今月の税務トピックス① 税理士法人右山事務所 所長 宮森俊樹

相続税の申告書の添付書類の拡充

はじめに
 平成30年度税制改正では、納税義務者の相続税の申告書の添付書類における行政手続きコストに配慮する観点から、戸籍謄本を複写したものが添付可能とされるとともに、法定相続情報証明制度が活用できることとなりました。
 そこで、本稿では、拡充された相続税の申告書の添付書類の制度の概要と実務上の留意点について解説することとします。

Ⅰ 改正前制度の概要(相規16③)
 相続税の申告書に添付すべき書類の範囲は、①相続の開始の日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本で被相続人の全ての相続人を明らかにするもの、②被相続人に係る相続時精算課税適用者がある場合には、相続の開始の日以後に作成されたその被相続人の戸籍の附票の写しとされます。

Ⅱ 添付書類の拡充(新相規16③一)
 相続税の申告書の添付書類として提出すべき書類の範囲に、①戸籍謄本を複写したもの、②法定相続情報一覧図の写し(複写したものを含み、図形式で記載されたもののうち実子又は養子の別が記載されたもの(被相続人に養子がある場合には養子の戸籍謄本又は抄本が必要とされます)に限ります。)が追加されます。
≪図表:相続税の申告書の添付書類の拡充≫

(注)酒類等の製造業又は販売業を相続しようとする者が提出する相続申告書には、戸籍抄本を添付する必要があります。

(今月の税務トピックス②につづく)

公正証書遺言が10年で5割増

2017年に全国の公証人が作成した「公正証書遺言」の件数が11万191件に上り、07年の7万6436件に比べ5割増しになっていることが分かりました。日本公証人連合会によると、17年に作成された公正証書遺言は前々年の11 万778件に次ぐ多さで、統計をとり始めた1989年以降で2番目に多かったそうです。89年は年間4万件ほどでしたが、14年に10万件を超え、その後は高水準で推移している状況です。

 全文を自分で書く「自筆証書遺言」は、思いついたタイミングで費用を掛けずに残せるという手軽さがありますが、自分で保管するので紛失リスクがあり、また書き方を少しでも間違えればその全部が無効になるおそれがあります。

 一方、公正証書遺言は、手数料はかかるものの役場が原本を公文書として保管するので紛失リスクはほとんどなく、法務大臣が任命する法律のプロが作成するので遺言が無効になることはありません。確実に遺言内容を次世代に残せる方法として多くの人に利用されています。

 公正証書遺言を残す際に面倒な点を挙げると、証人が2人必要なことです。法律上、①未成年者、②推定相続人や財産を受け取る人、その配属者および直系血族、③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人――は公正証書遺言の証人になれないと決められています。
<情報提供:エヌピー通信社>

(前編)国税庁:2018年分の路線価を7月2日に公表へ!

国税庁は、2018年分の路線価を7月2日(月)10時から全国の国税局・税務署で公表するとしております。
 路線価とは、1月1日を評価時点に、公示価格の8割程度が目安とされ、相続税や贈与税における土地等の評価額算定の際の基準となるものです。

 2017年7月に公表された2017年分の路線価では、標準宅地の前年比の変動率の平均が前年を0.2%増となり、8年ぶりに上昇した前年分に引き続き上昇しております。
 2018年1月1日時点の公示地価は、国土交通省が同年3月に公表しましたが、全国平均(全用途)で前年比0.7%プラスと3年連続で上昇し、住宅地は+0.3%と2年連続で上昇、商業地も+1.9%と3年連続で上昇しました。

 また、地方圏の商業地平均が+0.5%と26年ぶりに上昇に転じ、全用途平均でも+0.041%とほぼ横ばいながら26年ぶりに上昇している公示地価の状況をみますと、路線価も3年連続で上昇すると予想されております。
 その昔、路線価の公表日は8月1日でしたが、2008年分から7月1日となりました。

(後編へつづく)

