エヌピー通信社>