(注意)
 上記の記載内容は、平成30年5月18日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

《コラム》物納制度の財産順位が変更されました

◆相続税の物納制度とは
 国税は金銭で納付する事が原則ですが、相続税については延納(税金の分割払い。ただし利子がかかる)によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、納税者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として一定の相続財産による物納が認められています。
 ただし物納することのできる財産には「順位」があり、1位の財産を保有していた場合は、2位3位の財産より先に物納にあてなくてはなりません。

◆物納にあてることのできる財産順位改正
 現在の物納にあてることのできる財産順位は、
第1位 不動産・船舶・国債証券・地方債証券・上場株式等
第2位 非上場株式等
第3位 動産
となっています。平成29年4月1日から、以前は第2位だった上場株式等が第1位に格上げされています。

◆価格変動リスクを避けるための改正
 上場株式等は価格変動リスクが高く、さらに相続の遺産分割協議等が終わるまで、譲渡しにくい実態があります。上場株式等の物納が過去の財産順位第2位であると、相続時から申告期限までの10か月の間に、急激に価格が下がった場合、納税資金が確保できなくなる上に、不動産等の上位の財産があるため物納にも使用不可、という事態もありました。
 今回の改正によって、上場株式等の物納にあてることができる財産順位が1位となったため、相続時点の時価(または3か月間の平均額)が納める資産の価値としてみなされ、大幅な下落があった場合の救済措置として利用できるのです。

◆納付を困難とする金額でないと利用不可
 ただし、最初に書いた通り「延納でも納付を困難とする金額」がある場合に限り物納制度が利用可能です。納税資金がある場合は活用できない可能性が高いので、ご留意ください。

《コラム》相続税の延納制度

◆相続税は条件付きだが分割払いができる
 国税は、金銭で一括納付することが原則ですが、相続税額が10万円を超え、金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、納税者の申請によりその納付を困難とする金額を限度として、担保を提供することにより、年賦で納付することができます。
 この制度を「延納」といいますが、要件があり、担保の提供が必要であり、利子税の納付が必要となります。

◆延納の要件は?
 以下のすべての要件を満たす場合に、延納申請をすることができます。
①相続税の納期限までに、延納申請書を提出すること
②相続税額が10万円を超えること
③一度に金銭で納付することが困難な理由があること
④延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること
 ただし、④の要件は延納税額が100万円以下で、延納期間が3年以下である場合は必要ありません。

◆担保の種類は様々
 延納の担保として提供できる財産は、国債地方債社債・有価証券・土地建物立木・自動車船舶機械・財団等様々です。また、保証人の保証でもかまいません。ただし税務署が延納申請者の提供する担保が適当でないと判断すれば、その変更を求める場合があります。

◆延納期間と利子税の仕組みは複雑です
 延納期間は原則5年ですが、相続財産に占める不動産等の価額の割合や相続財産の内容により異なります。利子税の計算は、不動産等の割合によって決まる「延納利子税割合」と年によって変動する基準「延納特例基準割合」を用いているため、利率が一定ではありません。
 相続税額にもよりますが、利子税だけで高額となる場合もあるので、内容によっては銀行融資を受けて一括納付した方が有利になる可能性もあります。また、延納額を繰り上げて納付すれば支払うべき利子税は下がるので、対策を検討しましょう。

 

今月の税務トピックス② 税理士法人右山事務所 所長 宮森俊樹

(今月の税務トピックス①よりつづく)

3 純資産額の算定方法(新相令34①②)
 特定一般社団法人等の純資産額の算定は、①に掲げる金額から②に掲げる金額を控除した残額とされます。
① 被相続人の相続開始の時において特定一般社団法人等が有する財産(信託の受託者として有するもの及びその被相続人から遺贈により取得したものを除きます。)の価額(注1)の合計額(注1)財産の価額は、被相続人の相続開始の時における時価とされます。
② 次に掲げる金額(注2)の合計額
イ.特定一般社団法人等が有する債務であって被相続人の相続開始の際に現に存するもの(確実と認められるものに限るものとし、信託の受託者として有するものを除きます。)の金額
ロ.特定一般社団法人等に課される国税又は地方税であって被相続人の相続開始以前に納税義務が成立したもの(その相続の開始以前に納付すべき税額が確定したもの及びその被相続人の死亡につき課される相続税を除きます。)の額
ハ.被相続人の死亡により相続人その他の者がその被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した給与の額
ニ.被相続人の相続開始の時における特定一般社団法人等の基金の額
(注2)債務の金額は、その時の現況とされます。

Ⅲ 適用関係(平成30年度改正法附則43①⑤⑥)
 前述したⅠの改正は、平成30年4月1日以後の一般社団法人等の理事の死亡に係る相続税について適用されます。
 ただし、平成30年3月31日以前に設立された一般社団法人等については、平成33年4月1日以後のその一般社団法人等の理事の死亡に係る相続税について適用され、平成30年3月31日以前の期間は前述したⅡ1②の2分の1を超える期間に該当しないものとされます。

おわりに
 本特例により特定一般社団法人等に相続税が課税される場合には、その相続税の額から、贈与等により取得した財産について既にその特定一般社団法人等に課税された贈与税等の額が控除できることとされます(新相法66の2③,新相令34⑩)。

 

今月の税務トピックス① 税理士法人右山事務所 所長 宮森俊樹

特定一般社団法人等に対する相続税の課税の創設

はじめに
 一般社団法人等は、登記だけで簡単に設立でき、持ち分が存在しないことから、一族が支配する一般社団法人等に財産を移転した後、理事の交代によって子及び孫に支配権を移転し、その財産の承継を行ったとしても相続税が課税されませんでした。
 平成30年度税制改正では、適正・公平な課税を実現し、税制に対する国民の信頼を確保する観点から、一般社団法人等に財産を移転することによる課税逃れを防止するために同族関係者が理事の過半を占める、いわゆる特定一般社団法人に対して相続税が課税(以下「本特例」といいます。)されることとなりました。
 そこで、本稿では、本特例の概要と実務上の留意点について解説することとします。

Ⅰ 制度の概要(新相法66の2①,新相令34④)
 一般社団法人等(公益社団法人、公益財団法人、非営利型法人又は特定目的会社その他一定のものを除きま。)の理事である者(一般社団法人等の理事でなくなった日から5年を経過していない者を含みます。)が死亡した場合において、その一般社団法人等が特定一般社団法人等に該当するときは、その特定一般社団法人等が、その死亡した者(以下「被相続人」といいます。)の相続開始の時におけるその特定一般社団法人等の純資産額をその時における同族理事の数に1を加えた数で除して計算した金額に相当する金額をその被相続人から遺贈により取得したものとみなして、その特定一般社団法人等に相続税が課税されます。

Ⅱ 用語の定義
1 特定一般社団法人等の定義(新相法66の2②三)
次に掲げる要件のいずれかを満たす一般社団法人等とされます。
① 相続開始の直前における同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超えること。
② 相続開始前5年以内において、同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。

2 同族理事の定義(新相法66の2②二,新相令34③)
 一般社団法人等の理事のうち、被相続人、その配偶者又は3親等内の親族その他その被相続人と特殊の関係がある者(被相続人が会社役員となっている会社の従業員等)とされます。

(今月の税務トピックス②につづく)

《コラム》数次相続での免税措置

◆相続登記をするなら今がチャンス!?
 相続が発生した場合、新しい所有者へ所有権を移転させる相続登記を行う必要がありますが、この登記がされないことで、所有者不明の不動産が増加する事態が深刻になっています。中には、相続が発生した親の不動産について、相続登記がされないまま子も亡くなってしまうような、いわゆる数次相続が発生することもあり、なかなか相続登記が進まないという例も少なくありません。
 平成30年度の税制改正では、このような相続による土地所有権の移転登記に関する登録免許税の免税措置が設けられています。この免税措置により、個人が相続で土地を取得したにもかかわらず、その土地について所有権の移転登記をしないまま死亡してしまった場合、その個人を土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さないこととなりました。

◆1次相続での登録免許税が免税に
 たとえばAさんが所有している土地Xについて、Aさんが亡くなり、Bさんが土地Xを取得したとします。このとき、Bさん名義に所有権を移転する相続登記をしないまま、Bさんも亡くなってしまうと、その後Bさんから土地Xを相続するCさんは、AさんからBさんへの相続登記(1次相続)と、BさんからCさんへの相続登記(2次相続)を行うことになります(ただし、一部例外有)。今回の免税措置は、この例でいうAさんからBさんへの相続登記(1次相続)の登記申請について、登録免許税を免除するというものです。

◆免税措置は平成33年3月31日まで
 この免税は平成33年3月31日までの時限措置です。本来は登記申請の際、土地の固定資産税評価額に対して0.4%の税率がかかりますが、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間は免税となります。
 相続は重なると相続人が多数になり、手続きが一層煩雑になります。未了の相続登記がある場合は、この機会に整理してみてはいかがでしょうか。

(後編)国税庁:2016年分の国外財産調書の提出状況を公表!

(前編からのつづき)

 国外財産に係る所得税や相続税の課税の適正化が喫緊の課題となっていることから、納税者本人から国外財産の保有について申告を求める仕組みとして、2014年1月から施行された国外財産調書提出制度は、その年の12月31日においてその価額の合計額が5千万円を超える国外財産を有する居住者は、翌年3月15日までにその財産の種類や数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を税務署長に提出しなければなりません。

 国外財産調書は、自主的に自己の情報を記載し提出するものであることから、インセンティブ措置等が設けられております。
 具体的には、調書を期限内に提出した場合には、記載された国外財産に係る所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても加算税を5%軽減すること、調書の提出がない場合又は提出された調書に国外財産の記載がない場合、その国外財産に関して所得税の申告漏れが生じたときには加算税を5%加重すること、そして2015年からは故意の不提出や虚偽記載に対しては、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されますので、該当されます方はご確認ください。

(注意)
 上記の記載内容は、平成30年4月2日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

《コラム》法定相続情報証明制度とは

◆所有者不明の不動産が増加中
 近年、相続が発生しても新しい所有者へ所有権を移転させる相続登記が行われず、所有者不明の不動産が増加していることが社会問題になっています。この問題を解消するため、様々な取り組みが検討されていますが、昨年から始まった「法定相続情報証明制度」もそのひとつです。

◆法定相続情報証明制度とは
 被相続人が死亡し相続が発生した場合の手続きは、相続登記だけに限りません。金融機関における預貯金・有価証券の名義変更や払戻手続き、保険請求手続きなど、相続にまつわる手続きは様々です。これらの各種手続きを行うためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本など、相続関係を証明する資料一式を、手続きの都度原本で提出しなければならず、相続人にとって大きな負担になっていました。
 こうした負担を軽減し、相続登記を促進しようと始まったのが「法定相続情報証明制度」です。相続人が法務局に相続関係を証明する戸籍謄本や必要書類とともに、相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出すると、以降は、法務局がこの図の写しを戸籍上の法定相続人の証明書として発行してくれるというものです。この証明書を各種相続手続きに利用することにより、相続人や金融機関等の負担軽減につながることが期待されます。

◆今後さらなる改善の見込み
 しかしながらこの証明書、現状は被相続人の子について、実子・養子の別や続柄については基本的に記載せず「子」としてのみ表示されている点など、情報量の不足も指摘されており、現在、記載内容等の見直しが進められています。既に法務省による意見募集が終了しており、今後さらなる改善が見込まれています。
 戸籍謄本など相続関係を証明する資料一式が必要な相続手続きを、複数の機関で行う場合に、できるだけ費用をかけず、かつできるだけ短期間で行えるのがこの制度のメリットです。制度を有効活用し、相続手続きの負担をできるだけ最小限にとどめたいですね。